「常に測位する低消費電力GPSチップ」がもたらすモバイル機器の近未来──Air Semiconductorに聞く
携帯電話では一般的になってきたGPS。これをデジタルカメラなど、そのほかのモバイル機器にも積極的に活用できる「常に測位する低消費電力GPSチップ」を開発したのが英国のベンチャー企業Air Semiconductorだ。日本事務所を構え、デジカメメーカーや携帯電話関連企業へのアプローチを始めたという同社CEOのスティーブン・グレアム氏に狙いを聞いた。
携帯電話へのGPS搭載が一般的になってきた。もはや、エントリーモデルでもGPSが標準機能になろうとしている。
しかし、デジタルカメラやそのほかのモバイル機器においては、それほど普及していないのが現状だ。そんな状況下で、デジタルカメラや携帯電話向けを中心に瞬時に位置情報を取得できるよう、新たな技術を開発したのが英Air Semiconductorという会社だ。
Air Semiconductorは2006年5月に設立されたばかりのベンチャー企業。創業者のスティーブン・グレアム氏は「設立した約2年前から位置情報技術がこれから重要になると見ていた。我々が差別化すれば、まだ他社に勝てるという自信があった。特にデジタルカメラの分野では多くの課題を抱えていたため、それらが我々の技術で克服できることが分かった」と設立の経緯を語る。
同社の強みは低消費電力かつ高速な位置情報取得にある。とりわけ既存のGPSとは異なるアプローチをする点が特徴だ。
「バッテリー駆動型機器であるデジカメや携帯電話、携帯音楽プレーヤーなどに対して、位置情報を提供できる技術を持っている。特に現在地を瞬時にとらえることを可能とするのが最大の特徴だ」(グレアム氏)
Air Semiconductorが開発したGPSチップAirwave 1はほぼ同サイズの既存のGPSチップと比べて、消費電力を100分の1に抑えられるという。そのため、常に位置情報を取得し続けることが可能で、瞬時に現在位置を確認できる。よくあるGPS機能はアプリケーションを起動してから実際に位置情報を取得するまでやや時間を必要とするが、その「待ち時間」がまったくなくなるというのだ。
「携帯電話では携帯基地局情報と連携して現在地の測位を速くするA-GPS(Assisted GPS)などの技術があるが、こちらも裏で常に動いているわけではないので、起動してからでないと現在地を測位しない。その点、弊社の技術であればアプリケーション側でロケーションを求めてきたら、すぐに位置情報を返すことができる」(グレアム氏)
測位の精度を制御して低消費電力を実現
Air Semiconductorのチップが低消費電力を実現できるのは、測位の精度と消費電力のどちらかをトレードオフしているためだ。
「例えば、ユーザーが自宅からオフィスへ向かう場合を考えてみよう。クルマで、やや高速に移動する際は精度を低くしてもいい。そして、オフィスに近づき、速度が落ちたら細かく測位する。こうした制御を行うことで、常時測位をしていても総合的に消費電力を低く抑えられる」(グレアム氏)
また、既存のGPSでは衛星の電波が届かない場所にいるとそもそも測位できないが、常に測位する同社のチップは、GPSの電波がとぎれる寸前の情報まで取得しているので、おおむねの位置情報を提供できるメリットがある。
このチップを活用すると、例えば携帯電話であれば、よくある写真へのジオタグ挿入や地図・徒歩ナビアプリへの利用はもちろん、「オフィスに着くと着信音が自動でマナーモードになり、自宅に戻ると通常の音量に戻る。高速移動中は自動でドライブモードにする」といった状況に応じた自動制御から「どこかのビルに入ったら、その場所に応じた周辺情報を自動的に表示する」などといった位置情報を元にしたサービス展開も可能になる。KDDIがau携帯向けに展開する「au Smart Sports」のようなサービスにも、より有効的に応用できるだろう。
「いまのデジカメは、いつ撮影したかという情報は残せるが、どこで撮ったかというデータは残せない。これまでデジカメメーカーは『画像に位置情報を付与したい』と考えていたが、実現までには至らなかった。なぜなら既存のGPSでは写真を撮ろうと思ってから、現在地を測位するまでにやや待たされ、シャッターチャンスを逃してしまうことが考えられたからだ。それも、Airwave 1があれば問題の多くは解消される。まずはデジカメの分野で成功を収め、携帯電話分野にも進出していきたい」
Air Semiconductorはすでに日本事務所も開設し、デジカメメーカーや携帯電話関連の企業とも話し合いをする段階だという。
「2009年末までにデジタルカメラに搭載していきたい。その後に携帯電話、さらにほかのモバイル機器にも広げていく。長期的にはユビキタスにすべてのデバイスに入れていくのが目標だ」(グレアム氏)
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