第5回 KDDI 高橋誠氏──Web 2.0時代の携帯電話サービスとは:石川温・神尾寿の「モバイル業界の向かう先」(3/3 ページ)
業界のキーパーソンとジャーナリストの石川温氏、神尾寿氏が、業界の行く末を語る鼎談企画。第5回はKDDI 執行役員 コンシューマ事業統轄本部長の高橋誠氏に話を聞いた。
auのブランドが前面に出なくてもかまわない
神尾 クレジットカード業界に提携カードがいっぱいありますが、ああいう感じなんでしょうか。KDDIさんが携帯電話キャリアとしてのサービスやコンテンツを出しているのに対して、見た目やブランドは別のものが付いているような。
高橋 そうかもしれません。
神尾 例えばガソリンスタンドだったら「JOMOカード」や「ENEOSカード」のように、カードのデザインから中のサービスまで全部、その提携カードを出している事業者に合わせてカスタマイズして、自分のところのお客さん向けに出していますよね。そういう世界のように聞こえます。
高橋 これは僕が勝手に思っているだけで、具体的なプランを作っているわけじゃありませんよ。ただ、それが自然かな、と思うんです。“タッチポイント”と僕らは呼んでいるんですが、ユーザーさんに応じていろいろなタッチポイントがあって、そのタッチポイントを新しく1つずつ定義してあげることが大事かなと思いますね。
神尾 おサイフケータイを活用してもらうのにもいいかもしれませんね。アプリの設定などでみなさん苦労されているので。
高橋 本当にやりたいと思いますよ。JRさんだったら、画面が表示されたらSuica携帯とか。
神尾 Suica携帯……それは需要がありそうですね。登場したら、「モバイルSuica」が圧倒的に使いやすくなりますし、利用者層が一気に広がる。首都圏で考えれば、ワンボタンで定期が買えて、モバイルSuicaが設定されていて、キャラクターにペンギンが入っていて、という携帯電話には大きな可能性があると思います。
高橋 これまではほかに方法がないのでアプリでやっていたんですね。でもアプリって、結構階層が深いんですよ。それをもっと表に出してこれる時代になったかな、と思います。
石川 今後、例えばSuica携帯のような話があったら、KDDIとしては受け入れられる体制はあるんでしょうか。
高橋 そういうものを作ることになるでしょうかね。
神尾 今おっしゃっていたようなことが本当にできるようになったら、それこそハウスカードを持っている鉄道会社などがカードと紐付けてやりたがるんじゃないでしょうか。例えば東急カードと組み合わせて東急携帯というのを出して、PASMOが使えて連携して、という感じで。
高橋 東急携帯……ユーザーが使いたがりますか?
神尾 きっとポイントがいっぱいたまりますよ(笑)。民鉄ブランドで、主婦や高齢者などの沿線生活者向けとかもおもしろいと思いますね。あと銀行やクレジット、航空会社などにも可能性があるかもしれません。
高橋 あるかもしれませんね。まあ、本当にやるかどうかはともかくとして、たぶんそんな風なイメージになってくるんじゃないかな、と我々は思っています。プラットフォームや課金なんかの裏方を我々が担当して、表は別のブランドが立つという感じで。
石川 では、そのときにauが選ばれる理由といいますか、“こういったサービスを使いたいからキャリアはauにしよう”とユーザーが思う、その決定打は何になるのでしょうか。
高橋 その場合は“auにしよう”というより、“そのブランドにしよう”ということになりますよね。そのブランドさんがauに対応されていたら、選ばれるかもしれません。
神尾 まさに提携カードと同じ仕組みですね。
高橋 ユーザーにとっては、そのときauはあまり関係ないんじゃないでしょうか。MVNOはそういう世界ですから。
神尾 イメージ的に近いのは、昨年からやっている“トヨタ携帯”の「TiMO」ですね。あと、ブランドという意味では「レクサスケータイ」なども可能性がありそうです。
高橋 ありますよね。今の技術進歩を見ていると、MVNOは筐体を作らなくてもできる時代になるんじゃないかなと、勝手に思ったりしているんです。
神尾 TiMOもトヨタにしてみると、Bluetoothを入れてもらった端末を自分のところのブランドで出すことで、ハンズフリーのセットアップを販売会社がやりやすくなっていますよね。
高橋 みんなああいうことをやりたいんですよ。大事なお客様がいらっしゃるわけだから、そのお客様を囲い込むために携帯を使いたい。すごく分かりやすいことですから、みんなやりたいはずです。
神尾 そういう世界がある一方で、auのブランド価値も上げておいて、“auが使いたい人”も当然ながら確保していく、ということですね。
高橋 そうです。我々は別に常に表に出なくてもいいわけです。今回の「EXILIMケータイ W53CA」とか「ウォークマンケータイ W52S」のように、主役と脇役が逆転してもいいんです。「新しいタッチポイントは、ウォークマンとEXILIMです」という意味です。あれも本当は、“UI”が全部ウォークマン、全部EXILIMの方が、僕はいいと思うんですが……。まだそこまではいってはいないですけどね。
神尾 なるほど。
高橋 使うときはEXILIMで、ボタンをポンと押したら写真がそのままプリントアウトできるとか、あるといいなあと思うんですけど。まだまだ我々のスタッフもそこまで頭が回ってないみたいで。
神尾 個人的にはApple携帯があったら本当に使いますけどね。「iPhone」の目指すところはそれに近いのかもしれないですね。
高橋 近いですよね。筐体まで開発しなくてはいけないのかどうか、という違いです。日本の場合には筐体までやる必要はなくて、ある程度アプリで対応できるのかもしれない、とも思います。
神尾 今回、EXILIMとウォークマンを手がけられましたけれど、あの路線は今後もあるということですか? 今はハードウェアの部分でのブランド連携が強いと思いますけれど、もっとソフトウェアやUIに近いところまで入ってくるわけですか。
高橋 入ってもいいんじゃないかな、自然だろうな、と思います。
神尾 いいと思いますね。私、Apple携帯かGoogle携帯が出たら絶対買いますよ。
高橋 石川さんには先日、「ワクワク感がない」と怒られましたね(笑)
石川 いえいえ(笑) ただ謙虚だなあ、と思ったんです。そういうものがありつつも、auがもっと前面に押し出てくるものがあってもいいのかな、という気がします。
(第6回へ続く)
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