W-ZERO3から「WILLCOM 03」へ――ブランド名変更に隠された狙いとは:開発陣に聞く「WILLCOM 03」 前編
W-ZERO3シリーズからさまざまな改善を行い、スマートフォンとしての完成度を高めたウィルコムのシャープ製スマートフォン「WILLCOM 03」。従来モデルから変わった点と変わらなかった点を開発陣に聞いた。
ウィルコムの「WILLCOM 03」は、発表会でウィルコム代表取締役社長の喜久川政樹氏が「W-ZERO3シリーズの集大成」と紹介したシャープ製のスマートフォンだ。
ボディは、50(幅)×116(高さ)×17.9(厚さ)ミリと同社スマートフォンの中では最小サイズで、一般的なスライドケータイとほぼ同じ大きさ。それでいて、W-ZERO3シリーズでおなじみのスライド式QWERTYキーボードを備えている。
3インチワイドVGA(480×800ピクセル)液晶がタッチパネル対応というだけでなく、十字キー/ダイヤルキーがある操作部にもタッチセンサーを採用。カーソルキーとダイヤルキーが用途によって切り替わるイルミネーションキーにより、表面がフラットな端末デザインを実現した。
OSにはWindows Mobile 6.1 Classic 日本語版を採用。またウィルコム端末として初めてワンセグを内蔵するほか、Bluetooth(v2.0対応)、無線LAN(IEEE 802.11b/g準拠)、赤外線通信機能(IrSS)、microSDスロット、200万画素AFカメラなど充実した機能を搭載した。
WILLCOM 03はどういった点が集大成なのか。なぜ、従来の“W-ZERO3”からブランドを変更したのか。ウィルコム サービス計画部課長の須永康弘氏に話を聞いた。
スマートフォン市場でウィルコムのシェアが下がっている
須永氏は「W-ZERO3」(WS003SH)以降、一環してウィルコムでスマートフォン開発に携わってきたキーマンの1人。その須永氏が今気がかりなのが、スマートフォン市場におけるウィルコム端末のシェア低下だ。
「W-ZERO3の発売後は100%近かったシェアは、Advanced/W-ZERO3[es]を出したときに86%、WILLCOM 03発売直前は約70%でした。他キャリアがラインアップを充実させたこともあり、年に10%程度シェアを落としていることになります。目標は“シェア100%”ですが、現実的にそれは無理。とはいえ、シェアが減っているからには何か手を打たないといけません」(須永氏)
依然高いシェアを獲得しているとはいえ、その競争は激しくなることが予想された。スマートフォン市場がにぎわうのはウィルコムも歓迎だが、うかうかとそのシェアを奪われる訳にはいかない。現実に、Appleの「iPhone 3G」がソフトバンクモバイルから発売されたほか、W-ZERO3シリーズと同じWindows Mobileを搭載するHTC製の「Touch Diamond」やSamsung電子製の「OMNIA」なども国内販売が近いというウワサもある。
「しかし出荷台数ベースを見ると、我々のスマートフォン事業は成長しています。W-ZERO3シリーズは新モデルを出すごとに120%程度出荷台数が伸びている。さらに法人導入も着実に増加していて、伸びしろはまだまだあります。それでもシェアが落ちているのは、市場全体の成長にウィルコムの成長が追いついていない――ということです」(須永氏)
にぎわいを見せている日本のスマートフォン市場が飽和したとき、ウィルコムのスマートフォンシェアはどれくらいなのか。それを考えた須永氏ら開発陣は、思い切った発想による新機軸のスマートフォンを開発することで、いわば先行逃げ切りを図った。
「開発が始まる前、メーカーであるシャープさんと打ち合わせして『これまのでノリでチマチマとスペックをアップデートしてちゃダメですね』ということにしました。スマートフォンとしてではなく、ウィルコム端末として、とんがった存在を作らないといけない。そこでまず、デザインにこだわることにしました」(須永氏)
W-ZERO3シリーズは年に1台程度、新端末を発表してきた。2007年7月に発売したAdvanced/W-ZERO3[es]も、ケータイ的な要素を高め、デザイン性を強調したスマートフォンだったが、WILLCOM 03はさらにその方針を強めた。それは、予想以上に動きが速い業界の動きに対応するためだという。
「“インターネットマシン”『922SH』や『iPhone 3G』には衝撃を受けました。『PRADA Phone by LG』もなかなかの仕上がりだし、HTCの「HTC Touch Diamond」もいい端末です。それぞれにすごいなと思う点があります。考え方は違いますが、初めて触ったときに楽しくてたまらないという要素が大事であると再確認しました」(須永氏)
「できる」「できない」の応酬2カ月
ウィルコムらしい端末を目指し、デザイン重視の方針で開発がスタートしたWILLCOM 03。須永氏はまず、理想とするサイズについてシャープのデザイナーと打ち合わせを行った。しかし、いわゆる“ケータイ”である音声端末と違い、スマートフォンは大きなバッテリーや処理能力の高いCPUが求められる。
「スマートフォンを作るための物理的な制約は大きいものですが、今回はそれらを一切無視してデザイナーとコンセプトを詰めました。それは今までにないサイズ感の、圧倒的にすぐれたデザインを持つ端末を作るためです」(須永氏)
従来のW-ZERO3シリーズは“端末で何をしたいのか”を重視し、必要な機能を搭載したあとに、サイズや重さ、デザインを固めてきた。しかしその路線を続けた場合、機能を強化し続ける音声端末と、PRADA PhoneやiPhoneのような“ブランド重視”のタッチパネル端末に挟み撃ちにあう。須永氏は、WILLCOM 03でウィルコムスマートフォンのアイデンティティをしっかりと立てることを目指した。
須永氏が求めたサイズとは、幅50ミリ以下、高さはワイシャツのポケットにすっぽり入るというもの。幅50ミリは前モデルのAdvanced/W-ZERO3[es]で実現しているが、これは高さ135ミリとやや縦長のボディにしたことで実現できたと須永氏は話す。
「Advanced/W-ZERO3[es]を開発したときも幅50ミリを目標にしましたが、前回は“高さに逃げる”ことでようやく実現しました。しかし今回は胸ポケットにすっぽり収めたいので、高さに逃げることもできない。さらにPHS(W-SIM)や無線LANに加えて、Bluetoothやワンセグなどケータイでは当たり前の機能も載せたい。開発スタート後の2カ月間は、シャープさんと『できる』『できない』の押し問答でした」(須永氏)
その後できあがってきた試作機の幅は約52ミリで、Advanced/W-ZERO3[es]より2ミリほど幅が広がった。これ以上小さくすることは難しいと思われたが、最終的にタッチパネルとそれを左右から保持するパーツを工夫することで幅を抑え、ついに50ミリをクリアした。
「Advanced/W-ZERO3[es]の発表会で『50ミリがスマートフォンに最適な幅』と宣言した手前もありますし、何より1年前の端末より幅のあるものは発売したくない。タッチパネルとボディをフラットにするのも技術的に難しいものがありました。しかし、それはユーザーには関係のないことです。シャープさんに『作りたいものを作りましょう』と無理やりお願いしてこのサイズを作り上げました」(須永氏)
またカラーバリエーションも、ポップな3色を初めからラインアップするという、スマートフォンには珍しい取り組みを行った。Advanced/W-ZERO3[es]も最終的にプラチナシルバー、ブラウニーブラック、ピーチブロッサムの3色展開となったが、これは出荷台数の伸びに応じて新色が追加されたためだ。
「スマートフォンはビジネスツール――だから色がないのはおかしい。初期案は40通りくらいを出して検討しました。ボディカラーも同系色を2色使うツートンカラーで変化を出し、最終的にゴールドトーン、ライムトーン、ピンクトーンの3つに絞りました。発売時から3色も選べるのは、これまでのスマートフォンにない魅力です」(須永氏)
端末としてのインパクトを求めて、デザインを重視し、限界に挑んだ小型化。その代償が、専用部品の採用によるコストの上昇だ。従来は汎用部品を採用して徹底したコスト管理を行ってきた。それだけにW-ZERO3シリーズは、ほかのスマートフォンと比べてリーズナブルに提供することができたが、WILLCOM 03は違う。また、モデルの販売開始からカラーバリエーションを多色展開するのも、コストを上昇させる要因だ。
しかし販売価格を上げるわけにはいかない。そこでウィルコムとシャープは、端末の生産数を増やし、スケールメリットによりコストを低下させることにした。これには、出荷台数を増やし、市場の成長に追いつこうというウィルコムの戦略も重なってくる。
「端末開発の規模が、もう携帯電話と同じくらいになりました。我々も泥縄の世界に足を踏み入れたわけです」(須永氏)
W-ZERO3から“WILLCOM 03”へ。ブランド名の変更に隠された狙いとは、1端末のモデルチェンジではなく、日本のスマートフォン市場を担う“ウィルコムの覚悟”を表すものといえるだろう。「次回の開発陣に聞く『WILLCOM 03』中編」では、WILLCOM 03の大きな特徴であるイルミネーションキーの秘密に迫る。
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