端末“だけ”を売るのはキャリアの仕事ではない 転売ヤー対策が重要――NTT/NTTドコモ決算会見一問一答(2022年11月編):1円端末は「基本的に反対」(3/3 ページ)
NTTが2022年度第2四半期決算を発表した。第2四半期と通期(第4四半期)の決算説明会では、NTTドコモによる決算説明会も併催される。この記事では、NTTの島田明社長と、NTTドコモの井伊基之社長の質疑のうち、モバイル通信に関連する主なやり取りを紹介する。
1円端末は「基本的に反対」
―― ARPUが下げ止まったという話ですが、「1円端末」や転売対策をどうするのかを含めて、端末の販売はどうしていくお考えですか。
井伊社長 ドコモ自体は「1円端末」を販売できる状況にはありません。(電気通信事業法の制限で)割引自体がが税別2万円までなので、iPhoneのような高価な端末は1円にはできません。ただし、2万円程度の廉価な端末なら、結構な割引もできるかもしれません。
一方で「端末をいくらで売るのか?」という点ですが、販売の末端である代理店がさらなる値引きを掛ける可能性はあります。(代理店が独自に行う値引きについては)私たちがコントロールできない部分で、代理店には「逆ざやになる(損失が出てしまう)ような値引きはしないでほしい」というお願いはできますが、「いくらで売りなさい」という指示はできません。これが実情です。
私自身としては、端末を1円で売ることには基本的に反対です。いくらお客さまを確保したいからといっても、やはり新品を中古よりも安い価格で売るのは信じられません。競争は健全に行うべきですが、残念ながら「他社がやったら(自分たちも)やる」というのを繰り返すのが業界的な1つの習慣になってしまっているので、端末価格について全体的な“歯止め”となるような取り組みが必要だと思います。
私は(携帯電話)回線と端末はセットで売るのが私共(キャリア)の仕事であって、端末だけを売るのはキャリアの仕事ではないと思っています。(国から)与えられた周波数帯をいかに有効に使って、その利便性を享受できる端末をセットで売ることが重要で、その中で合理性のあるメリットを打ち出していきたいと考えています。
ただし、昔(回線と端末がセットである前提の売り方)に戻りたいという訳でもありません。一定のルールを定めた上で、(端末の売り方の見直しを)進めるべきだと思います。この辺は公正取引委員会なり総務省なりが検討していただけると思います。
楽天モバイルの「0円」攻勢はドコモに影響を与えたのか?
―― 楽天モバイルが「月額0円から」のプランを打ち出して以降、御社に何らかの影響はあったのでしょうか。(筆者注:現在の楽天モバイルの「Rakuten UN-LIMIT VII」は月額1078円からとなっている)
井伊社長 (楽天モバイルが参入してから)ずいぶん時間がたったようにも思うのですが、市場に流動性が生まれました。そんな中、会見で言ったことがあるかもしれないのですが、(ドコモでは)ahamoの契約が伸びました。OCN モバイル ONEのような低容量のサービスへの移行が進むと思いきや、ahamoが増えたのが収穫です。
影響という観点では、料金プランや契約キャリアの見直しをする人が増えたのが大きいのかなと思います。
―― (Rakuten UN-LIMIT VIIの実質無料が終わる)10月ぐらいから「駆け込み需要」的なものはあったのでしょうか。
井伊社長 市場にはそこまで大きな影響はなかったのではないかと考えています。
デュアルSIMについてはどう考える?
―― 先ほど持株(NTT)の会見でもデュアルSIMに関する話題が出ましたが、御社としてはどうお考えでしょうか。
井伊社長 私もデュアルSIMには賛成なのですが、お客さまからすると「SIMを2枚持たなくちゃいけない」ことをどう捉えるかという問題はあるかと思います。
背に腹はかえられない部分もありますし、特に法人のお客さまにはデュアルSIMで端末を提供する取り組みは始めています。個人のお客さまについては選択制になると思いますので、(デュアルSIMの1枚として)選ばれるようになりたいなと考えています。
先ほどの会見ではローミングの話も出てきましたが、1つのこと(ローミング)だけで全てを解決できるわけではありません。IoTでは(緊急時対策を兼ねて)初めから複数キャリアのSIMカードを組み込んだサービスを用意していて、どちらかが止まってもバックアップのキャリアで通信できるようにできますが、それでもダメな場合にローミングという手法が出てくるものだと思っています。
NTTコミュニケーションズでは10月から、IoTデバイス向けに「IoT Connect Mobile Type S」を活用したモバイル回線の冗長化サービスを提供している。サブ回線としてドコモ“以外”のキャリアを利用しやすくなる(参考リンク)
―― 個人でBCPを考えた場合に、デュアルSIMを使う上で気になるのが料金プランです。個人のバックアップ回線として使う場合に最適な料金プランを新設するなどのお考えはないのでしょうか。
井伊社長 そのような料金プランは考えていません。現行プランでも既に選択肢はありますし、(比較的価格が手頃な)MVNOという選択肢もあります。弊社として、すぐに新しいメニュー(料金プラン)を出す必要はないと考えています。
ただ今後、そういう流れも出てくるかもしれません。お客さまの用途で「緊急時でも高速なデータ通信を使いたい」となれば、そのレベルに合わせたデュアルSIM(用のプラン)が必要になる可能性はありますし、「ひとまず電話やチャット、メールができればいい」というのであれば、大容量のSIM(プラン)はいらないと思います。選択肢があることが大事なのかなと思います。
私たちからすると、仕事の都合で大容量を使わざるを得ないという人を救えないと、企業にも影響が出ます。大企業だけでなく、中小企業や個人事業主の皆さんにも訴求していく必要もあるかもしれません。
ただし、(現時点では)メニューとしては考えていません。
「iD」はどうするの?
―― 最近、スマートライフ事業における決済サービスの話では「d払い」ばかり出てきます。一方で、御社は決済プラットフォームとして「iD(アイディー)」を持っているものの、それについて決算説明会などで語られることは全くありません。今後、御社はiDをどうしていきたいのでしょうか。
井伊社長 鋭い質問、ありがとうございます。もちろん、iDは今後も続けていきます。ただし、iDが今後の収益にどれだけ貢献するかという面でいうと、難しい面があるのも事実です。
私としては(d払いとiDは)選択肢の問題だと思っています。単純にもうかっている(もうかりやすい)方に寄せてしまう考え方は取りたくありません。現状でもiDは多くのお客さまに使っていただいていますし、(d払いでは満たせない)ニーズもあります。
現状では「iDをどうするか?」という強い方針は(あえて)打ち出さないというのが正直な所です。
ドコモのFeliCaベースの決済プラットフォームである「iD」は、後払いできる(クレジットカードタイプの)非接触決済としては国内で利用できる場所が多いことが特徴である。しかし、最近はプラットフォーマーであるドコモがiDをプッシュする場面が減っている
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