楽天モバイルの“0円廃止”がもたらした「ユーザー流出」と「収益改善」 黒字化の勝算は?:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
1GB以下無料の廃止で収入増が実現しつつある楽天モバイルだが、基地局への投資コストも一巡しつつある。収益の増加と費用の減少の両輪を回し、2023年の黒字化を目指すのが同社の戦略だ。また、総務省のタスクフォースから出された報告書案を受け、プラチナバンド獲得の公算も高まっている。
楽天グループが、11日に第3四半期の決算を発表した。5月に1GB以下0円を廃止した新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」を発表して以降、ユーザーの流出が続いていた楽天モバイルだが、移行措置のキャッシュバックは8月に、ポイントバックは10月に終了した。契約者数を一定程度維持しつつ、“有料”に持ち込めるかは1つの焦点だった。11日の決算説明会は、その答え合わせができる場だったといえる。同社が初めて公開したARPU(1ユーザーからの平均収入)からも、その動向をうかがうことができる。
1GB以下無料の廃止で収入増が実現しつつある楽天モバイルだが、基地局への投資コストも一巡しつつある。収益の増加と費用の減少の両輪を回し、2023年の黒字化を目指すのが同社の戦略だ。また、総務省のタスクフォースから出された報告書案を受け、プラチナバンド獲得の公算も高まっている。ここでは、0円廃止後の楽天モバイルが取る戦略を読み解いていきたい。
0円廃止でユーザー数は減少、一方でARPUは向上
5月に発表されたUN-LIMIT VIIで1GB以下0円の廃止を打ち出して以降、楽天モバイルの契約者は減少を続けている。契約者数の推移を見ると、その様子が分かりやすい。UN-LIMIT VIIを発表した5月に契約者の減少が始まり、サービス開始直前の6月にその谷が大きくなっている。7月は純減を抑えられたものの、8月には再び減少幅が顕著になった。これは、1GB以下のユーザーに対する1078円のキャッシュバックが8月いっぱいで終わったためだろう。
9月の契約者数は8月からほぼ横ばいだが、わずかに減少。楽天モバイルの自社回線は、ユーザー数が455万まで低下した。第1四半期には491万契約まで伸ばしていたため、そこから36万契約ほど失った格好だ。半年で1割弱、契約者が減少したのは異例といえる。10月は同社の第4四半期になるため、データは公開されていないが、楽天ポイントでのポイントバックも同月で終わるため、契約者はさらに減少している可能性が高い。複数のMNOやMVNO関係者が、「10月はMNPでの獲得が伸びた」と語っていることも、これを裏づける。
一方で、楽天モバイルに残ったユーザーも多かった。グラフの軸がないため、正確な数値は不明だが、4月時点では半数以上が無料で済ませていた。UN-LIMIT VIIの発表や導入で、この割合が急減するかと思いきや、8月時点でも4割弱の無料ユーザーが残っている。そのユーザー数をほぼ維持したまま、9月には全ユーザーが有料になった。この急激な有料ユーザーの割合増加が収入に与える影響は大きい。
また、最後の移行措置であるポイントバックが10月31日で終わり、契約者数も増加に転じているようだ。楽天モバイルのCEO、タレック・アミン氏によると、「11月はUN-LIMIT VII発表前まで(純増数が)上がってきている」という。11月はまだ11日しかたっていないものの、新規契約者数が解約者数を上回っていることがうかがえる。残ったユーザーと同様、新たに獲得したユーザーも最低1078円は支払うため、楽天モバイルの収入は確実に増加する。
こうした効果を反映しているのが、楽天モバイルの売上だ。UN-LIMIT VII発表前の第1四半期は、MNOの売上高が118億1700万円だったのに対し、UN-LIMIT VII導入後の第3四半期は205億6700万円を記録。ユーザー数は減少した一方で、売上高は大きく伸びている。内訳を見ると、音声通話やオプションはほぼ横ばいか微増なのに対し、データ通信料収入の拡大幅が大きい。
初めて公開したARPUからも、その傾向がつかめる。1273円だった第2四半期のARPUは、UN-LIMIT VII導入後の第3四半期に1472円まで上昇。9月から、100%のユーザーから料金を取れるようになった結果、ユーザー1人あたりからの収入も伸ばせたことが分かる。音声通話のARPUや、オプションのARPUが上昇傾向にあるのは、同社の回線をメインで使うユーザーが増えている証拠だ。アミン氏によると、「オプションの付帯率も増加している」という。こうした収入の増加が、1GB以下0円を廃止した効果といえそうだ。
関連記事
楽天モバイルの契約数、455万に 6月末時点から22万減
楽天モバイルは2022年9月末時点のMNOとMVNOを合計した契約数(暫定値)を518万と公表した。内訳はMNOが455万、MVNOが63万となっている。MNO契約数の減少は新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」によるものと考えられる。楽天モバイル、2024年3月に「プラチナバンド」運用開始を目指す
楽天モバイルが、2024年3月からプラチナバンドの運用を目指す意向を示した。プラチナバンドの再割り当てについては、11月8日に総務省が報告書を開示。移行スケジュールは再割り当てから5年を目安とし、移行費用は原則として既存免許人が負担することが適当との考えを示していた。楽天モバイル、エリアカバー率「2024年以降に100%」目指す プラチナバンドや衛星通信などを駆使【訂正】
楽天モバイルはエリア展開の目標について明らかにした。エリアカバー率について楽天モバイルは「2024年以降に100%を目指す」としている。プラチナバンドや衛星通信などを駆使するという。「プラチナバンド」獲得に自信を見せる楽天モバイル それでも課題が山積の理由
楽天モバイルに対するプラチナバンド割り当てる際の議論が、ユーザーを巻き込んで物議をかもしている。電波法の改正により、特定のケースで、各キャリアが現在利用中の周波数を手放すことを余儀なくされる。一方で、再編に伴う期間や費用負担に関しては、楽天モバイルと既存事業者3社の意見が平行線をたどっている。「0円」で集めたユーザーを手放した楽天モバイル プラン改定の功罪を読み解く
0円からスタートする「Rakuten UN-LIMIT VI」の廃止により、楽天モバイルからユーザーが大量に流出していることが明らかになった。解約数は新規加入者数を大きく上回っており、四半期ごとの契約者数は、MVNOも合わせると22万の純減だが、楽天モバイルにとっては、これは必ずしも悪い話ではない。料金を毎月払うユーザーの比率が高まり、経営状況が大きく改善するからだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.