「値上げ」は悪手ではない? KDDIとソフトバンクの“価値競争への転換”から見える勝ち筋:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
KDDIは2025年の料金値上げによりユーザー数を維持したままARPUを大幅に向上させ決算で好業績を収めた。追随するソフトバンクもサービス拡充を伴う値上げに踏み切り2027年度に1000億円規模の増収を目指す。一方ドコモや楽天は据え置きを維持しており上位2社はオンラインブランドを楽天対抗の盾にする戦略だ。
2025年に「auバリューリンクプラン」などの新料金プランを導入するとともに、既存の料金プランの値上げに踏み切ったKDDI。ソフトバンクもこの手法をトレースし、6月に「ペイトク2」や「テイガク無制限」などの料金プランを導入しながら、7月には既存プランを最大で550円値上げする。
KDDIが5月12日に発表した前年度の決算では、この成果が営業利益やARPU(1ユーザーあたりの平均収入)にしっかり反映されていた。1年を通して値上げ後の料金が適用される2026年度は、よりその効果が大きくなりそうだ。対するソフトバンクも、2026年度の料金値上げを通じて収益増やARPUの向上を図っていく構えだ。
一方で、値上げに踏み切れていないドコモは、KDDIやソフトバンクのように大幅な収益増を実現できていない。楽天モバイルも、ユーザー数が増加しているため、収益性は四半期ごとに向上しているものの、ARPUの上昇幅は緩やかだ。ここでは、先行する2社の指標を見つつ、値上げ効果を振り返っていきたい。
価格競争から「価値競争」へ――KDDIが証明したARPU100円増
「これまでは販促費の競争、プライスの競争だったが、価値をつけることでお客さまに喜んでいただく競争にすることで、現場が非常に自信を持った。ステークホルダーの皆さまにも還元ができている。そうした循環が回っていることを実感できたのが、昨年1年の大きなトピックだった」
こう語ったのは、KDDIの代表取締役社長CEOを務める松田浩路氏だ。KDDIは、約1年前の2025年6月に新料金プランのauバリューリンクプランを導入。既存の料金プランだった「使い放題MAX」なども、8月に値上げしつつ、「au 5G Fast Lane」や「au海外放題」を15日間相当無料にするサービスを新たに付加している。
メインブランドのauだけでなく、サブブランドのUQ mobileにも「コミコミプランバリュー」や「トクトクプラン2」を導入しており、auからやや遅れて既存の料金プランもデータ容量を増やすなどして、料金を上げている。KDDIが12日に発表した決算は、その成果が如実に出たものになっていた。分かりやすいのは、1ユーザーあたりの平均収入を示すARPUだ。
2026年3月期のモバイルARPUは4440円で、前年同期比で100円アップを果たした。ここ数年は、サブブランドへの流出や料金値下げなどが直撃し、ARPUの伸びは多くて数十円単位だったが、値上げによってその状況をついに脱した格好だ。ただし、このARPUは年間を通してのもので、値上げ効果が全て含まれていない。
より母数の大きな既存プランの値上げがauは25年8月、UQ mobileは同年11月からだったからだ。実際、四半期ごとのARPUを見てみると、25年6月までの第1四半期は4340円だったのに対し、値上げした8月が含まれる第2四半期は4460円と一気に120円上がっている。UQ mobileの値上げが実施された第3四半期には、そこからさらに90円上がり、4550円まで拡大した。
この傾向が続けば、2026年度のARPUはさらに向上するはずだ。また、通信料収入は単純化すると回線数とARPUの掛け算で決まる。そのため、KDDIのモバイル収入も“爆増”しており、2025年度(26年3月に終了する決算期)は前年同期比で326億円増加。2兆円を突破している。業績面では、値上げの断行が成功だったといえそうだ。
関連記事
KDDI、ARPU反転で増収増益 楽天ローミング終了見据え「LTV重視」の価値競争へシフト鮮明に
KDDIは5月12日、2026年度からの新中期経営戦略「Power-to-Connect 2028」を発表した。事業セグメントを通信中核の「テレコムコア」と、成長分野の「パーソナルグロース」「ビジネスグロース」の3つに再編する。3年間で連結営業利益を年率5%成長させる計画だ。ブランドスローガンも「Tomorrow, Together」から「Spark Your Journey」へ刷新する。ソフトバンク、売上高7兆円突破で過去最高更新 “ホッピング抑制”の構造改革と「AIインフラ」への大転換
ソフトバンクは2025年度の売上高が初めて7兆円を突破し、過去最高を更新した。同時に発表した新5カ年中計では2030年度に営業利益1兆7000億円を目指し、AIインフラへの大規模投資と、モバイル事業でのARPU向上戦略への転換を打ち出した。なぜドコモは「値上げ」に踏み切れないのか? 背景にある通信品質、5G設備投資の遅れが足かせに
ドコモは2025年度決算で減益を記録したが、新料金プランの浸透によりARPUは回復の兆しを見せている。ネットワークは5G基地局の増設や3G停波による周波数転用で改善を図るも、依然として他社との差は大きい。通信品質が足かせとなり、競合他社のような既存プランの値上げに踏み切れない苦境が浮き彫りとなっている。楽天、MNO本格参入後に初の黒字化 三木谷会長「KDDIローミング終了」と「値上げ」は明言避ける
楽天グループの2026年12月期第1四半期決算は、モバイル事業参入後初となる第1四半期営業黒字を達成した。モバイル事業では短期解約の抑制に成功し、5G基地局の増設を急ぐ。今後はフィンテック事業の再編や基地局建設の加速により、エコシステム全体の収益最大化を目指す方針だ。楽天モバイルは「市場シェアが十分に高くない」 三木谷氏、値上げ質問に“明言を避ける”
楽天グループは決算会見で楽天モバイルの新たなサービス展開と価格方針を明らかにした。コンテンツ連携に加え、シニアや子供向けのセキュリティ機能を強化しサービスの差別化を図る。競合他社の値上げが相次ぐ中、同社は市場シェアの獲得を優先し長期的な視点で価格戦略を判断する考えだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.