「肝要なのは得意分野を伸ばすこととβ版サービスを許容すること」――KDDI 伊藤氏:CEATEC JAPAN 2008
KDDIの代表取締役執行役員副社長の伊藤泰彦氏が10月1日、CEATEC JAPAN 2008の講演でKDDIの未来を語った。同氏は「FMBCは必然」と話し、固定と無線、そして放送の融合は必ず進むと説いたが、一方で日本が世界にごして戦っていくために「β版サービスを広く受け入れる素地が必要」と話した。
その独特の商慣行や、欧米とは異なる独自の進化を遂げた携帯端末をして、日本の携帯電話業界は「ガラパゴス」などと揶揄されることがある。しかし、CEATEC JAPAN 2008の基調講演「KDDIのFMBC戦略」の中で、KDDI 代表取締役執行役員副社長の伊藤泰彦氏は「日本はその力を生かして高機能な端末を作り続けるべきだ」と説いた。そして、欧米のように、β版を活用して新しいビジネスを作るような慣習に順応する必要性を力説した。
ケータイが向かう先は「高機能なパーソナルエージェント」
伊藤氏は、従来は単なる電話機能しか持たず、あくまでも“電話機”だったかつての携帯電話が、今やメールやブラウザ、オーディオプレーヤー、ワンセグ、おサイフケータイなど、さまざまな機能を搭載し「外部とのさまざまな接触ポイント」に進化していると指摘。今後は、ユーザーに代わってケータイが複合的な処理を行い、それをユーザーに対してフィードバックするような、もう一歩高いところへと端末を進化させたいという。
「ケータイは、パーソナルエージェントになると確信している。情報を発信し、必要な情報を収集して、ユーザーに提案する。ゆくゆくは医療機能と連携するライフサポートや、テレビの通販番組を見ながら、その場ですぐに買い物ができるようなリモコン・レコメンド機能などを取り込んでいきたい」(伊藤氏)
このエージェント機能については、ワイヤレスジャパン2008でも、KDDIの小野寺正社長兼会長がすでに指摘しているが、伊藤氏はエージェントのイメージとして、トヨタ自動車がレクサスのオーナーに提供しているコンシェルジュサービスを例示した。必要に応じて電話で話ができ、例えば現在地をもとに近くにあるレストランを探してもらい、気に入った店があれば代わりに予約を入れ、ナビにレストランの位置情報を送ってくれたりするような、微に入り細に入り、いろいろなことをしてくれるコンシェルジュ機能がケータイにも入ってくると考えており、そのような技術を開発しているという。
またケータイに搭載するエージェント機能は、機能ごとにプラグイン化して、ユーザーが必要に応じて付けたり外したり、その時々の利用シーンに応じて自由に選べるようにしていきたい考えだ。海外旅行に行くときは翻訳機能や辞書機能、GSMローミングのエージェントを追加し、テレビを見たいときはワンセグのエージェントを追加する。そうすることで、コストを抑えつつ効率的にサービスが提供できる。漏洩しては困る個人情報などは、サーバ側で厳重に管理するシンクライアント的な機能も持たせる。
こうした機能に加えて重要なのが、ユーザーとの接点となる、使いやすいユーザーインタフェース(UI)だ。
「最近のケータイは、UIをよくしないと勝負にならない。KDDIも、ユーザーとの最後の1インチ、『ラストワインインチ』をよくしたケータイを作っていく」(伊藤氏)
よくできたUIの例として伊藤氏は、2008年1月に米国で開催されたCESで見たというMicrosoftの「Surface」やパナソニックの「VIERA CAST」を挙げ、直感的で使いやすい操作性の重要性を力説した。
なお伊藤氏は、こうした高機能な携帯開発を今後も進めることについて「革新的な端末、すばらしい端末を持つ事業者が勝つと思う。日本はガラパゴスなどと言われているが、すばらしい端末を作り続けるべき。それこそが日本の競争力の源泉だからだ。もっと安価な端末を作るべきだという意見もあるが、低価格な端末を作ることに注力していては、海外の端末メーカーや携帯電話事業者に対する競争力を失うと思う。日本の特長を生かして競争するためには、高機能で世界をリードする必要がある」と話した。低価格端末で世界と勝負することは考えていないという。
来るFMBC時代へ向けたKDDIの取り組み
また伊藤氏は、ケータイの進化だけでなく、固定通信網の進化や、携帯端末向けマルチメディア放送の動向にも触れ、KDDIが現在取り組んでいるさまざまな技術を披露した。
先頃発表したばかりの、法人向け端末「E30HT」や、PCなしでもLISMOが活用できる「au BOX」は、FMBCを推進するデバイスの1つとして紹介。E30HTは、SaaS型ソリューション「Business Port」との連携機能などを、au BOXでは、インターネットに接続することでLISMOの音楽配信や映像配信が利用できることなどを挙げ、au BOXを介してケータイとインターネットとテレビが結びつき、FMBCが身近なものになっていく。
そのほか、KDDIが研究している自由視点映像や、1Gbpsでの通信が可能な高速赤外線通信技術、MediaFLO、エリア限定ワンセグ放送、マルチワンセグ(束セグ)、モバイルWiMAXなどを取り上げ、概略を説明した。いずれもCEATECのKDDIブースでデモが見られる。
世界と戦っていくために日本がなすべきこと
最後に伊藤氏は、「まとめにかえて」と題して、日本の通信事業者として、KDDIをはじめとする各社が、産業を活性化し、世界と戦っていくために何をすべきか、という持論を披露した。
伊藤氏が最も重要なことと話すのは「得意分野を伸ばすこと」だ。「ことに携帯電話に関しては、いろいろと揶揄される部分もあるが、日本として特徴を持っている分野なので、きっちりと伸ばしていくべきだ」(伊藤氏)。完成品としての端末だけでなく、高度な部品や、故障の少ないパーツを供給できる点は世界に誇れると伊藤氏は指摘する。
そしてもう1点、今の日本に必要なものとして伊藤氏は「β版を許容する社会」を挙げた。携帯電話の世界に限らず、日本では「相当な高い完成度が最初から求められるレギュレーションがある。それを逸脱してしまうと、なかなか製品として世に出すことができない」(伊藤氏)という問題がある。一方米国などでは、β版としてまずは無料でサービスを開始し、ユーザーからのフィードバックを得つつ、徐々にサービスの改修を重ねていくことで新しいビジネスを生み出してきた土壌がある。GoogleやAppleはこうして魅力的な製品やサービスを作ってきたことを挙げ、日本の現状に危機感を抱いていると話した。
「果たして日本でもそれ(β版を公開してサービスを作り上げること)ができるのかと考えると、かなり難しいものがある。日本もこういったβ版に慣れ、みんなで徐々にいいものを作り上げていくという世界、β版を活用して新しいビジネスを作る方向に順応しないと、世界に遅れてしまう」(伊藤氏)
同氏は、日本が世界にごして戦っていけるように、気楽にサービスができるような土壌の誕生を望むと話し、挑戦的な取り組みに対して、“完全”を求めずに、アップデートを繰り返すことで完成度を高めるモデルをもっと許容すべきとの見方を示した。
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