「MVNOが停滞している」データのカラクリ 今、格安スマホ市場で何が起きているのか(1/3 ページ)
MMD研究所は4月6日、「MVNO市場の“今まで”と“これから”の話をしよう」と題したイベントを開催した。コンシューマーのMVNO回線シェアは2019年から2020年をピークに下がっているが、実は「カラクリがある」という。パネルディスカッションでは、コロナ禍以降の動向や副回線サービスについての見解も話し合われた。
MMD研究所は4月6日、「MVNO市場の“今まで”と“これから”の話をしよう」と題したイベントを開催した。MMD研究所の2023年最新の調査データを公表した後、mineo、イオンモバイル、NUROモバイルのMVNO3者の事業責任者を交えたパネルディスカッションも実施した。
メイン回線、サブ回線でシェアを調査
まずMVNO市場動向について、MMD研究所が2023年2月に3万6560人に対してアンケート調査し、3月に発表したデータを、MMD研究所 代表責任者の吉本浩司氏が説明した。
ドコモ、ahamo、au、povo、UQ mobile、ソフトバンク、LINEMO、Y!mobile、楽天モバイル、MVNOの中からメイン回線の通信キャリアを尋ねたところ、MVNOのシェアは9.7%だった。シェアが伸びているのはサブブランドで、「特にこの1年間、半年間で伸びているのはUQ mobileとY!mobile」だという。
ahamo、povo、LINEMOのオンライン専用プランも「しっかりシェアを伸ばしている」が、楽天モバイルに関しては0円廃止後、伸びが止まった。その後、落ち着きを見せて契約数も伸びているようだが、シェアとして見るとスコアを落としている。
MVNOのシェア9.7%の内訳を見ると、楽天モバイルのMVNOがシェアトップを維持していたが、今回の調査でOCN モバイル ONEがシェアトップになった。以降、mineo、IIJmio、イオンモバイルという順位だ。なお、総務省が出しているデータではIIJmioがシェア1位だ。それと異なっているのは、MMD研究所の調査では「アンケートで、メインで利用している回線を選択してもらっているため」だという。
2022年に起きたKDDIの通信障害以降、サブ回線の注目も高まっているとして、サブ回線の通信サービスシェアも調査している。3万6560人のうち、サブ回線を持っている人は3294人と約1割程度だった。
サブ回線はMVNOのシェアが高く17.7%。「以前はRakuten UN-LIMITが強かったが、0円を廃止してから落ち着いた」という。povoの割合も高く、メイン回線では2.4%だがサブ回線になると7.4%とahamoよりも高い。「恐らく楽天モバイル(を解約した人)の受け皿になっている」と吉本氏は分析している。
とはいってもMNO4社の寡占状態はここ1年間で変わらない。各社のメインブランド・サブブランド・オンライン専用ブランドを合わせたシェアは、ドコモが34.6%から34.4%、KDDIは26.4%から26.7%、ソフトバンクは22.5%から21.8%、楽天モバイルは9.5%から9.0%。全て合わせると92.0%から91.9%と1年前とほとんど変わっていない。
ただ、細かく見ていくと、メインブランド(ドコモ、au、ソフトバンク、MNOの楽天モバイル)のシェアは落ちている。その分、オンライン専用プランとサブブランドの数字が上がっている。
「MVNOの伸びが落ちてきている」のは本当か
MMD研究所はMVNOのシェアも調査している。吉本氏は「よくある論調として」と前置きしつつ、コンシューマーのMVNO回線シェアは2019年から2020年をピークに下がっており、最近は横ばい、あるいは微減。その代わりIoTやB2Bが伸びていることを、グラフを示しながら説明した。ただ、これには「実はカラクリがある」という。
2020年に数字が下がっている理由の1つは、当時、UQ mobileがMVNOとして計算されていたため。2020年10月にKDDIに吸収されたので、それ以降、調査会社はUQ mobileの数値をMNOのデータに含めるようになった。「MVNOのシェアが下がったというのは正しいが、UQ mobileをMVNOから外してMNOに記録を変えたのが実情」だ。
もし、UQ mobileを継続してMVNOに含めていたとしたら、グラフは下図のようにやや上向きになる。
もう1つの要因は楽天モバイルがMNOとして携帯電話事業に参入したこと。MVNOの楽天モバイルはそのままMVNOとしてカウントされているが、MNOに移行したユーザーが多かったため、MVNOのシェアが下がった要因になっている。
仮に、MNOの楽天モバイル、サブブランドのY!mobileを「格安スマホ」としてMVNOのシェアに加えると、下図のグラフになる。
さらに、オンライン専用プランを「低料金プラン」としてMVNO、サブブランドと同じカテゴリーと考え、ahamo、povo、LINEMOの数値を加えると、下図のようになる。
MVNOだけで見ると、純減あるいは横ばいになっているのは事実だが、「ユーザーは『MVNOだから選ぶ』という風には考えていない。ドコモ、au、ソフトバンクというメインブランドから『安い通信に変えたい』というユーザーのニーズは実は落ちていない」と吉本氏は分析している。
なお、大手3社のメインブランドと低価格ブランドで分けたシェアをグラフにしたものが下図となる。2014年は大手3ブランドが98.4%と圧倒的に高いシェアを持っていたが、23年時点では60%を切っている。逆転はしていないものの、かなり変わってきたことが分かる。
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