日本で5Gのメリットが得られない本当の理由 “新時代”で期待されるMVNOの役割とは:モバイルフォーラム2023(1/2 ページ)
「競争と協調」「日本の5G再興」「MVNO新時代」という3つのテーマでディスカッションを実施。日本で5Gのメリットが薄いのは「4Gを頑張りすぎた」からとの指摘が挙がった。一般消費者向けのMVNOサービスが曲がり角に来ている中で、どんな役割が期待されているのか。
テレコムサービス協会MVNO委員会が開催した「モバイルフォーラム2023」でパネルディスカッションを実施。「『競争と協調』『5G再興』新時代に求められるMVNOの役割とは?」と題して、「競争と協調」「日本の5G再興」「MVNO新時代」という3つのテーマでディスカッションした。
ディスカッションでは過去の流れと現在の状況、そこから見える未来への課題という視点で、中長期的なMVNOのあるべき姿を探った。
今回は「日本の5G再興」「MVNO新時代」という2テーマのディスカッションについてお伝えする。
パネリストは左から、テレコムサービス協会 MVNO委員会委員長でインターネットイニシアティブ 常務取締役 島上純一氏、スマートフォン/ケータイジャーナリスト 石野純也氏、スマートフォン/ケータイジャーナリスト 石川温氏、野村総合研究所 パートナー 北俊一氏の4人。モデレーターは日経クロステック先端技術 副編集長 堀越功氏が務めた
日本で5Gのメリットが薄いのは「4Gを頑張りすぎた」から?
2020年に大手3社が日本国内で5Gを商用化してから3年がたった。しかし、5Gのメリットを十分実感できる機会が少ないと堀越氏は指摘する。「外資系ベンダーさんから、『4Gのときはあれだけ進んでいた日本が、5Gでは近隣諸国に比べても、なぜこんなに出遅れたのか』と言われる」という。5G SAが本格化した後に、日本の5Gが再興し世界で存在感を示すためにどうしたらいいのかを話し合った。
5Gのメリットが得られていないという堀越氏の認識に、石野氏も「全面的に同意見」。先日のMWC Barcelona 2023での体験として、バルセロナでスピードテストをしたところ、4Gだと10〜20数Mbps、5Gだと3桁Mbpsになり、「このくらいの速度差があると、5GではスマートフォンでWebの表示がワンテンポ速かったりアプリの読み込みがすごくスムーズだったりして、メリットを体感しやすい」と紹介した。一方、日本は4Gのエリアが広く、キャリアアグリゲーションのおかげで4Gでも最高速度が1Gbpsを大きく超えている。
「こういうところが5Gで日本が出遅れた理由でもあり、『日本でそこまで5Gが必要なのか』と言われちゃった理由でもあるのかなと思います。また、5Gに割り当てられた周波数が衛星と干渉するのでエリアを広げにくいというテクニカルな側面もあって、若干出遅れ感がある印象は強く持っています」(石野氏)
堀越氏も「日本は4Gを頑張りすぎてしまった。4Gで何ら不便のない世界ができ上がっていたので、逆に5Gとの差を出すのが難しくなっている側面がある」と、石野氏の意見に同意した。
石川氏は、「LTEの父」と呼ばれ、2023年から国際電気通信連合(ITU)電気通信標準化局長に就任した尾上誠蔵氏の「(モバイル通信は)偶数世代のみ大成功の法則」を挙げ、現状は厳しいが、6Gで花開くと予想した。また、MWCでは5Gのユースケースやマネタイズ事例の展示が多かったことを話し、「世界で5Gのエリアは広がっていますが、5Gを生かしてマネタイズすることは世界中で悩んでいる。日本だけの問題ではない」とした。
堀越氏は「偶数世代のみ大成功の法則は、6Gで外れるのではないかと思っている」という。2Gはメッセージ、4Gはスマートフォンと分かりやすい成功事例があったが、6Gは「単純なユースケースにならない」という考えだ。
北氏は「私も含めて5Gに対する期待値を上げすぎた」と振り返った。「日本は4G LTEが素晴らし過ぎ」、課題解決のソリューションで5Gを勧めても4Gで事足りるケースが多いという。5Gのインフラ整備と端末の普及、ユースケースの開拓が鶏と卵の関係のように三すくみ状態になっていると指摘する。
「基地局ベンダーさんはインフラ整備、端末メーカーさんは端末の普及が必要だと言う。ではキャリアさんはどうかというと、日本の場合、官邸圧力による通信料金の値下げタイミングと一致してしまった。また、5Gのデモンステーションの最大の場であった東京オリンピックが延期されて出ばなをくじかれてしまった。ちょっとタイミングが悪かった部分もあります」(北氏)
そうした中、通信速度ランキングで日本の順位が下位になるケースがあることを挙げ、日本のグローバルでのポジションが下がったという話につながることを懸念。5Gが使えるエリアを確保して三すくみ状態を打破するために、国の支援が必要と提言した。そして、5G時代は「世界の最先端グループから日本が落ちずに踏ん張って頑張っていく10年」になると予想。しかし、北氏は偶数世代のみ大成功の法則に賛同しており、Beyond 5G、6Gで花開くと期待する。また、そのときのデバイスはウェアラブルや眼鏡型端末になると語っていた。
日本はO-RANで存在感を出せるか
5Gも含め、情報通信産業で日本は世界では存在感を示せないでいる。しかし今回のMWCでは、複数のベンダーの機器を組み合わせる「O-RAN」の動きで日本勢は目立っていた印象もあった。O-RANで日本は盛り返せるかと問われた石川氏は「うまくいけば潮目は変わってくる」と期待する。
「過去に、日本の基地局設備は高品質だが高額なため売れず、世界進出に失敗したという経験があります。今回もその恐れがないかと質問したら、日本メーカーの基地局設備は省電力性の高さが注目され、選ばれつつあるということでした。富士通、NECあたりに頑張ってもらいたいと思うし、それによって世界での競争力上がってくるといい」(石川氏)
MWC会期中には、ドコモがO-RANのノウハウを世界に向けて販売するためのブランド「OREX」を発表。また、楽天シンフォニーがイベントを開催し、O-RANに対応した機器で構築された楽天モバイルの仮想化ネットワークをアピールした。石野氏は「海外進出のビジネスモデルの1つになる」ことを期待する。
「ドコモはもともとマルチベンダー体制で、(OREXは)そのノウハウがない海外キャリアに『ドコモが面倒を見ますよ』というビジネスモデル。楽天もゼロベースで完全仮想化ネットワークをO-RANで組んで、そのネットワーク運用のノウハウやソフトウェア、プラットフォームを海外に売っていく。どちらも合理的だと思いました」(石野氏)
石野氏は「楽天モバイルよりも楽天シンフォニーに可能性を感じる」との見解。実際、楽天の三木谷氏は楽天シンフォニーをAmazonにおけるAWSのような関係にしたいと考えているようだ。石川氏は「楽天シンフォニーが頑張らないと楽天モバイルが大変になる」と語っており、楽天シンフォニーが得ている受注残高約4500億円を早期に計上することが重要との認識だ。
一方、5GによってMVNOにチャンスは生まれているのか。島上氏は「5G NSAでは何かが劇的に変わることはないでしょう」と語っている。ただ、インフラの重要性は認識しており、「MNOのみなさんには5Gエリアを広げて、他国に負けないようなインフラを作っていただきたい」と要望した。
「5G SAの導入をどんどん進めるべき。そのときにイコールフッティングでMVNOに5G SAを使わせていただきたい。いろいろなプレーヤーがいれば、いろいろなことを考える人たちが出てくる。その中で産業、文化が発展していくと思います」(島上氏)
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