第19回 世界最大のデザインの祭典「ミラノサローネ」を訪れて:小牟田啓博のD-room
数々の端末を世に送り出してきたデザインプロデューサーの小牟田啓博氏が、日常で感じたこと、経験したことを書き綴る「小牟田啓博のD-room」。今回は4月中旬にイタリアで行われた世界最大のデザインの祭典「ミラノサローネ」からの帰国報告です。
さて今回は、デザインの世界、それも家具やプロダクトを中心とした世界最大のデザインの祭典「ミラノサローネ」について現地の様子をご紹介したいと思います。
ミラノの街全体がイベント会場と化す、文字通りの「ミラノサローネ」
毎年4月中旬に、イタリア・ミラノでミラノサローネ(国際家具見本市)が開催されています。今年は4月16日から21日(現地時間)にかけて開催されました。07年は200万人強の入場者数だったということですが、今年は370万人が訪れるほど大盛況でした。僕もサローネを訪れるのが今回で6回を数えます。
このサローネは、1961年に国際家具見本市を基本にスタートしたそうです。日本でイメージする以上に大きな展示会場で開催されるだけあって、東京・有明にある東京ビッグサイトや東京モータショーなどが開かれる千葉・幕張メッセからは想像もつかない、気の遠くなるような広さのフィエラ(見本市会場)での展示会はもちろんのこと、トルトーナ地区、トリエンナーレ地区、ドゥオモ周辺地区など、ミラノの街全体が家具や生活用品を中心としたプロダクトのデザインの発表の場となるのです。
とくに近年では、デザイン新作発表の場といった意味合いが濃く、ファッションメーカーや自動車メーカー、家電メーカーまでこのサローネで発表会を行ったり、ビジネス交流の場を求めて参加する例が顕著です。
ですから、このサローネの時期のミラノには、世界的に著名なデザイナーはもちろんのこと、企業内デザイナーやカラーリストから、各国のジャーナリストやデザインに絡むビジネスマンや経営者が多数訪れます。
当然、宿泊費や交通量も普段の倍以上に膨れ上がってるという、そうとうな盛り上がりをみせる期間なわけです。
今回、僕がサローネを訪れたいくつかの目的の中に、私たちのデザイン事務所「Kom&Co.」からguzzini(グッチーニ)のコンセプトデザインに参加していることが挙げられます。「Foodesign Guzzini Made in Japan」というテーマで、日本の食文化を題材に日本人デザイナーが多数参加した大きなプロジェクトです。
今年2月にドイツ・フランクフルトで先駆けて発表され、この4月にミラノサローネで、6月には東京で展示される予定のデザインイベントです。このなかに「koori」という作品でデザイナーの右田誠(ミギタマコト)氏が参加しています。
このguzziniというブランドは、イタリアの食器メーカーとして大変有名な会社で、とくにプラスチックを素材としたカラフルでユーモラスなセンスの商品を特徴としています。日本ではまだあまり見かけませんが、ヨーロッパを中心に海外では非常にメジャーな会社です。
今回テーマを日本の食文化としたところからすると、今後日本でも積極的に展開したいという企業姿勢の表れなのかもしれませんね。
日本企業もヨーロッパ市場の反応を探ってみようと積極的に参加
世界各国の企業が多数出展しているなかで、日本企業の出展をいくつかご紹介したいと思います。
日本産業デザイン振興会主催の合同展示では、アスコット、イトーキ、ウィルコム、貝印、KDDI、三洋電機、シヤチハタ、TOTO、トヨタ自動車、ニコン、日本電気、日本ビクター、日立製作所、富士通、リコーなど15社による展示が行われました。
今回の展示では、市販されている製品だけでなく、出展企業によってはコンセプトモデルも展示されていたことも魅力を感じた1つで、ヨーロッパ市場の反応を探ってみようとするトライの一環だろうと思われます。
ウィルコム、KDDI、NECがケータイを出展しており、とくにNECがカラーイメージサンプルを展示することで、新しい世界観を打ち出している点が目を引きました。
そのほかの日本企業は、キヤノンが大判プリントで屏風絵などの文化財を展示したほか、ソニーはSferaとのコラボレーション展示ということで画像、音楽、食器、食材など、さまざまな五感に対するメッセージを発信していました。
またヤマハは楽器のコンセプトデザインを展示されており、その展示の演出としてヤマハの楽器を実際に演奏する楽団がブースの出迎えをしてくれるといった演出もあって、サローネならではの魅力的な趣向でした。
日本企業のなかで、僕としては一番興味を持ったのが玉の肌石鹸の展示です。
会場の天井からたくさん垂れ下がる赤と黒の物体!? よく見るとそれらすべてが石鹸でした。でもなぜかタイ焼きの形をしています。石鹸といえば身体を清潔にするための機能と気持ちを穏やかにしてくれる香りという、昔からある普遍的なイメージを抱いていた僕ですが、石鹸を形作ることと、使うと溶けるという部分に向き合っているからこそのアイデアが盛り込まれたのでしょう。
丸い形の石鹸の画像をご覧ください。石鹸の中央に花や貝など、いろいろな柄がレーザーにより浮き彫りにされています。実際にこの石鹸を使っていくと、石鹸って外側から溶けて磨り減っていくのですけど、最後までこの絵柄が残るようになっているらしいのです。
こういった、人が作って人が使うという行為によって出来上がったアイデアとデザインって、僕はとても素晴らしいと思うのです。
圧倒的な存在感だったイタリアで活躍する日本人デザイナー吉岡徳仁氏の作品
最後に、イタリアで活躍するデザイナーの中から僕が気に入った作品をご紹介したいと思います。
ラインストーンで有名なスワロフスキーが、毎年ミラノサローネの注目の的となっています。今年も非常にリッチで力強いイメージの作品が多く登場しました。真っ暗で広大な倉庫を会場としている中で、それぞれの作品に強いスポットライトを当てて、その反射光で作品デザインを楽しめるような演出がなされています。
なかでも僕が気に入ったのが、近年ミラノで活躍している日本人デザイナー吉岡徳仁氏の作品です。この作品、直径およそ20センチはあろうかと思われる大きなラインストーンが、広い会場にまばらに、そして無造作に置かれていて、その中に点々と、その大きなラインストーンをさらに大きな透明の四角柱ですっぽりと収めているという作品です。ラインストーンを効果的に力強く表現しているのです。
その驚くような大きさもさることながら、ラインストーンのカット面の仕上がりの美しさ、それから四角柱の透明感の圧倒的な存在感など、見るものをとても強くひきつける魅力に溢れている作品だと思います。
ミラノサローネの様子はいかがだったでしょうか?
このように、企業もデザイナーも、新しさを模索しつつも積極的に発表をする場としてミラノサローネは年々発展し続けていますし、それは今後も変わらないでしょう。
そしてその都度思うのが、技術もアイデアも、ヒトのポテンシャルはヒトから影響を受けさらに飛躍的に進化をし続けるということです。
素晴らしいことだし、とても素晴らしい“場”だと、サローネから戻った今、そのことをとても強く実感します。
PROFILE 小牟田啓博(こむたよしひろ)
1991年カシオ計算機デザインセンター入社。2001年KDDIに移籍し、「au design project」を立ち上げ、デザインディレクションを通じて同社の携帯電話事業に貢献。2006年幅広い領域に対するデザイン・ブランドコンサルティングの実現を目指してKom&Co.を設立。日々の出来事をつづったブログ小牟田啓博の「日々是好日」も公開中。国立京都工芸繊維大学特任准教授。
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