「Android」が目指す携帯電話の未来――Googleのモバイル向けプラットフォームとは
Googleがオープンソースのモバイル向けプラットフォーム「Android」を発表した。開発ディレクターのアンディ・ルービン氏は「“Android”はモバイルとPC、2つのインターネットをつなぐ掛け橋になる」と話す。
米Googleは11月5日(現地時間)、携帯向けプラットフォーム「Android」と、自社と携帯メーカー、通信事業者など34社からなる「Open Handset Alliance」(OHA)を発表した。11月6日、同社の携帯プラットフォーム部門ディレクター アンディ・ルービン氏は、日本の報道陣に今回の発表内容の詳細を説明した。
Androidは、OSやミドルウェア、ユーザーインタフェース、各種アプリケーションソフトからなる「ソフトウェア スタック」を含んだオープンソースプラットフォーム。OHAはGoogleのほか、アプリックス、Ascender、Audience、Broadcom、China Mobile、eBay、Esmertec、HTC、Intel、KDDI、リビングイメージ、LG電子、Marvell、Motorola、NMS Communicaitions、Noser、NTTドコモ、Nuance、Nvidia、PacketVideo、Qualcomm、Samsung電子、SiRF、SkyPop、SONiVOX、Sprint Nextel、Synaptics、TAT(The Astonishing Tribe)、Telecom Italia、T-Mobile、Wind Riverという33社が創立メンバーになっている。
ルービン氏は「現在インターネット上には、我々を初めさまざまな企業や団体からすばらしいテクノロジーが提供され、日々新しいサービスやアプリが生まれている。Androidは、こうしたネットの世界と携帯電話のブリッジとなる存在」と、OHA設立とAndroidをリリースする理由を説明した。すでに携帯電話からのインターネット接続は一般化しているが、対応端末や回線、コンテンツなどはキャリアの垂直統合モデルのなかにある。Googleはオープンな開発環境を提供し、水平分業されたビジネスモデルを目指す。
「オープンソースプラットフォームであるAndroidが普及すれば、これまで垂直統合されていたモバイル市場が水平分業に向かうだろう。オペレーター/ベンダー/サードパーティが提供するモバイル向けアプリケーションを交互に利用するサービスが生まれ、モバイル市場のマッシュアップを図れる。例えば、端末内のサードパーティ製ソフトからGoogleマップの地図情報を呼び出し、関連情報を付けて表示する――といったサービスの開発が容易に行える」(ルービン氏)
OHAに参加する企業は、半導体メーカー、端末メーカー、通信事業者、ソフトウェアメーカー、コマーシャライゼーションの5つのカテゴリーに分けられる。「最初に重要な点は、(OHAに)複数の半導体メーカーが参加していることだ。モバイル向けとしてシングルプラットフォームではなく、オープンなOSの試みは初めてだろう」(ルービン氏)
またルービン氏は、オペレーターやキャリアなどの通信事業者パートナーについて「最も大きなベネフィットを得られるのが、通信事業者だ。ユーザーニーズのすべてに1社で応えることはできないが、オープンで柔軟な構造のAndroidであれば、モバイル市場に幅広い選択肢を与えることができる。将来、独自プラットフォームを持つオペレーターはなくなるかもしれない」と説明した。さらに、端末メーカーにとってはソフト開発のコスト低減、ソフトウェアメーカーにとってはフレキシブルな製品開発が行えるメリットをもたらす。そして、収益性を向上させるためのマーケティングや開発サポートを、コマーシャライゼーションパートナーが行うという。
携帯電話だけじゃない「Android」
ルービン氏によるとAndroidは、汎用のモバイルプラットフォームであり、将来的にはポータブルメディアプレーヤーやナビゲーションシステム、セットトップボックスといった用途へ広がっていくという。ただし2〜3年は、最初のデバイスとして携帯端末を重点的にサポートしていく方針だ。
Androidは11月12日に最初のソフトウェア開発キット(SDK)を公開する予定で、現在は「α版の1つ手前の段階」(ルービン氏)という進ちょく状況だという。ライセンス形態はApache License Version 2で、GPLのように制限は多くはない。OSにはLinuxカーネルを用いているが、インタフェースやドライバ、アプリケーションはGoogleが自社開発する。Androidベースの携帯端末は2008年中に、おそらくOHA創立メンバーの端末メーカーから登場する予定だ。
記者説明会ではOHAおよびAndroidについての質疑応答も行われた。まず、水平分業を進めることで、現状のオペレーターやキャリアによる垂直統合されたビジネスモデルと衝突するのではないかという点だ。
これについてルービン氏は、「お互いの利益が一致していないとは思わない。ビジネスモデルをオープンにすることが目的であり、今までにない新しい面だからだ。また、Androidを使うことで端末の開発コストを約10%下げることができる。キャリアとベンダーは現在より廉価な端末を提供でき、余力の10%をマーケティングや販売促進策に振り分けられる」と説明する。
さらに、なぜGoogleがモバイル向けのリファレンスデザインを作る必要があるのかという質問については、「Googleのミッションは世界中の情報を普遍化するというもので、これはモバイルでも同じだ。今のモバイルインターネットは、全世界で30億人という携帯電話市場のうち、わずかな人しかアクセスできない」(ルービン氏)と回答。また、端末性能が向上したことも参入の理由と話し「現在の携帯電話は、Googleが設立された9年前のPCと同じくらいの性能だろう。携帯電話が追いついたが、PCもさらに進化している。AndroidでモバイルとPCのギャップを埋めたい」と説明した。ただし、PCのようにOSやプラットフォームを少数の企業が独占するのではなく、OHAというグループとともにユーザーと接していくという。
気になるGoogle自身の収益モデルだが、これまで通りインターネット上の広告と検索が柱になる。Androidによりインターネットアクセスの機会を広げることが目的で、自宅や職場といったPC環境に加え、駅やレストラン、車内など移動中の場でも携帯電話を使ったインターネットへの接続を促すという。
Windows Mobileと対抗するAndroid
OHAには、Nokia、Microsoft、Appleなどのモバイル市場で影響力のある企業が参加していない。これについては「OHAは閉鎖されたアライアンスではなく、誰でも参加できるものにしたい。完全に統合された最初のプラットフォームであり、オープンであることが新しい。すでに同じ存在があったとしても、それは違うものといって良いだろう」(ルービン氏)とし、加えてAndroidが「Windows Mobile」のようなモバイル用OSと競合する存在でもあると話す。
Androidはスマートフォン専用のOSというわけではなく、ローエンドな音声端末でも技術的には稼働するという。「Androidはモジュール化された構造を持つ。すべてを使ってハイエンド端末を作れば、これまでにないユーザー体験をハイエンドユーザーに提供できるだろう。また、一部分だけを選んでローエンド端末を組むこともできる。一般的なユーザーには、地図サービスやSNS/ブログといったコミュニティサービスがキラーアプリになるだろう」(ルービン氏)と解説した。
最後にルービン氏は、日本の携帯電話市場について「文化的に見て、技術に対する好奇心が非常に強いと思う」と述べ、「半年ごとに強力なサービスが登場し、人々はそれを利用している。我々のAndroidはきっと、日本のユーザーに受け入れられるだろう」と期待を寄せた。
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