第10回 マイクロソフト 梅田成二氏――キャリア独自サービスへの対応も検討:石川温・神尾寿の「モバイル業界の向かう先」(2/2 ページ)
業界のキーパーソンと、ジャーナリストの石川温氏、神尾寿氏が携帯業界についてざっくばらんに語るモバイル鼎談。第10回では引き続き、マイクロソフト モバイル&エンベデッドデバイス本部部長の梅田成二氏に、Windows Mobileの今後の方向性を聞く。
対Android、対Symbian OSで考えたときのWindows Mobileの強み
梅田 今後はどこの通信会社さんもOSの数を絞ろうとすると思いますが、その中で今日的なスペックを持ったものに収斂されていくんじゃないかと思います。
石川 その競争で勝つためのWindows Mobileの強みはどこにあるのでしょうか? 例えばAndroidなどと比べた場合、どうでしょうか。
梅田 Androidの場合はビジネスモデルが一番大きな相違点で、どちらがいい悪いというのは好き嫌いによりますね。我々の強みはOSベンダーであることです。OSの開発は、アーキテクチャーを作ったり、組み込みOSをマルチコア対応にしたりといった、華々しいところはものすごくモチベーションが上がるんですけど、実はOS開発の90数パーセントは地道なデバッグなどの泥臭い作業が占めるんです。そこは1社が責任を持ってやるほうが分かりやすいでしょうね。
神尾 ある意味LiMOもコンソーシアム(連合)ですから、各社がどこまで責任を持つかを考えると、信頼性や安定性という点では彼らも責任分担を固めていかなければならないでしょう。そうなると御社に近い立ち位置にありそうなのがSymbian OSだと思うんですが、対Symbian OSで考えたときのWindows Mobileの良さはどこにあるのでしょうか。
梅田 マイクロソフトには、組み込みOS以外にもWindows VistaやWindows ServerといったOS、サービス系ではWindows Liveメッセンジャーなどがあるので、サーバやサービスと連携させて何かをするという点では圧倒的に我々のほうが有利だと思います。
神尾 先ほど、キャリアの独自のサービスという話が出ましたが、このサービスは「サーバ上で実装できるもの」「ソフトウェア上でできるもの」「ハードウェアまで含めないとできないもの」の3つに分けられると思います。Windows Mobileとしては、FeliCaや内蔵型のワンセグなど、日本土着のハードウェアも含めた垂直型のサービスや機能への対応というのも、キャリア独自のサービスに対応していく中で含まれていくのでしょうか?
梅田 そうですね。我々としては入れたいですね。実際に入れていく中で、テクニカルな問題や人員の問題は出てくるわけですが……。
神尾 IC(FeliCa)系はセキュリティがすごくうるさいので、自由度を保ったままできるかというと難しいかもしれませんね。御社としても将来的にNFC(短距離無線通信規格)分野の対応がモバイル世界でも出てくるので、そう考えるとFeliCaなど非接触ICへの対応というのはWindows Mobileでも“未来を先取る”形で、まずは日本市場の声に耳を傾ける形で取り組んでいただきたいところです。
石川 キャリアサービスがガッツリ使えるWindows Mobileは出てきてほしいですね。
神尾 まあ私としては、FeliCaが使えないと、メインで使うケータイの選択肢に入らないんですけどね(笑)。もう少し視野を広げても、中長期のトレンドとしてケータイでの非接触IC活用は重要になってくると思います。
梅田 FeliCaを使ったサービスも増えていますからね。
本社の開発スタッフには「“デコメ”ってなんだ?」と言われた
神尾 御社としては、当面は端末を複数台持っているハイエンドなユーザーさんがターゲットになっているわけですが、将来的には1台のケータイを使っているユーザーさんのところまではリーチしていきたいという考え方なんですよね。
梅田 そうですね。
石川 総務省を中心に、オープン化でキャリアのビジネスと切り離してみたいという風潮が広がっている中、そこは避けられないポイントなんでしょうか?
梅田 やはり、一般のユーザーが何を望むかというところなんですよね。
神尾 第1歩目のブレイクスルーはデコメ再生や絵文字に対応したメールソフトですよね。デコメが使えないとイヤ、絵文字が使えないとイヤ、という人は女性層だけでなく、一般層にまで拡がっていますし。
梅田 デコメは本社の開発の人間に「日本独自仕様ってなんだ?」と言われて、おサイフケータイ、GPS、そしてデコメもよく挙げているんですけど、いつも言われるのが「GPSは分かるが、デコメってなんだ?」(笑)
神尾 でもデコメというのはコミュニケーションなので、ユーザーに割り切ってくださいとは言えないものなんですよ。デコメが使えないと、友達とのコミュニケーションで楽しみが減ってしまう。GPSやFeliCa、ワンセグよりも先に取り組まないといけない分野かもしれません。
梅田 デコメを(本社のスタッフに)見せると、そもそもメールに見えないわけですよ。アニメーションが動いていたり、文字がいっぱい点滅したりして、「何これ?」という(笑)。
実はとあるメーカーのエグゼクティブと話す機会があったのですが、(彼は)デコメをガンガン送ってるんですよ。「見てみろ、A社のエグゼクティブはこんなメールを送っているぞ」と(本社のスタッフに)言うと、「日本のビジネスマンはこんなことをやっているのか!」と言われるわけです。それもまた誤解なんですけどね(笑)。
デコメの部分を我々が作るのがいいのか、それともサードパーティーのベンダーさんに作ってもらったほうがいいのか、という問題はあります。
石川 Advanced/W-ZERO3[es] のデコメ(デコラティブメール)は、シャープが作って対応しているんですか?
梅田 そうですね。
石川 GoogleのGmailも絵文字に対応しているので、マイクロソフトさんもそのへんは頑張ってほしいな、という思いはあります。
梅田 そこは人にディペンドしているところもあると思います。Googleさんの場合、もともとキャリアにいた方が開発に携わっていらっしゃると聞いています。もちろんマイクロソフトでも、本社の著名な技術者が日本に駐在するようになったりしています。今すぐというわけにはいきませんが、徐々に日本固有のものも入ってくると思います。
データのシンクロサービスも提供したい
神尾 Windows Mobileは硬いイメージがありますが、徐々に一般の人にとって使いやすい、柔らかいものになっていくという感じですか?
梅田 そうですね。
神尾 柔らかいWindows Mobileが増えてきて、少しケータイを使いこなしているような普通の人がWindows Mobileを使えるようになったときに、Windows Mobileの市場がどう変わっていくのかも気になります。
梅田 今は多くのユーザーがケータイを2台持ったりPCを持ったりしていることもあり、キャリアさんのメール、Yahoo!メールやGmailなどのWebメール、個別に契約したインターネットサービスプロバイダのメールなどを使っていて、メール1つをとっても(サービスが)統合されていません。会社のメールは個人情報の観点から外に持ち出せないという問題もあります。
1台の端末でどのメールも見られて、どの端末でメールを出そうが受けようが、全部シンクロされている状態というのが理想ですね。それを今やろうとするとけっこう大変で、マイクロソフトの社内だと簡単に接続できますが、一般のユーザーさんが自分でケータイを買ってきて会社のサーバとつなごうとすると、いろいろなハードルがあって、なかなか使いやすい環境になりません。
神尾 完全にシンクロされれば本当にすごく便利だと思うんですけど、そこまで持っていくのは大変ですよね。でもPCでもケータイでも、サーバ共有で家電でも(メールなどの)情報を見られることになれば、すごく便利なんです。そこではUIと(サーバー側の)サービスが上手に連携する仕組みが重要になると思います。この「シンクロ」というトリガーを誰かが早く引いてくれないかなと思うんですけどね。
梅田 KDDIさんなどのように「SaaS(Software as a Service)」という形で取り組んでいるところもありますし、我々がWindows Liveをやっているのも、目指している方向は同じだと思うんですよね。
神尾 Windows MobileのOSを広げつつ、シンクロしやすい環境を作るのは、マイクロソフトさんとしては力を入れていくということですね。
梅田 そうですね。ネットサービスも含めて提供していきたいですね。ですのでマイクロソフトブランドでやるか、他社ブランドでやるかというビジネスモデルの違いなども考えなくてはいけません。
神尾 Appleの「.Mac」(http://www.apple.com/jp/dotmac/)みたいにユーザーが何もしなくても、IDとパスワードだけ入れておけば全部シンクロしてくれて、買い替え時の再設定の心配もないという世界観は欲しいと思うんですけどね。
石川 そうですね。個人で無線を使ってスケジュール管理などをしてシンクロさせるようなサービスがいくつかありますが、それはハードルが高いような気もします。それをマイクロソフトなどがリードしてやってくれればいいなと思いますね。
(第11回へ続く)
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