インタビュー

「AQUOS sense10」開発者インタビュー:あえて変えなかったデザイン、進化した「電池」「カメラ」「スピーカー」の秘密(2/3 ページ)

ミッドレンジモデルの大本命ともいえるシャープの「AQUOS sense10」が、2025年11月13日に発売された。先代モデルである「AQUOS sense9」から踏襲したが、単なるマイナーチェンジではない理由がある。パッと見では違いが分からないカメラの進化や、電話が便利になる新機能の狙いも聞いた。

※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

電池持ちを重視してSnapdragon 7s Gen 3を採用

―― 中身を変えつつも、マイクの位置などをそろえるのはやはり難しかったのでしょうか。

小野氏 中の構造物がまったく一緒なら簡単なのですが、今回はスピーカーボックスを新しくするなど、中身の構造が違うところがあります。AQUOS sense9に合わせる条件で詰め込んでいかなければならないのは、難しかったところですね。

―― その意味だと、全体的にスペックもかなり変わっています。

advertisement

小野氏 1つ目として、チップセットが変わりました。搭載しているのは「Snapdragon 7s Gen 3」で世代が1つ上がっただけではありますが、スペックが大きく上がり、CPUで20%、GPUでは40%も処理能力が向上しています。ただ、このチップセットを選んだのは、(処理能力というよりも)AQUOS senseシリーズを選ぶお客さまが電池の持ちを非常に重視しているからです。省電力性能が13%程度向上しているのが、このチップセットを選んだ理由です。

 あまり使わなくなった数値ではありますが、連続待受時間や連続通話時間で言えば、2割ほどアップしています。20%アップは、大きな進化ですよね。


AQUOS sense10の主なスペック。バッテリーの持ち時間も向上している

―― 省電力性能が13%向上したのに、実際には20%アップというのはどういう理屈でしょうか。

小野氏 チップセット自体の向上もありますが、端末を実際に使う際にはクロック周波数を落とすことがあり、それらを加味した実測値で2割ほど電池の持ちが向上しています。Snapdragon 8シリーズを使うとクロック周波数は上がりますが、熱も増え、電池の持ちはかえって悪くなることもあります。スペックよりも、電池持ちと全体的なバランスを重視しました。

メインカメラはセンサーを一新 ライカと蓄積したノウハウも生かす


ソフトウェア担当の奥谷紀子氏

―― カメラは、スペックの数字がAQUOS sense9と同じで特にハードウェアは変えていないように見えますが、主にソフトウェアの改善でしょうか。

小野氏 いえ。標準カメラはセンサー自体を変えています。単純な画素数やセンサーサイズなどのスペックは同じですが、HDR撮影のノイズが少なくなっているといった点はご体感いただけると思います。これは、センサーを変えただけでなく、画質エンジンの「ProPix」を大幅に見直したからでもあります。静止画については、AQUOS Rシリーズにかなり近づくことができました。

奥谷氏 AQUOS sense9のときより、ソフトウェア処理としても高性能になっています。AQUOS Rシリーズで培った画質調整を生かしながら、効率的に作業することができました。その分、画質調整には時間をかけています。

―― AQUOS senseシリーズのカメラはライカ監修ではありませんが、少しそれっぽい色合いにはなっていますね。

小野氏 ライカ監修ではありませんが、ライカと一緒にやっているメンバーも開発に加わっています。社内には、それなりに知見も蓄積されています。AQUOS Rシリーズと同じセンサーを使っているということもあり、今回はチャンスだと思っています。シャープのカメラはライカの監修でよくなったと言われていますが、実際にはライカの監修がなくてもここまでできる、ということを訴求できるからです。

―― なるほど。確かに夜景などはすごく雰囲気があっていいですね。一方で、ちょっと色が濃すぎるというか、不自然な印象も受けました。

小野氏 AQUOS senseシリーズをお使いの方は、こだわって撮るというよりも、一発撮りのことが多く、クッキリした絵を望まれます。全てのお客さまを満たすのはなかなか難しいので、今回はフィルターをいろいろと入れています。クールナイトなど、夜景で映えるような色も入りました。

―― フィルターは、カメラマンが監修していますよね。

小野氏 はい。カメラマンに監修していただきました。最近、Instagramでエモい写真が流行しているのを参考に、それを簡単にスマホの世界で実現したいと考えました。フィルターが何十種類も入っている機種はありますが、これで撮ったらどうなるのかのイメージができないと、なかなか使われません。そんなにたくさん数はいらないので、どう撮れるのかを分かりやすいネーミングにして、カメラで楽しんでもらえるようにしました。例えば、「昭和レトロ」はその1つで、銀塩フィルムで撮ったような感じになります。

奥谷氏 フィルターは、カメラマンさんに協力いただきながら実装していきました。あちこちに行って撮影し、開発の終盤まで調整を行っています。尾道の方にメンバーで撮影に行ったり、東京で都会の雰囲気を撮影したり……。


昭和レトロや平成POPなどのユニークな撮影エフェクトも用意している

―― なかなか楽しそうですね(笑)。カメラについては、Snapdragonの中のISP(Image Signal Processor)が変わったことも大きかったのでしょうか。

小野氏 これが変わったからよくなったというより、これに合わせた画質エンジンの調整をしています。チップセットが変わると、カメラの開発は一からやり直しになりますが、そういう意味だと、このチップセットだからこそできたということになります。

―― 目標としては、AQUOS Rシリーズに近づけることだったのでしょうか。

小野氏 AQUOS Rシリーズの画質への評価は非常に高いと思っているので、そこに近づけるよう頑張ってきました。AQUOS senseシリーズにはスペクトルセンサーはついていませんが、このハードウェア構成の中でできることを考え、実装していきました。

奥谷氏 開発の観点でいうと、画質に関する全ての要素を満足させることはできません。例えば、ノイズ除去と解像感の両方は成立できないトレードオフがあります。そこはカメラマンさんの意見を聞きながらチューニングを頑張っていきました。

小野氏 AQUOS RシリーズではRAWを拡張したところで合成をかけていますが、それと同じような仕組みを導入し、のっぺり感をなくして階調表現は残しつつも、ノイズは削減するようにしています。

―― ミッドレンジでここまで撮れてくると、ハイエンドの存在意義も問われるような気がしました。

小野氏 ただ、動画の部分ではいかんともしがたい差があります。チップセットが違うので、そもそも4K、60fpsで撮影できないなどの差もあります。動画は、撮りながら保存していく感じの処理になるので、チップセットの影響はダイレクトに大きく受けます。

―― カメラについては、AIにも新機能が加わっています。

奥谷氏 影除去を、AQUOS senseシリーズで初めて搭載することができました。テキストには、影の除去だけでなく台形補正もかかり、正面から見たときのような形になります。また、ショーケースモードという、ガラスの映り込みを軽減するモードも載っています。

 これらの機能はAQUOS Rシリーズで好評だったので、ぜひAQUOS senseにも載せたいと考えていました。ただ、高負荷な処理がかかると難しくなってしまうので、アルゴリズムを工夫して、何とか動くようにしています。実際、AQUOS Rシリーズのものをそのまま載せてしまうと、やはりメモリが足りなくなり、カメラアプリが終了してしまいます。


Rシリーズで好評だった、影除去や台形補正も用意している

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.