第9回 マイクロソフト 梅田成二氏――Windows Mobileの課題と勝算:石川温・神尾寿の「モバイル業界の向かう先」(2/2 ページ)
業界のキーパーソンと、ジャーナリストの石川温氏、神尾寿氏が携帯業界についてざっくばらんに語るモバイル鼎談。今回はマイクロソフト モバイル&エンベデッドデバイス本部部長の梅田成二氏に、Windows Mobileの今後の方向性について話を聞いた。
日本でのWindows Mobileの勝算
神尾 グローバルに見たときに日本市場はどれだけ存在感があって、どの程度のリソースが配分されるのでしょうか? 日本は言語が特殊ですし、中国など他の非英語文化圏に比べて規模のポテンシャルが小さいですよね。
梅田 ワールドワイドの比重でいうと、全世界の売上高の10%くらいが日本市場の目安になっています。日本のWindows Mobileのシェアはまだ10%未満ですが、それでも日本市場(のポテンシャル)はかなり高いと思います。確かに中国などの市場はすごくボリューム感がありますが、高機能な端末を使っている人は日本のほうがはるかに多い。ユーザーシェアでいえば日本は世界を引っ張っている部分があるので、やはり日本で勝たないと世界に進出できないという認識はあります。ではどうしたらいいのか? というと、そこは(日本と世界の)ギャップを埋めてあげる人が必要です。
石川 日本のユーザーは、Windows Mobileに何を求めているのでしょうか。逆にマイクロソフトとしては、Windows Mobileの存在価値をどこに置いているのでしょうか?
梅田 求めているものはユーザーさんによって違うと思いますが、一般的には、PCと同じようにケータイでインターネットやOffice系ソフトを使えるという期待があるのではないでしょうか。ソフトバンクモバイルさんからリリースされたシャープさんの「インターネットマシン 922SH」も、そういうゾーンに近いところにいますよね。ただそこのゾーンには、もやもやっとした期待感はあるんですが、それに対する決定打はどこも出し切れていない気もします。
神尾 逆に激戦区ですよね。ノートPC自体も小型化軽量化していますし。中間領域の商品もどんどん出てきている状況だと思いますが、その中でWindows Mobileの勝算はどこにあるのでしょうか?
梅田 やはりPCのいろいろな資産を活用できることだと思います。アメリカで発表した新しいバージョンの「Windows Mobile 6.1」には、Internet Explorer 6のレンダリングエンジンが搭載されています。(Windows Mobile用の)コンテンツを作る側はPC向けのIE 6や7できっちり表示できることを念頭に置いてページをデザインいらっしゃるので、他社さんの(ブラウザの)レンダリングエンジンを使うとレイアウトが崩れることがあります。PC用に作ったコンテンツをケータイでそのまま動かせるようになれば、ユーザーさんの期待に応えられるのではないかと思います。
神尾 互換性の部分で強みがあるということですね。個人的に気になっているのが、Windows MobileはあくまでPCとセットで使うもの、という点です。そういうPCありきの世界観というのは今後も続くのでしょうか。
梅田 そこはかなりドラスティックに変わっていくと思います。エンドユーザーさんから見たときにハードウェアも小型化していますし、ケータイでできることもどんどん増えているので、“どのデバイスを選んでも同じような経験ができるもの”を欲していると思います。OSはWindows MobileやWindows Vistaなど、異なっていますが、アプリケーションの見え方などは同じという方向になっていきます。
簡単にソフトをダウンロードできる仕組みも作りたい
神尾 個人的にはアプリの追加とかがPCなしでやりたいんですけれど(笑)。
石川 よく分かっているユーザーさんなら、ネットからブロガーが提供する情報を集めて、欲しいアプリを探せると思うのですが、一般のユーザーにはまだまだハードルが高いですよね。私もW-ZERO3は熱心にカスタマイズして使っていましたが、先日購入したイー・モバイルの端末はさすがに同じことを繰り返すのが面倒になり、結局そこまでやらずに断念したので……。もっと手軽に使えるようになればいいな、とは思います。
梅田 そこはWindows Mobileというよりは商品企画の問題でもあります。例えば同じPCでも、DELLとソニーで違いますよね。ソニーさんだと、ビデオ編集に特化したアプリケーションが最初から付いていたりします。日本のメーカーと世界のメーカーの商品企画の違いもあるでしょうね。
神尾 マイクロソフトさんが、今後どういうビジネスモデルを採るのかにも関わってくるのが、OSにプリインストールするソフトウェアの幅をどこまで広げるかという部分と、ソフトウェア流通まで踏み込むかどうかだと思います。その点Appleさんはハッキリしていて、「iTunes Store」の中にApp Store(アプリケーションソフトのストア)を作って、ソフトウェアの流通までやるというスタンスですよね。端末側でアプリのボタンを押せばそのまま買える、PCとつながなくてもインストールできるというのは、使いやすさでは一理あるんです。
iアプリを使っているようなケータイユーザーを取り込むには、ソフトウェアの提供にまでマイクロソフトさんが乗り出すというのは、使いやすさから見たらいいやり方だと思います。
梅田 Windows Mobileのユーザーさんを見ていると、6〜7割がケータイを2台以上使っているような方ですよね。今の日本のケータイはいろいろな機能が最初から入っているから、それに比べると、Windows Mobileはやはり億劫なところもあります。そのギャップを埋めていかないと、我々としても稼げる1台目需要を取っていけないでしょうね。
神尾 ダウンロードすることがダメというよりは、ネットで探して、ダウンロードして、PCからセッティングするとか、導入することが面倒くさいんですよね。Windows Mobileはしっかりとカスタマイズして使えば便利なんですが、そのカスタマイズのプロセスが普通の人には難しすぎると思います。買ってきたままでも必要十分な機能やソフトウェアが用意されていて、その上で、アプリの追加やカスタマイズが誰でも簡単にできる。そうなれば、多くの人がWindows Mobile搭載端末を選びやすくなると思うのですが。
梅田 Windows Mobileのメニューからアプリケーションをダウンロードできるようなものは提供していきたいですね。もう少しユーザーさんに近づく形で、CD-ROMを製品に添付するという方法もあります。ただ、ここはキャリアさんやメーカーさんが各々の商品企画の中でどうするのかという判断になってきます。今まで我々もその点についてあまり議論してきませんでしたが、検討していきたいですね。
神尾 それをマイクロソフトがやるのか、メーカーがやるのか、キャリアがやるのかは、これからディスカッションしていって整理しないといけないですね。
梅田 シャープさんなどの国内メーカーにはしっかり商品企画される方がいるので、そここそ他社と差別化できるところだと思っています。外資系のメーカーには日本のマーケットに精通している人が潤沢にはいないので、そういうところは我々が何とかしなければいけないところなのかもしれません。
神尾 マーケットという視点で気になっているのが、今はハイエンドのOSとして受け入れられているWindows Mobileが、今後どこまでそのハードルを下げていくのか、というところです。Windows Mobileはローエンドの端末まで広げていくのでしょうか。
梅田 なかなかわれわれの思いだけでは実現できないので返事が難しのですが、(ITリテラシーが)低いゾーンも含めて取り込んでいきたいという思いはあります。ただ、そういう人たちに対してWindows Mobileがどこまでできるかは、正直難しいところもあります。
神尾 そこまで広げるには、メーカーさんから見たときにWindows Mobileを採用すればコストが下がるというような明確なメリットがないといけませんよね。
梅田 そうですね。Windows Mobileを採用していてるメーカーさんにある程度のボリュームが出たときに、そのプラットフォーム1本に絞れば、ほかのOSのメンテナンスを続けなくて済むので、じゃあWindows Mobileやりましょう、となるのが理想的なパターンですね。
神尾 中級から下になるとライセンス料の部分でも競争が出てきます。ただ、現状のWindows Mobileのライセンス料はハイエンド寄りですよね。今後しばらくは、ハイエンドを中心に新しいケータイの使い方を創出していくスタンスなのでしょうか?
梅田 パワーユーザー系が主体ですが、我々だけでは進出できないミドルユーザーも積極的に取りに行きたいですね。
(第10回へ続く)
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