MediaFLOの“今”と日本市場への展望──QUALCOMMオマール・ジャベード氏に聞く:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
「MediaFLO Conference 2007」開催に合わせて来日した米QUALCOMMのオマール・ジャベード氏に、MediaFLOの優位性やクリップキャストの可能性、端末への影響、今後の展望などを聞いた。
MediaFLO搭載による端末への影響
──日本市場の現況では、端末は「スリム・小型」が求められる傾向にあります。ワンセグなどを搭載すると、やはりサイズやデザインへの制約が出てきてしまうわけですが、MediaFLOを搭載した場合、端末側への影響はどのような形であるのでしょうか。
ジャベード MediaFLOチップのサイズでいえば、すでにかなり小型化されています。例えばMotorolaは、(スリムさで人気の)MOTORAZRにMediaFLOを搭載した試作機を開発しています。
端末サイズへの影響があるとすれば、それはどのような周波数帯が使えるかによるアンテナの部分が大きいでしょう。北米では我々QUALCOMMがUHF帯(55チャンネル)にMediaFLO用の周波数を持っていますので、(UHFの特性として)内部アンテナでも受信が可能になっています。日本の場合、総務省の議論においてVHFのハイバンド(207.5M〜222MHz)を(MediaFLOなどの)テレビ以外の放送に割り当てるといった意見があるようですが、そうなりますと(VHFハイバンドに合わせた)長めのアンテナが必要になる可能性はあり得ます。
──MediaFLOチップよりも、使うことになる周波数の特性の影響が大きいわけですね。突き詰めて言えば、割り当てられるのがUHFか、それともVHFか。そこが小型のMediaFLO端末が作りやすいかどうかに関わってくる、ということですね。
ジャベード 理想を言えば、北米と同じUHF(700MHz帯)の方が望ましいですけれど、仮にVHFハイバンドしか使えないとしても、アンテナの小型化技術が進めば端末サイズへの影響は最小限に抑えられます。(技術が)カバーできる課題だと考えています。
──ユーザー側の立場からすると、少しでも小型・軽量で映像が楽しめる端末が欲しい。個人的には、ワンセグのアンテナは「邪魔だ」と感じています(笑) できれば日本でもUHF帯が割り当てられるといいですね。日本市場向けのMediaFLO端末の仕様が、北米市場に近いUHF帯のものならば、日本の携帯電話メーカーが北米向けMediaFLO端末を作る上でも有利ですから。
ところで、もう1つMediaFLOの実装で気になっているのが、バッテリー持続時間への影響です。この点はいかがでしょうか。
ジャベード MediaFLOは携帯電話向けの放送方式として開発してきましたから、省電力性能については重要視しています。基本的な数字としては、850mAhのバッテリーで4時間以上の連続視聴を想定しています。しかし、現実的(な視聴時間)には液晶やバックライト周りの消費電力による影響が大きい。QUALCOMMではチップの消費電力削減を継続的に進めていきますが、それと同時にLEDバックライトなど表示部分の消費電力削減技術などが組み合わさって、省電力性能が向上していくことになるでしょう。
──ちなみにクリップキャストの受信時は、液晶側に何かを表示するわけではありませんよね。この場合の消費電力は小さいのでしょうか。
ジャベード クリップキャストの受信時はMediaFLOの受信部分しか稼働しませんから、消費電力は非常に少ないものになります。またクリップキャスト放送では、夜、自宅での充電中に(放送を)蓄積しておくという使い方もできますから、バッテリーへの影響はかなり抑えられます。
MediaFLOのロードマップ
──Media FLOは今後どう進化していくのでしょうか。ロードマップを教えてください。
ジャベード 今後のロードマップでは、大きく3つのポイントがあります。
1つは物理レイヤー、特に伝送部分のさらなる性能向上。これはMediaFLOサービスのクオリティ向上を担う部分です。
2つめはMDS(MediaFLO Distribution System)のさらなる拡張。ここではMediaFLO端末を使ったTiVoのような蓄積型放送のビジネスなども考えています。今後、MediaFLOチップの性能が向上すれば、携帯電話をそのままテレビに接続し、MediaFLOコンテンツを(テレビで)再生するセットトップボックスのような使い方ができる。これはアジアやインドなどの新興市場では可能性のあるビジネス分野でしょう。
3つめはサードパーティーが参加しやすい環境作りです。MediaFLOの仕様の一部をサードパーティーのプレーヤーが拡張して、独自のサービスやビジネスが展開できるようにする。そうすることで、MediaFLOの拡張性やオープン性が高くなります。
──最後に日本のユーザー、そして携帯電話業界関係者にメッセージをいただけますか。
ジャベード MediaFLOはアメリカで初の商用化を迎えたわけですが、日本の携帯電話は先進的で、日本のユーザーはマルチメディア環境を洗練された形ですでに受け入れている。日本市場はMediaFLOの受容性が高く、(日本の携帯電話業界にとって)潜在的なビジネスチャンスが大きい。周波数割り当ての課題はありますが、日本でMediaFLOが始まれば、速いペースで普及すると考えています。日本のお客様も、きっと受け入れてくれるでしょう。
──本日はありがとうございました。
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