商用テストが始まった中国の3Gサービス「TD-SCDMA」、その実力は(3/3 ページ)
中国の3G規格である「TD-SCDMA」の商用テストサービスが始まった。試験サービスということでエリアはまだ狭いものの、独自に開発したシステムということもあり、海外からの注目度は高い。今回、香港在住の筆者が中国の各都市で「TD-SCDMAがどのくらい使えるか」を実際に試した。
PCのデータ通信はどうか
次はパケット通信速度を試そう。このテストをする際、当初は音声型のTD-SCDMA端末をPCと接続してインターネットへアクセスすることを考えた。しかし、端末に付属するソフトウェアがうまく動作せず、PC側からダイヤルアップされない。中国移動の販売店を再訪して現象を確認したところ、2008年5月現在で発売される携帯電話型端末は“モデム機能がない”とのことだった。というわけで、PCデータ通信を考えるなら現状はデータ通信モデムを購入しなければならない。
PCデータ通信には専用の料金プランがある。100人民元/月で最大2Gバイト通信できるプランと200人民元/月で5Gバイトまでの2タイプを用意する。残念ながら定額で使えるプランはまだなかった。
今回はZTE製のUSBタイプのモデムを利用した。対応OSはWindows 2000/XP/Vista。PCのUSBポートに接続すると自動的にドライバと接続ソフトをインストールしてくれるので、利用開始までの作業は簡単だ。しかし、ソフトの対応言語は簡体字中国語のみ。英語もサポートせず、日本語OSのWindowsなどで使うと、ソフトの表記がすべて文字化けしてしまう。この場合は一時的に中国語のソフトの文字化けを回避させるなどしてメニューやアイコンの意味を調べておく必要があり、別途、多少なりとも中国語が分からないと辛い。TD-SCDMAは国際規格であり、世界にアピールするシステムでもある。接続ソフトは、少なくとも英語対応は早急に行うべきだろう。
では肝心のTD-SCDMA回線による速度はどうか。試した都市は北京、上海、深セン。中国内/中国外(例えばYahoo!Japan)のWebサイトともに下り350kbps前後、上り100kbps前後の速度が出た。体感値としても中国内で現在提供されるEDGE(実質100kから150kbps程度)よりも快適と思えた。
もちろん速度が低下したり、回線が突然切れてしまうことはある。しかし、速度そのものはきっちりと3Gなりの速度が出た。データ通信用途であれば、この速度は現時点でも十分実用的と言えるかもしれない。
本サービスの開始までに改善すべき点もいくつか
ようやく開始された中国のTD-SCDMA。やはりまだ「テストサービスレベルの実力」というのが実際に使ってみた感想だ。中国移動もユーザーのフィードバックを受けながら改良に取り組む姿勢を見せているが、解決すべき問題は山積みだろう。
まずサービスエリア。こちらは早急に拡大する必要がある。サービスを開始した都市であっても利用できないエリアが多いようでは技術の優劣以前に携帯として安心して利用できない。2008年5月現在は商用テスト中であるとはいえ、ユーザーが実際に端末を購入して料金を払う有償サービスである以上、既存のGSMと同等クラスのエリアは少なくとも必須といえる。今後、ほかの都市でサービスを開始する場合も「最初は一部エリア、後から全エリアに拡大」ではなく、最初から都市内全エリアをくまなくカバーしてほしいと思う。
発着信不能などの問題は、回線の安定度を高めるだけではなく端末そのものの改良も必要だと思われる。今回入手した端末も、特にZTE製にハングアップの回数が多いように感じられた。もちろん再起動すれば直るものの、これでは安心して使えない。
最後にユーザーの視点で見ると、TD-SCDMAに「乗り換える必要を感じさせる魅力」がまだ欠けている。特に端末ラインアップの少なさは致命的。ハンドセット型端末は上位モデルのZTE製、Samsung製、LG電子製の機種は質感や機能も含めてとりあえず合格点といえるレベルだったが、同価格帯のGSM端末と比較してしまうと「3Gであること」以外にメリットがないばかりか劣る。中国では3000人民元も出せば大手メーカーの高機能GSM端末が買えるからだ。
さらに、それ以外の機種は機能以前に質感も低レベルで、話にならない。今後中国移動は対応機種を多く追加していく予定とするが、ユーザーの目をTD-SCDMAに向けさせるためには、既存のGSM端末より機能面はもちろん質感も見劣りしない機種をそろえていく必要がある。
一方、データ通信用途であれば現状でもかなり満足できるものだった。特にビジネスユーザーにとっては外出中や移動中でも、高速にWebアクセスできる環境が得られるのが魅力だ。3Gを活用した携帯端末向けサービスはまだこれからだと思うが、例えば北京オリンピック開催に合わせた動画コンテンツなどを配信すれば、3Gに興味を持つユーザーも増えるのではないだろうか。
中国移動は北京オリンピックの公式スポンサーであり、TD-SCDMAユーザー向けに毎日MMSによるオリンピック情報の配信を行っている。しかし、こちらは静止画情報のみ。このため、無料であっても見ないユーザーは多いようだ。
TD-SCDMAは現時点では中国国内のみで展開する規格であり、日本を含めた海外のユーザーにとってはそれほど関係のない技術かもしれない。しかし将来中国全土でサービスが開始されれば、国内のどこにいても高速な3Gネットワークが利用できるようになる。そうなれば前述したデータ通信モデムのレンタルサービスなども新しいビジネスとして渡航者向けに提供される可能性も高くなる。
それにより日本人でも中国内でワイヤレスインターネットアクセスがどこでも可能になるかもしれない。また将来TD-SCDMA/W-CDMAデュアルモード端末などが開発されれば、日本と中国両国を1台の携帯電話で利用する、そんな時代がやってくるかもしれない。
関連記事
- 北京オリンピック“ケータイ”活用ガイド
2008年8月に北京オリンピックが開催される。日本からも多くの人が観戦のために中国・北京へ訪れることだろう。今使っているケータイが中国でも使えるのか。そもそも中国でケータイの電波は入るのか。現地プリペイドSIMカードはどうやって購入するのか。香港在住の筆者が一足早く「日本のケータイが中国でどう使えるか」を現地で試した。 - 3G導入を前に、揺れる中国PHS(2006年3月)
PHS MoU Group総会で話された中国の通信事情からは、国産3GシステムTD-SCDMAの導入を前に、PHSの立ち位置を含め、業界再編もあり得る状況が見えてくる。 - China UnicomとChina Netcomが合併――中国の通信業界、本格再編へ(2008年6月)
- PT/Wireless&Networks Comm China 2005:ついにベールを脱いだTD-SCDMA
中国独自開発の3G方式「TD-SCDMA」。PT Comm 2005では多数の端末や基地局が展示されており、商業化が目前であることを感じさせた。 - PT/Wireless&Networks Comm China 2005:スマートフォンから音楽版小霊通まで、気になる中国最新端末
Windows Mobile端末から進化する小霊通まで、中国メーカーの最新端末をリポートしよう。 - イー・アクセス、TD-SCDMA(MC)実験局本免許を取得(2004年5月)
- イー・アクセス、1.7GHz帯に参入表明(2004年10月)
- Nortelと中国のChina Putian、3Gの合弁設立へ(2005年1月)
- 3G携帯技術TD-SCDMA、中国で2005年までに商業化(2004年6月)
中国政府関係者が、国産3G携帯電話技術「TD-SCDMA」は来年6月までに商業化の準備が整うと発言。ただし3Gライセンスの発行時期については明言していない。 - Samsung、3G/GSM対応のデュアルモード携帯投入へ(2004年10月)
- ACCESSとDatang、中国独自の3G「TD-SCDMA」で協業
- TD-SCDMA(MC)提案者が来日 〜中国製端末を披露(2004年2月)
TD-SCDMA(MC)方式の提案者であるDr.シュー・グアンハン氏が来日し、技術説明を行った。同氏は会場で、中国製のTD-SCDMA(MC)端末を披露。PCスロットに挿すタイプで、下り最大1Mbpsを実現するという。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.