第7回 KDDI 高橋誠氏──純増数でソフトバンクに抜かれ、スイッチが入った:石川温・神尾寿の「モバイル業界の向かう先」(2/2 ページ)
業界のキーパーソンとジャーナリストの石川温氏、神尾寿氏が、業界の行く末を語る鼎談企画。第7回はKDDI 執行役員 コンシューマ事業統轄本部長の高橋誠氏に、端末のプラットフォーム化やモバイルコマース、auの今後を聞いた。
モバイルコマースの特徴は携帯料金と一緒に払えること
神尾 モバイルコマース(携帯電話での電子商取引)はいかがですか?
高橋 携帯上のeコマースは抜群に売れていますよ。特にショッピングモール系が。
神尾 昔、PC向けのeコマースが出たときには流通小売りの世界を着実に変えて、実際、本の流通などではかなり影響があったわけですが、モバイルのeコマースも消費や流通のスタイルを変えるような力を持っているといえるでしょうか。
高橋 持っているというか、今、携帯で買い物をする人は結構増えてきているんじゃないですか。影響はあると思いますよ。特にauの場合、加入月数が3カ月を超えていて、20歳以上であれば、「まとめてau支払い」で3万円まで買えるというのは、結構魅力的だと思います。先日、「MEDIA SKIN」の新色の予約を受け付けたところ、あっという間に予定の販売数を超えましたし、auショッピングモールで販売したValextraの4万円弱もするMEDIA SKIN用キャリングケースが、2〜3週間で全部売れてしまいましたから。
神尾 アマゾンの例が顕著ですが、PCでのeコマースの特徴としてロングテールモデルということが言われましたよね。でも、携帯のeコマースの話を聞いていると、瞬間風速的な消費の誘発にかなり影響が出ているようにも思います。つまり、一般書店では売れないものがアマゾンでは売れたということがあって、それがPCのeコマースの大きな特徴だと思うんですが、携帯のeコマースならではの特徴というのは、今のお話だと瞬間風速でポンと売れる、ということなのでしょうか。
高橋 僕たちが携帯eコマースの一番の特徴だと思っているのは、決済が携帯そのものでできることです。クレジットでもなく、電子マネーもなく、今のauの場合だと、3万円までなら携帯電話の利用料金と一緒に請求される。これがたぶん一番の特徴だと思います。
神尾 それで売れ方が変わった、ということはあるんでしょうか。
高橋 なにせ、我々からユーザーさんへの消費のアプローチまで、全部携帯でできちゃう。送ったものに対してリアルタイムでレスポンスがあるので、PCよりも、あるいはリアルの店舗よりも非常にユーザーに近いところにあるのは間違いないと思います。
神尾 端末によって個人を特定しているので、リコメンド(お勧め)もしやすいでしょうね。
高橋 しやすいですね。そういう意味では、マーケティングのデータも取りやすいですよ。
神尾 マーケティングデータを取って、お客さんにきちんとパーソナライズしてリコメンドをしっかりして、しかもそれをダイレクトに、できるだけUI的なステップ数を減らした上で、携帯コマースにつなげられる、そういう業者さんは強くなってくるでしょうね。
高橋 そう思います。
神尾 そういう意味では、消費も情報戦になってくるわけですね。
auは常にチャレンジャーであり続けたい
神尾 次の秋冬モデルでは、QUALCOMMの新チップセットMSM7500を搭載した端末が出てきますね。このプラットフォームの進化は、コンシューマービジネスでコンテンツメディアに特化して見るときに、大きなステップアップ要因になるんでしょうか。
高橋 少なくともアプリケーションのマルチタスクができるようになるので、作り手としてはそこが一番大きいと思います。そういう意味でMSM7500は非常に期待できます。それと、共通プラットフォームなので、その上ではアプリケーションの使いまわしが効きます。すぐに効果が出るわけではありませんが、アプリの開発は楽になっていくでしょう。
神尾 今後の部分で影響は大きいわけですね。
高橋 大きいです。そうやっていかないと、端末価格は下がりませんしね。その辺の差分が結果的にはキャリアの体力勝負になってくる。いすれにしても、4月に体制が変わって、新たにコンシューマ事業統轄本部長に着任して早々にこういうこと(ソフトバンクに純増数で抜かれるようなこと)があると、また気合が入りますよ(関連記事1、関連記事2)。腹も立つし。
神尾 純増数で1位を取られたことで、結構気合が入りましたか。
高橋 完全にスイッチが入りましたね。だって、気分悪いじゃないですか。かといって、単純な値下げをやってもしかたががないですし。我々はデータ通信に強いところを売りにしてきたので、これからもそこを売りにして、きっちり対応していきますよ。
神尾 今でも定額制加入率が77%というのは3キャリアで一番高いと思うんですが、さらに加入率を上げて、利用率も上げていくということですか。
高橋 そうです。それと、我々のデータ通信を使っていただけるユーザーさんを、もう少し広げていけるような施策を1つ1つやっていきます。でも、ずっと純増1位でいるより、たまには抜かれるようなことがあったほうが、会社の中でも気合が入っていいですよ。番号ポータビリティーが始まって、ちょっと成績が良かったからといって、社内はちょっとゆっくりしちゃったところがありました。
石川 ちょっと気が緩んだみたいですね。
高橋 石川さんもそうで思いますよね。それに腹が立ちました。
神尾 KDDIは勝って当たり前、という雰囲気になっていましたよね。御社にも販売会社にも、取材を通してそういう雰囲気は感じていました。
高橋 でしょう。何を偉そうなことを、と思いますよね。そんなこともあって、4月からコンシューマ事業統轄本部に異動したところもあるんです。でも完全にスイッチが入っているので、FMCも意識しながら、気合を入れていきますよ。
神尾 では、これからもう一段、新たな攻めに入るわけですね。惰性による成長や、守りではなく。
高橋 僕の性格は攻めしかありませんから。おとなしめですけど(笑)。まあ、ちょこちょこと、おもしろそうなことをいろいろ出していきますよ。本当にスイッチが入っていますから。
神尾 「ご覚悟ください」ですか(笑)
高橋 いやいや、僕はそんなことは思いませんけど(笑)。ウチはずっとチャレンジャーのほうが似合いますよ。
神尾 それはありますね。
高橋 「KDDIはMNPで一番」とか言っているよりも、常にチャレンジャーであり続けたいじゃないですか。
神尾 でも、市場シェア30%の獲得がゴールに見えているようなところがありませんでしたか?
高橋 そんなことは思っていません! あれは、単に「30%に行きたい」というのがずっと思いとしてあっただけです。
神尾 現場レベルでの取材では、シェア30%が目標値になっているなと感じるところがあったのですが。
高橋 いや、あれはあくまでも通過点です。やっぱりウチはチャレンジャーの方が似合いますよ。そうじゃないとやっていけません。もう一度、何で挑むかは別として、ちゃんとチャレンジャーとしてきっちりと挑んでいきます。そういうサービスは一個一個作っていきますよ。
神尾 ぜひ頑張ってください。
ITmedia 期待しております。どうもありがとうございました。
(完)
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