シャープに聞く「AQUOS sense8」ヒットの理由 ブレない“ちょうどいい”のコンセプト(2/3 ページ)
シャープの「AQUOS sense8」が好調だ。取り扱うキャリアのオンラインショップでも売れ筋になっている。オープンマーケット版はMVNO各社が取り扱っているが、中には入荷後、すぐに完売してしまう事業者もあるほどだ。海外メーカーも含め、ミッドレンジモデルの市場が激戦区になっている中、シャープはなぜこの分野で勝ち残れているのか。
パフォーマンスと価格を考えるとSnapdragon 6 Gen 1がベストだった
―― そのSnapdragon 6 Gen 1ですが、もう1つ上にSnapdragon 7シリーズがあります。パフォーマンスを踏まえれば7でもよかったと思いますが、なぜ6なのでしょうか。
中江氏 そうなると、お値段も上がってしまいます。その差はけっこう大きい。パフォーマンスを上げたいのと同時に、カメラの画質をよくしたいという狙いはありましたが、その上で6万円前後という価格帯を両立させようとすると、Snapdragon 6 Gen 1はベストな選択肢でした。
ただ、ここはだいぶ内部でももめたところです。やはり、Snapdragon 7にした方がいいんじゃないかという意見はありました。一方で、価値を届ける上でオーバースペックになってはいけない。ユーザーのお支払いする対価が上がってしまうので、ちょうどいいのコンセプトがブレずにやるにはどうすればいいのかを考えました。
―― とはいえ、ミドルレンジと言えば「Snapdragon 695」というような状況が長く続いたので、Snapdragon 6 Gen 1を採用したのは新鮮でした。
中江氏 CPU、GPUの性能もだいぶ上がっていて、ISPに関してはSnapdragon 7シリーズとほぼ同等です。ISPはもっと上のものもありますが、今回やりたかったことはこれで実現できました。世界的に見ると、あまり多く使われていないチップセットですが、みんなSnapdragon 7に行ってしまう中で、あえてSnapdragon 6 Gen 1で戦う決断をしています。賛否両論ありましたが、今回はこの選択がいい方に転んだと思っています。
タッチパネルの追従性も改善 「フワッ」から「ピタッ」に
―― タッチパネルへの追従感が高くなっていますが、これはチップセットだけではなく、ディスプレイのリフレッシュレートも効いているのでしょうか。
中江氏 ディスプレイも90Hzに対応していますが、それと合わせて、Snapdragon 6 Gen 1の採用に合わせてチューニングの味付けも変えています。具体的には、追従性をよくしています。そういった取り組みの中で、使っていて違和感のない印象を与えることができます。
―― 確かに、以前のシャープ端末は少しフワッとした動きというか、慣性が働くような動きをしていました。一方で、AQUOS sense8は、キビキビと動いてピタッと止まるような動き方をします。
中江氏 お客さまもだいぶ慣れてきたことがあり、サッと操作する。それに合わせた方がいいという判断です。冗長性を持たせた滑らかさがあってもいいのですが、今回はキビキビしながら、一方で速くしすぎないような感じにパラメーターをチューニングしています。ここは、日々、市場の動向を見ながら最適化する作業をしています。
―― どちらかといえば、海外メーカー製の端末はこういった動き方をしていた印象があります。
中江氏 それも理由にあり、海外展開をしていく上では、やはりグローバルに好まれる動き方にキャッチアップしていかなければいけないという考えがありました。
―― そこが台湾やインドネシアでの展開と結びついていたんですね。
中江氏 お客さまのニーズのレンジが広がることで、多様性が出てきて、われわれの考えるちょうどいいも変わってきます。(動きの変更も)その中で出てきた意見です。味付けとしてどれが正解というわけではないのですが、今はこちらの方が大多数を占めていますから。今後のOSバージョンアップで、この部分はさらに洗練させていきます。
台湾でもAQUOS sense8は好評 インドネシアでもAQUOSブランドの浸透を目指す
―― 海外市場での手応えはいかがですか。
中江氏 台湾は1年間ブランド認知度向上を頑張った結果、そこが上がってきました。具体的な数値は差し控えますが、数字として向上しています。認知度と販売量は別ですが、認知度がないと気づいてすらもらえません。ここは戦略通りです。また、遠伝電信(ファーイーストン)というキャリアのショップにもAQUOS sense8が入り、母数が小さいところからドカンと売り上げが伸びました。その意味で、昨年(2023年)は飛躍の年でした。ここからは、台湾のお客さまに届く位置にスマホが置かれるよう、アクセサリーだったり、パッケージだったりでブランディングしながら、手に取っていただけるようにしたいですね。
一方で、インドネシアはまだまだこれからです。インドネシアはまだ5Gへの移行が進んでいないので、4Gのスマホを使う方がほとんどです。ただし、次の5年で一気に成長するとも言われています。ですから、ここでは今すぐ頑張ってドンと数を増やすより、来るべき大爆発に備えてAQUOSというブランドを浸透させようとしている段階です。
―― 東南アジアには、中国メーカーも多数参入しています。AQUOS senseにとっては激戦区ではないでしょうか。
中江氏 どちらかというと、AQUOS senseというより、うちでいえばAQUOS wishのような下のラインが売れています。AQUOS senseだと、むしろ高級モデルと見なされます。確かに、同じようなスペックだとちょっと安い中国メーカーが強いのですが、防水やMIL規格をうたっているところはありません。ここが価格差になっている。それもあり、丈夫で安心して使えるというブランディングは、一貫してやっています。これがうまくハマってくれればいいなと思います。
日本文化とまではいいませんが、日本的な考え方をブランディングして新たなニーズを生み出せるような活動をしていきたいですね。同じ土俵だとやはり中国メーカーは強い。いいものも作っているので、質実剛健という印象を持たせるためにも、MIL規格はブランドイメージとしてつけていきたいと考えています。
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