モバイルにおけるブロードバンド化は始まったばかり──クアルコム ジャパン 山田純氏:ワイヤレスジャパン2007 キーパーソンインタビュー(2/2 ページ)
au端末向けのチップセットを始め、さまざまな端末メーカーに技術を提供しているQUALCOMMの日本法人がクアルコム ジャパンだ。携帯向け放送のMediaFLOの展開も注目を集める同社社長の山田純氏に話を聞いた。
MediaFLO、国内展開の手応えは
ITmedia 先頃、MediaFLO Conference 2007を開催されましたが(関連記事1、関連記事2)、日本におけるMediaFLOの手応えをお聞かせいただけますか。
山田 総務省の電波有効利用方策委員会で十分な議論がされています。テレビとは違うモバイル向けのマルチメディア放送に対して、周波数の割り当ての議論が進んでいて、本当にありがたいです。日本での事業化の可能性が開けつつあります。
今後は獲得できるであろう周波数で、どんなサービスで提供できるかという開発のフェーズに入ろうとしています。米国内ではすでに商用サービスが始まっており、その経験が役に立つと思います。
ITmedia 米国では、MediaFLO USAという会社がMediaFLOのコンテンツの管理、配信を手がけ、キャリアが課金回収を行うというビジネスモデルになっています。基本的に日本でもこのような形態で展開されるのでしょうか。
山田 そのあたりはビジネスモデルの問題なので、まだ不確定です。携帯キャリア各社がそれぞれMediaFLOのセンターを持ち、個別にコンテンツを集めるという方法もありますし、米国のように、事業会社を立ち上げる方法もありますが、まだ分からない段階です。今の状況ではどちらもあり得ると考えています。
ITmedia 日本でMediaFLOを展開する上での課題というのはありますか。
山田 MediaFLOがサービスを開始する時点では、ワンセグはかなり普及していると予想されます。携帯電話でテレビを見るというのは当たり前の行為になっているでしょう。そのタイミングでMediaFLOが始まった場合、チャンネル数が多いというだけでは差別化になりません。有料チャンネルという切り口とともに、我々がクリップキャストと呼んでいる、短い時間の映像をあらかじめ配信しておき、いつでも好きなときに見られるようなサービスも必要になってきます。電波状況を気にすることなく、いつでも映像が楽しめるものも合わせて提供すべきだと考えています。
ITmedia 先日のMediaFLO Conference 2007で、技術に関するライセンス料を無料にすると発表されましたが、その意図はどこにあるのでしょうか。
山田 端末にMediaFLOを載せる場合、別のライセンス使用料が必要なのかとよく聞かれていました。我々としてはMediaFLOを一刻も早く普及させたい。そこで、3G端末に搭載されるなら、ライセンス料は無料にするということを決めました。またデコーダーチップを作る際にも技術使用料は無料にします。何よりも、MediaFLOのハードルを低くしたいという思いがあるのです。
ITmedia ワンセグは、電子辞書やパソコンなど、ケータイ以外にも広がりを見せています。MediaFLOにもそういった展開はありえますか。
山田 MediaFLOは携帯電話と組み合わせることが前提となっています。通信と独立したビジネスモデルはまだ検討中の段階です。ワンセグのように広告収入をベースにした無料のビジネスモデルであればいいのですが。いまのところ、MediaFLOは通信と一緒になっているという点に存在価値を見いだしています。
ITmedia 携帯向けのマルチメディア放送に関しては、ISDB-Tmmを推進する他の事業者なども動き始めました。MediaFLOの優位点はどこにあるとお考えですか。
山田 ほかの事業者が採用するのがどういった技術なのかは、まだ見えてきていません。その点MediaFLOは、すでに米国で商用サービスを開始しており、成熟度合いは高いと言えます。運用ノウハウもあり、技術的には先行していると自負しています。多チャンネルや有料コンテンツなど、シンプルでわかりやすいビジネスモデルを構築しているといえるでしょう。
ITmedia 米国以外の地域でのMediaFLOの展開はどういった状況ですか?
山田 アジアでは台湾や香港、欧州でもトライアルが始まりつつあります。もし日本にMediaFLOが導入されれば、日本の端末メーカーにとっては、日本市場で培ったノウハウで海外進出も可能になると予想されます。日本のメーカーは映像技術に関しては、世界でもトップレベルであるだけに、MediaFLOにより世界でのビジネスチャンスにもつながるはずです。
これからも世界をリードしていけるよう、技術革新を続けたい
ITmedia 御社のチップセットにはCDMA2000とW-CDMAという2つのラインアップがありますが、それぞれの位置づけというのはどうなっていますか。
山田 CDMA2000は、長く取り組んでおり、北米や日本で活躍している技術です。これからも3G先進国で戦っていけるようにしていきたいと考えています。データ通信に特化したEV-DOも、Rev.AからRev.B、そしてUMBといったように、将来に向けた道筋もきっちりと描いています。
一方のW-CDMAは、まだGSMからの移行が進んでいる段階です。発展途上国などに広まり、安価なGSMに比べて、W-CDMAが高価というのはあり得ないと思っています。移行を進めるには、コストが重要になってきます。いかにローコスト化を進めるかが、これからの課題になってくるでしょう
ITmedia W-CDMAでの高機能化という路線もあり得るのではないでしょうか?
山田 欧州でのハイエンド市場はビジネスユーザーによるブラックベリーなどを中心としたメッセージングから立ち上がりつつあります。そのため、ワイヤレスPDA向けにチップを対応させ、法人アプリから使ってもらうという戦略になります。
ただし、この流れを大きく変える可能性があるのが、米Appleの「iPhone」の登場です。米国でiPhoneが登場することで、エンターテインメントの用途が増え、ハイエンド機の需要が高まることも考えられます。
ITmedia 最後に、これからのモバイル市場においての、クアルコムの意気込みをお聞かせください。
山田 モバイルにおけるブロードバンド化は始まったばかりで、無線技術の発展もまだまだこれからです。この業界はいまだに成熟していない分野であるだけに、これからも端末メーカーと協力して世界をリードしていけるように頑張っていきたいですね。
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