“クール”ではなく”スリーク”──「G'zOne W62CA」が追い求めたもの :開発陣に聞く「G'zOne W62CA」(2/2 ページ)
根強いファンがいる「G'zOne」シリーズの最新モデル、「G'zOne W62CA」は、大胆な薄型化によってさらなる進化を遂げた。それでいて、従来どおりの防水性能と耐衝撃性能を備えている。“普通の防水ケータイ”とは決定的に違うG'zOneの最新モデルはどうやって生まれたのか。開発陣に聞いた。
デザインと実装設計とのせめぎ合い
新生G'zOneの“薄型化”というテーマ。これは機構設計担当の安田晋也氏にとって、最も大きな課題だった。
「薄くするだけなら、W52CAやW61CAといった、防水で薄型を実現したモデルの実績がありますが、今回はそれをタフにしなければならないのが一番高いハードルでした。ただ、防水端末の厚さを薄くする方法は、W52CA、W61CAでなんとなく道が見えていました」(安田氏)
こう安田氏が語るように、すでにW52CAやW61CAで、“薄くて軽い防水モデル”の技術は確立している。そこで掲げられたのが“W62CAではW61CAの20ミリを切る”という目標だ。このレベルまで薄くできれば、“タフ”といっても無骨でゴツいのではなくスタイリッシュなイメージを持ったタフにいくのではないかと考えたのだ。そこでまずはW52CA、W61CAに対して、“タフ”という観点での強度評価を行った。
「このタフという観点での強度評価というのは、通常のモデルでは想定しないレベルの試験です。するとダイヤルキー側の筐体はそこそこいけるのですが、やはりディスプレイ側は液晶が割れるといった不具合が出ました。ではそれを割れないようにするにはどうしたいいか、ということをたたき台として考え始めました」(安田氏)
強度評価の結果から、このディスプレイ側ケース(上ケース)の強度さえ確保できれば、薄くても“タフ”としての規格もクリアできるということが見えた。その一方で、これまでG'zOneのサイズが大きかった要因として浮かび上がったのが、カメラを上ケースに置いていたことと、サブディスプレイに比較的大きな液晶を採用したため、上ケースを薄くできなかったことだった。そこで、この上ケースを薄くてタフなものとするために、機構設計チームが電子ペーパーの採用を提案した。
安田氏によると上ケースの不具合は液晶が割れるケースが多く、G'zOne Type-RやW42CAのようにメインディスプレイとその裏側に大きな円形の液晶を持っていると、破損の可能性が高くなるという。その点、電子ペーパーは曲げや押しといった外圧に強いため、設計の立場から安心して使える部品だった。そのため、設計のエネルギーをメインディスプレイのみに注力できるメリットは大きかったというのである。
もちろん、上ケースのタフさはこの電子ペーパーの採用によるものだけではない。事前の検討で、上ケースにバンパーを付けるのは必須ということも分かっており、これはデザインチームでも、デザイン上のポイントとして考えていたアイデアだった。しかし、設計チームではこれに柔らかいエラストマー素材を想定していたのに対して、デザインチームではもう少し硬い樹脂を検討していた。というのも、エラストマーは塗装をはじめとした加工が難しいからだ。
「ヒンジと先端はエラストマーのほうがいいというのは、理にかなっていると私も分かっていました。だからといって、そこにデザインの要素を捨ててまで踏み込むのかというと、私としてはW62CAの魅力をどこに持ってくるかというところで妥協できませんでした。加飾という点で高輝度塗装やポイントのカラーは、ここに持っていきたいと最初から考えていましたから」(杉岡氏)
「このバンパーの素材をエラストマーにするか樹脂にするかではデザインチームとやりあいました。当然我々としては衝撃吸収の機能性を重視してエラストマーにしたかったのですが、デザインチームはそこにデザインの要素を置きたかったわけです。そこで最終的にバンパーにエラストマーと一般的な樹脂を使った2つをタフネス規格のテストにかけて、それに持ちこたえることができたらデザインチームの加飾ができる樹脂で行こうと結論に至りました。結局試験の結果、一般的な樹脂でも問題ないことが分かり、それに決まりました」(安田氏)
こうしてW62CAは上ケースの薄型化を実現できた。一方ダイヤルキー側のケース(下ケース)でも、W61CAなどの技術をベースにして薄型を目指した。従来のG'zOneシリーズでは、シャシーとなるケースの上に、加飾したカバーを被せる方法を採用している。つまり二重構造になっている。しかし、W62CAではW61CAなどと同様に、剛体となるケースそのものが外側に露出している。
「耐衝撃という意味では、ただ単に堅牢にするだけでなく、軽くすることも重要です。G'zOneシリーズはW42CAでかなり重くなってしまい、我々としても(強度の確保は)これが限界だと感じていました。これ以上いろいろな機能が付加されると、さらに大きくなってしまい、サイズと強度のバランスが成り立たないことが見えてきていたのです。そこでW62CAではシェイプアップして、『負荷はかかるが、軽くすることでその負荷自体を減らす』という方法を採り、強度を保ちました」(安田氏)
そのため、下ケースにも薄型化、軽量化が図られた。その代表的なものが、G'zOneシリーズではW62CAで初めて採用したシートキーだ。従来のシートキーは、フレームとなるケースの上に貼り付けるのが一般的で、その下にLEDを自由に配置できた。しかしW62CAでは薄さを優先したため、このフレームがない。このシートキーの下にLEDを配置すると、キーが強く押された場合には、LEDがシートを突き破る可能性がある。そこで、LEDは上部2灯のみにして、導光板で全体に光を行き渡らせる設計にした。
「LEDを2灯にまとめ、導光板で光を下まで回すようにしたのはよかったのですが、どうしてもダイヤルキーの全面に光が行き渡りません。そこで、導光板に付ける反射用のドットの数を上と下で変えたり、シートキーそのものの印刷版数を上のほうは少なめに、下のほうは多めにしたり、印刷の添加剤に変化をつけたりといろいろ工夫をしました」(安田氏)
このほか、黒やグリーンは光の隠蔽性が高いので光が下まで届くのだが、白は光が抜けやすく、設計当初は上下で明るさが大きく変わってしまうなど苦労したという。白は文字が光ると周りの白と判別しにくいということが分かり、白だけ文字の周りをぼかすような照光にしたが、今度は光源に近い上のほうで光が抜けてしまい、下まで届きにくいということもあったという。
シートキーを採用するなど“スリーク”なタフさを追求したW62CA。このスリークさを表現するために、もう一つG'zOneの伝統が破られている要素がある。それは本体表面に露出していた“ネジ”だ。上ケースのバンパーに、丸いモチーフが残るものの、ネジそのものは露出していない。G'zOneのタフネスさの表現にもなっていたネジを見せることをやめたことについて、杉岡氏は次のように説明する。
「最初は今回もネジを見せる構想でした。しかし、今回のコンセプトに合わないというほどでもないのですが、スリークさを前面に出すには、今までのTYPE-RやW42CAのネジをそのまま使うとなると、過剰にタフ感を表現してしまう要素になりかねません。そこで当初は、従来のネジとは違う形状のネジを起こすという話もありました。しかし、薄型化されたこともあり、実装上の理にかなった位置にネジを打とうとすると、ネジをデザインの要素として扱うにはバランスがあまりにもよくなかったのです」(杉岡氏)
杉岡氏によると、ネジそのものをデザインの要素にしようとすると、ケースが割れそうなくらい端に配置する必要があったという。それでは見栄えが華奢になるばかりでなく、実際に割れてしまう可能性もある。それはG'zOneとしてはありえないことで、当初は設計チームとかなりやり合ったそうだが、結局はデザインチームが泣く泣く引いて、ネジを隠したのだという。
「W42CAまでの機種でも、簡単にネジが出ているように見えますが、実はかなり設計とデザインの間で調整が必要なのです。当然デザイナーとしてはシンメトリー(左右対称)な位置を好みますが、中にデバイスがいろいろ入っているため、必ずしもネジの位置は左右対称にはなりません。また、ネジを外に寄せれば寄せるほど、中の設計の自由度は高くなります。そのやり取りの中で、今回はスリークというコンセプトに我々設計側の主張が助けられたといえるかもしれませんね」(安田氏)
新しいユーザーにもコアなG'zOneユーザーにも響く仕上がり
最後にこのG'zOne W62CAの開発に携わったスタッフは、次のように今回のプロジェクトをまとめてくれた。
「なんと言っても厚さ20ミリをクリアできた点が印象深いです。簡単に19.9ミリになったと言っていますが、そこに至るまでには、今までのタフのイメージからするとかなり高いハードルがありました。しかし、事前検討を含めて開発を進めていく中で、G'zOne でありながらもこの大きさ、薄さにまとめることができたということは、かなり胸を張れると思います。ぜひ手に取っていただいて、今までになかったG'zOneのサイズを感じていただきたいと思います」(安田氏)
「新生G'zOneとしては、今までのG'zOneユーザーからどう受け取られるのか、そしてこのサイズでタフだという点では、一般ユーザーの方々にどれだけ受け入れられるのかという点に、とても興味があります。新しくなったG'zOneの感想を、ぜひ実際に使ってみて聞かせていただきたいと思います」(杉岡氏)
「実は私は、G'zOneの企画に携わるのは今回が初めてでした。G'zOneはコアな世界観を持ってやってきている中に、私も飛び込んで非常に熱いものを感じつつ、それをまとめ上げて推進していくというのは難しかった反面、非常に楽しかったです。今回、ターゲットを広くするという新しいチャレンジが、コアなユーザーからどう思われるかということを心配していました。
しかし、グループインタビューや説明会などで聞いた中では、コアなユーザーの方々に、『サークルディスプレイが変わった』と言われながら、『でもやっぱりG'zOneだよね』『すごくいいよね』と言っていただけたのが嬉しかったですね。W62CAで初めて防水・耐衝撃性能を持ったケータイを手にされる方もいるでしょうし、G'zGEARは何に必要なのか、と思う方もいらっしゃるでしょう。でも、それがカッコいいと言ってくださる方もいます。新たに触っていただくことでG'zOneの世界観にどっぷり浸かって、次からこれを手放せないと言っていただけるような物になっていると思います」(佐合氏)
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