国内外で“無理を聞いて”と説得行脚──千本会長が語る「EM・ONE」開発秘話:13年ぶりの新キャリア「イー・モバイル」誕生
創業記念セレモニーに登場したイー・モバイルの千本会長が、「EM・ONE」開発秘話を明かした。立ちふさがる難問をクアルコムやマイクロソフトのトップに直談判して解決し、端末を完成させたという。
3月31日、創業記念セレモニーに登場したイー・モバイルの千本倖生会長が、シャープ製スマートフォン「EM・ONE」の開発秘話を明かした。
千本氏は、ドコモ、ソフトバンクの電波が届かず、auでも窓ぎわでしか使えない自宅マンションの40階で「EM・ONEはアンテナが3本。書斎で使ったら2Mくらいのスピードが出た」とアピール。3月30日までの電波の発射で見たら、23区内の屋外エリアはドコモとほとんど同レベルに達しているとした。
「横浜の一部はカバーしており、千葉市の一部もカバーし始めた。おそらく6月には16号線内全部をカバーできる。(イー・モバイルが使う)1.7GHz帯は2.GHz帯と違って電波がものすごく飛ぶ。基地局数が足りないと言われるが、局数が少なくてもカバー率がよければ設備投資の効率もいい」(千本氏)
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ビル・ゲイツ会長経由でWindows Mobile開発陣のトップを動かす
EM・ONEの開発にあたって、千本氏が最もこだわったと話すのは「4.1インチワイドVGAの大画面」だ。しかし、Windows Mobileが標準でVGAをサポートしていないこともあり、開発は難航したという。「2006年の秋に、“4.1インチで全部見れる(使える)ようなOS”を作ってくれと頼んだが、“だいたい1年半から2年かかる。3カ月じゃ無理”と言われた」(千本氏)
そこでシャープの町田勝彦社長からビル・ゲイツ会長に手紙を書いてもらい、トップダウンでMobile and Embedded Devices Divisionを率いるピーター・クヌーク氏の協力を取り付けたという。「こうでもしないと、ビル・ゲイツ帝国なんて動かない。しかしこれは上がさすがで、ビル・ゲイツ氏が“了解した”と、全部隊を動かした」(千本氏)。
クアルコムのトップを直談判で口説く
もう1つの難関は、1.7GHzに対応するW-CDMAチップの調達だ。1.7GHz帯に対応したW-CDMAのチップセットがなかったため「免許をもらったけれど、石がない限り端末を作れない」という状況に陥った。そこで急遽サンディエゴに飛び、米QUALCOMMのポール・ジェイコブスCEOに1.7GHzのチップセットを開発してくれるよう直談判したという。「やはり(こうした大きな案件は)本社を動かさないと。本社でも(CEOの)ポールに話すしかない」(千本氏)
「欧州でも米国も、いずれ周波数がいっぱいになったら1.7GHzに行く。いずれやらなきゃいけないことを、ちょっと前倒しで始めるだけ」(千本氏)と、サシで半日かけて口説き落とし、世界初の1.7GHz対応W-CDMAチップセットの開発が実現した。ちなみに千本氏は、1.7GHz/2GHz/GSMへの対応を望んでいたが、開発期間があまりに短かったため、今回は断念したという。
ザウルス部隊にラブコール
「18.9ミリのスリムボディ」「フラットで出っ張りのない表面」「しっかりしたクリック感のあるフルキーボード」「4.1インチの大画面で視聴できるワンセグ」──。イー・モバイル初のスマートフォンとして誇れる端末を作り上げたのは、旧ザウルスの開発陣だと千本氏。「ザウルスの開発陣はものすごくいい部隊だったが、途中で生煮えで(ザウルスの開発が中断して)止まってしまった。そこでザウルス部隊がいる奈良に行って、“あんたたち、世界で最初のスマートフォンを作ろうよ”と誘った」(千本氏)
千本氏は開発にあたって「今回は、(ディスプレイを)大きくしろ、(デザインを)きれいにしろ、薄くしろと、無理なことばかり言った」と振り返る。当初の「15ミリという薄さにしたい」という希望こそ叶わなかったが、厚みは18.9ミリに抑えられ、フルキーボードもクリック感がしっかりとある、押しやすいものが装備された。
デザインは、表面を(凹凸のない)フラットなものにすることにこだわった。「イメージはアクオスのテレビ。フラットできれいな表面に、世界で最も新しく輝度が高いディスプレイが載っている」(千本氏)。角のアールを何度にするかなど、細部に至るまで計算されたこのデザインは、IBMのThinkPadを作ったデザインセンターの精鋭が集まってアドバイスしたものだという。
その甲斐あってEM・ONEは、同社の基地局を手がけるHuawei Technologiesの社長やエリクソンの幹部からも「世界で最も進んだスマートフォン」というお墨付きをもらったと千本氏は胸を張る。この機動力と押しの強さで、同氏は携帯の世界を変えようとしているのだ。
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