ネットのトレンドと“ケータイならでは”の機能を融合――Nokiaの共通プラットフォーム「S60」のこれから:Nokia World 2007
PCやインターネットのトレンドが押し寄せる携帯電話市場。アップルのiPhone、Googleの携帯向けOS「Android」などの登場は、その象徴的な例といえるだろう。こうしたトレンドに、大手端末メーカーのNokiaはどんな施策で対抗するのか。上席副社長のマッティ・ヴァンスカ氏に聞いた。
米Appleの「iPhone」が新たなトレンドを巻き起こし、米Googleがプラットフォーム「Android」を発表するなど、2007年の携帯電話業界はプラットフォームやユーザーインタフェース(UI)に注目が集まった1年だった。携帯市場で最大のシェアを持つNokiaのSymbianベースのユーザーインタフェース技術「S60」は、今後どのような戦略で市場にアプローチするのか。Nokiaのテクノロジープラットフォーム事業部モバイルソフトウェア担当セールス&マーケティング上席副社長、マッティ・ヴァンスカ(Matti Vanska)氏に話を聞いた。
ITmedia この10月、NokiaはS60がタッチスクリーン操作に対応すると発表しました。今後のS60の進化のロードマップを教えてください。
マッティ・ヴァンスカ氏(以下、ヴァンスカ氏) 10月、S60のUIに関連して3つの新機能を発表しました。タッチスクリーン操作、センサー、Flash Lite 3への対応です。
タッチスクリーン操作は柔軟性が特徴です。今後、S60端末は(1)タッチスクリーン操作のみ対応(2)タッチスクリーン操作とQWERTYキーボードに対応(3)タッチスクリーン操作と一般的なキーパッドに対応(4)タッチスクリーン操作に非対応 といった4種がリリースされることになるでしょう。S60のタッチスクリーン操作は、指による操作とスタイラス入力の2つが可能です。
タッチスクリーン操作は重要な入力メカニズムですが、全端末がタッチスクリーン操作に対応するとは思いません。この操作は両手を使うことが多くなりますが、ユーザーの中にはこれまでのように片手で操作したいと思っている人も多いのです。
センサーは、センサーフレームワークの働きで、端末が向きや速度を把握できるようになり、例えばランドスケープモードで写真を撮ると、デバイスが写真を表示する向きを自動的に認識して保存します。あるいは、端末の画面を下にして置くと、消音モードになるなどといった機能を実現します。これらはシンプルな例ですが、ほかにもジョギングの速度を測定するなど、さまざまな展開が考えられます。センサーは、端末との双方向性を実現するために、タッチスクリーン操作以上に重要といえる機能です。
3つ目のFlashのサポートでは、YouTubeなどのFlashベースのビデオコンテンツを楽しめるようになります。現在、インターネット上にあるビデオコンテンツのほとんどがFlashをベースとしています。端末側でサポートしていないと、限られたビデオコンテンツしか視聴できなくなるわけです。
これらの機能は2008年に利用できるようになります。端末側である程度のことができますが、オープンなプラットフォームで対応することで幅が広がります。ただ、どのような形で実装するかについては、現時点ではお話できません。
ITmedia 現在「S60 3rd Edition」ですが、次のバージョンはいつごろ登場する予定ですか。
ヴァンスカ氏 次のバージョンについては、名称を含め2008年に発表する予定です。
ITmedia ユーザーインタフェースでは、英Sony EricssonがUIQ Technologyを買収しました。また、米AppleのiPhoneもユニークなユーザーインタフェースで成功を収めています。S60のユーザーインタフェース面での強みは何ですか。
ヴァンスカ氏 S60に限らず、ソフトウェアが成功するためには3つの重要なポイントがあります。
まずはボリューム(台数)です。ある程度の規模の台数が市場に出回っていなければ、開発者はビジネスチャンスがないのでアプリやソリューションを開発しません。Forum Nokiaは現在、登録済みの開発者だけでも340万人を擁しています。S60をサポートした端末は現時点で66機種あり、1億台以上を出荷しています。この6カ月で出荷を始めたS60ベースの端末は12機種ありますが、このうち5機種は韓国SamsungなどNokia以外のライセンシーのものであるなど、外部のライセンシーが重要になっています。
2つ目はサードパーティの技術革新をサポートすることです。これは開発者に適切な開発環境やランタイムを提供することで、Java、Flash、AjaxやhtmlなどのWeb技術への対応がこれに当たります。
3つ目はユーザーエクスペリエンスです。ここでは、さきほどお話したタッチスクリーン操作、センサーなどのUI強化があります。
Apple、UIQなどとの競合と比べて、S60はまずボリュームで圧倒的にリードしています。開発者はS60を、業界をリードするプラットフォームと認識しています。
UIQについては、Sony Ericssonが買収することでSymbianから独立するので、よい結果になったと思います。SymbianはOS開発にフォーカスできるでしょう。さらには米MotorolaがUIQに資本参加することを発表しました。MotorolaもSymbianの良さを認めた結果だと思っています。
ITmedia 米Googleが「Android」を発表しました。この動きをどうみていますか?
ヴァンスカ氏 Androidについてコメントするのは時期尚早だと思います。
ただ、Googleのメッセージは、プラットフォームとサービス、オープン性が重要であるというもので、これはわれわれの認識と同じです。われわれもGoogleが発表しているようなことを実現するプラットフォームを目指しています。
Googleは最初の端末の出荷時期を2008年後半としていますが、その頃までにわれわれは、さらなるS60端末を出荷していることでしょう。これらの端末はGoogle、Yahoo、Microsoftなどのサービスをサポートします。われわれは自分たちの戦略に自信を持っています。
ITmedia アプリケーションのトレンドについて教えてください。
ヴァンスカ氏 GPSを内蔵した端末が増えていることを受け、位置情報を利用したアプリケーションが増えているようです。また、ソーシャルネットワーキング系サービスも注目されています。カメラなどの端末のマルチメディア機能、いつも持ち歩くという特性をいかしたアプリケーションです。
ITmedia 「Ovi」はどのようなものになるのでしょうか。
ヴァンスカ氏 ゲームや音楽、地図などのサービスを提供します。ユーザーは一貫性があって機能がきれいに統合され、PCやWebと接続でき、使いやすい端末を望んでいます。NokiaはOviで、一貫性があり使いやすいサービスをパッケージにして提供します。
重要なことは、OviはNokia端末と“密に統合されるものではない”ということです。英Vodafone、伊Telecom Italia Mobile、スペインTelefonicaなどの通信オペレータがサポートを表明しており、オペレータのサービスと共存することになります。また、他社製の端末でも利用できるようにする計画で、S60のライセンシーである韓Samsungや韓LG電子の端末でも利用できるようになればと思っています。
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