キャリアの主導でiモードマーケットは生まれた──ドコモ夏野氏

iモードの企画担当部長である夏野氏は,iモードが日本で成功した理由として,通信キャリア主導でコンテンツと端末のあり方を決めてきたことを挙げる。オープン化が叫ばれ,iモードが海外に進出するなかで,“キャリア主導”は今後どんな方向に進むのだろうか。

【国内記事】 2001年11月30日更新

 iモードに代表される携帯電話のデータ通信サービスはどうして日本でだけ成功したのか。それは通信キャリアを軸とするトータルバリューチェーンを構築できたからだ。

 11月30日,JavaOneで講演したNTTドコモのiモード事業本部iモード企画部長の夏野剛氏は「良いか悪いのかではなく,(携帯電話のデータ通信)マーケットはこうやって生まれた。生まれなかったのはヨーロッパだ」と語る。

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iモードが“日本でのみ”成功したのは?

 iモードの成功は,いまさら繰り返して語る必要はないほどだ。既に「2928万人のアクティブユーザーがおり,平均で2200円をiモードサービスに支払っている」(夏野氏)という状況。さらに,サービス開始から1年で1000万を突破する勢いのJava搭載iモードの普及によって,2200円という平均単価も倍増しようとしている。

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iモードの公式有料サイトに見る,市場規模の増大。199年12月の3億1400万円から,2001年9月には68億9800万円(月額)まで市場規模は増大してきた。1人当たりの平均有料サイト登録数も,2000年末は2.27サイトに落ち着きつつあったが,Java対応端末の導入により再び上昇傾向に転じている

 この成功の理由は,「インターネットのデファクトスタンダード技術を使うことで,正のポジティブフィードバックを引き起こせたから」と夏野氏は説明している(3月13日の記事参照)。

 では,なぜ日本でだけ成功したのか? 日本をはるかに超える携帯普及率を誇る北欧や,インターネットビジネスで先行する企業がひしめく米国では,どうして携帯データ通信サービスが立ち上がらないのか。

 「体格も手も小さい日本人だから,携帯の小さなボタンと画面が受け入れられた」「電車通勤の多い日本だから,空き時間を活用できる携帯のコンテンツが受け入れられた」……。欧米では,iモード成功の理由がさまざまに分析されている。

 しかしドコモは,日本人の特殊性がその理由ではなく(10月4日の記事参照),ポジティブフィードバックを引き起こそうというビジネスモデルもドコモ特有のものではないという。「ドコモのビジネスモデルはAOLと同じ。日本でなくては成り立たないものではない」(夏野氏)

異なるのは通信キャリアの競争の質

 夏野氏はiモードの成功について,日本と欧米で異なるのは通信キャリアの競争の質だと分析する。そのほかの端末メーカーやコンテンツプロバイダ,通信キャリアのサービスの質についても,ポテンシャルとして大きな差はなかった。

 確かにネットワークインフラだけは状況が違っていた。ドコモには,当時パケット網が既に構築されており,iモードなどのサービスが提供しやすい状況にあった(10月3日の記事参照)。欧米でiモードライクなサービスを始めるに当たり,「ヨーロッパやアメリカで今苦労しているから(パケット網の重要性を)実感する。(欧米では)いまごろ“GPRS”といってパケットを始めている」と夏野氏も語る。

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ポテンシャル的には日本と欧米で大きな違いはなかったが……

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実際には欧米でサービスは立ち上がらなかった

 そんな中,最大の差異は,通信キャリアの役割の違いだった。日本では,コンテンツも端末も通信キャリアが主導。端末メーカーはキャリアに製品を納め,販売リスクはキャリアが負う。これが欧米では,通信方式がGSMなどに統一されていることもあり,端末メーカーと通信キャリアの役割がきれいに分かれている。

 役割が分担されていることが,逆に新規サービスの早期立ち上げに苦しむ理由だというのが,夏野氏の分析だ。確かに端末メーカー同士,コンテンツプロバイダー同士,通信キャリア同士の競争は欧米にもあるが,「端末の機能とコンテンツは連携しており,それぞれのレイヤーでいくら個別に競争しても,サービスは良くならない」(夏野氏)

 夏野氏はバンダイネットワークスの待受け画像コンテンツ「カラクリきゃらっぱ!」や,着信メロディを例に挙げて説明する。「いくら端末がカラー化しても,コンテンツがなければ意味がないし,待ち受け画像コンテンツを作っても,端末がそれに対応していなくては使えない」

 欧米では端末の高機能化とコンテンツの充実は“鶏が先か,卵が先か”の関係にある。どちらかがまず始まらないと先には進まない。

 この間を唯一調整できたのが,特異な位置にあった日本の通信キャリアだ。コンテンツプロバイダーには課金代行システムのようにビジネスとして成り立つモデルを提供し,端末メーカーにはコンテンツが活用できるように要求を出す一方,端末買い取りによってリスクを負担する。

 日本の通信キャリアは,夏野氏が「トータルバリューチェーンのコーディネーション」と呼ぶこの役割を果たすことで,自らがリスクを背負うことで鶏と卵の関係を始動させることができたというわけだ。

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通信キャリアがコンテンツプロバイダと端末メーカーの間をとりもつ,トータルバリューチェーンのコーディネーションを行えたことが,iモード市場の早期立ち上げを実現した

オープン化への反論か,はたまた……

 この,ある意味,通信キャリアがコンテンツプロバイダーや端末メーカーを支配している状況は,昨今オープン化が叫ばれる中で批判の対象になってきている。

 総務省を中心として,コンテンツのあり方をキャリア主導から,市場の自由性に任せようというのが“iモードのオープン化”の趣旨だ(7月18日の記事参照)。また,キャリアに縛られることなくユーザーが自由に端末を選べるよう,SIMカードなどを使った端末の自由化が言われることもある(用語)。

 夏野氏はコンテンツと端末の間を取り持つ調整役としてのキャリアの重要性を強調することで,“オープン化を進めることは,端末とコンテンツの更なる進化にブレーキをかける”と語っているようにも聞こえる。

 はたまた,ドコモが海外にiモードを輸出する際には,“コンテンツと端末も,通信キャリアの主導下に置く必要がある”と言っているようにも取れる。

 日本で,そして海外で,携帯データ通信サービスを発展させるために,キャリアはどこまでの役割を担うべきなのだろうか。

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[斎藤健二,ITmedia]

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