初代エグゼクティブディレクターに聞く、Symbian FoundationのOS戦略:Smartphone Show 2008
Symbian Foundationのエグゼクティブディレクターに、NokiaのS60部門責任者、リー・ウィリアムズ氏が就任することが決まった。携帯電話市場が転換期を迎える中、どのような戦略で競合ひしめくプラットフォーム戦争を勝ち抜こうとしているかを同氏に聞いた。
2009年の設立を予定しているSymbian Foundationのエグゼクティブディレクターに、NokiaのS60部門責任者リー・ウィリアムズ氏が任命された。同氏はSymbian Foundationのボードメンバー10社に選出され、この人事は英ロンドンで開催されたイベント「Smartphone Show 2008」の会期中に明らかになった。
モバイルプラットフォームのオープン化、汎用OSの台頭、PC系サービス事業者の参入など、モバイル市場が大きな変革期を迎える中、Symbian Foundationはどこにフォーカスして新たなプラットフォームの構築を目指すのか。ウィリアムズ氏に話を聞いた。
ITmedia(聞き手:末岡洋子) エグゼクティブディレクターとして、最初にどんな課題に取り組む計画ですか。
リー・ウィリアムズ氏 4つあります。まずはできるだけ早く、競争力のある完成されたプラットフォームを提供することです。
2つめは、プラットフォームへのWebランタイムの統合と実装です。Webランタイムをサポートすることで、開発者はWebの技術を利用したリッチなアプリケーションを開発できます。
3つめは、プラットフォームのハードウェア依存を少なくし、端末メーカーやアプリケーション開発者がハードウェアを意識する必要のない仕組みを提供することです。これはハードウェアの抽象化レイヤーを構築するということです。
4つめは、隠れたコストや偏りのない、本物のオープンソースエコシステムを確立することです。参加企業が少しでも早く投資に対する利益を回収できれば、コミュニティはより活発に機能し、そこからはさまざまな革新が生まれるでしょう。
この4つの作業により、Foundationをしかるべき姿にしていきます。
ITmedia オープンソースエコシステムの確立は、難しい作業になると予想されます。
ウィリアムズ氏 重要なのは、エコシステムに参加する企業が、“エコシステムの中の企業との競争”ではなく、“AppleやGoogleなどとの競争”が重要だと常に意識することです。そうすれば、自然と方向性が確立すると思います。
ITmedia S60、UIQ、MOAP(S)の3つのUIの統合をどのように見ていますか?
ウィリアムズ氏 大きな挑戦だと思います。NTTドコモは、MOAP(S)とそのコンセプトをFoundationに提供します。これはとても重要なことです。
Foundationが提供するプラットフォームは、UIの背後をS60で統一してから進化させますが、差別化のためにはドコモやUIQの技術を保存し、継承する必要があります。Foundationのインストールベースで動く補完的なパッケージのようなものがいくつかできるイメージです。UIを妥協することなく、“一度コードを書けばどれでも動く”プラットフォームの実現を目指します。
ITmedia Googleが「Android」のソースコードを公開しました。Googleとは、オープンソースとモバイルプラットフォーム構築の両面で競合することになりますが、今後の競争をどのように見ていますか。
ウィリアムズ氏 Googleについては、1年前に約束したことを実現したという点ですばらしいと思います。
競合には敬意を払うと同時に、その動向に注意する必要があり、特に、GoogleやAppleなどの新規参入企業に対して油断は禁物です。
しかし、Symbian Foundationのグローバルでのプレゼンスや、資産として持つ多彩な機能や技術を見れば、競合とレベルが違うことは一目瞭然です。現在、2億2600万台のSymbian搭載端末が約300のオペレーターのネットワークで利用されており、言語は15カ国に対応しています。
Symbian Foundationのメンバー企業は、Foundationが設立されたその日から技術を利用でき、われわれはその2年後にはEclipse Public Licenseでソースコードを公開します。
ITmedia ソースコードの公開という意味では、Googleがリードした格好になります。
ウィリアムズ氏 重要なのは、手に入るソースコードを使って、“どの程度の機能を持つ端末ができるのか”ということです。
Symbian Foundationには、Symbianだけでなく、NokiaやUIQ Technology、NTTドコモをはじめとするさまざまな企業が技術を提供します。われわれには、コードの統合や既存技術の移行という膨大な作業があり、(ソースコードの公開が2年後になることは)適正なスケジュールだと思います。
ITmedia 携帯電話の世界では、ユーザーインタフェースやユーザビリティに注目が集まっています。Foundationは参加企業にどのようなメリットをもたらすことができますか。
ウィリアムズ氏 ユーザービリティは端末の魅力を左右する重要な部分です。Symbian Foundationとしては、資産を公開し、製品開発を手がけるメンバー企業が必要な機能をすべて利用できるようサポートします。具体的には、高性能で魅力的なUIや、その開発に役立つ技術の提供を目指しています。われわれは素材を提供し、製品を開発する企業がUIの特徴を所有することになります。
ITmedia (Symbianのシェアが低い)北米市場をどのように強化しますか?
ウィリアムズ氏 SamsungやLG電子、Motorola、AT&Tなど、米国市場に影響力がある企業がSymbian Foundationに参加しており、こうした企業の存在がSymbianの北米市場展開にとって重要になります。ほかにも小規模ながら強い影響力を持つインターネット企業がFoundationに参加しており、急速に成長すると期待しています。
ITmedia Symbian Foundationにはハードウェアベンダーや端末メーカー、オペレーターなど52の企業が参加していますが、欠けている分野はありますか。
ウィリアムズ氏 私が望むのは業種ではなく、開発者です。Facebookのプラグインアプリケーションの開発者が、Symbian Foundationをベースとした製品資産にプラグインを作るようなことが起こってほしいと思っています。
われわれに必要なのは、プラットフォームやシステムを使うインターネットコンテンツやサービス事業者です。
ITmedia Googleと提携し、相互運用性を実現するようなことは考えられますか?
ウィリアムズ氏 把握している限り、そのような話は進んでいません。もちろん、われわれはオープンです。
関連キーワード
Symbian(シンビアン) | Google | MOAP | ユーザーインタフェース | ソースコード | エコシステム | オープンソースコミュニティ | Apple | NTTドコモ | UIQ Technology | コミュニティー | 運用管理 | Nokia(ノキア) | オープンソース | Android | インターオペラビリティ
関連記事
- 「2009年後半にSymbian Foundationベースの端末を発表」――英Sony Ericssonのオルソン氏
Symbian Foundationの設立企業に名を連ねる英Sony Ericsson。同社のパトリック・オルソン副社長は、Foundationのビジョンに賛同するとし、2009年後半をめどにSymbian Foundationベースの端末を発表する予定であることを明らかにした。 - オープンソース化で“搭載機拡大”と“開発者増加”を目指す――英SymbianのクリフォードCEO
携帯電話向けプラットフォームは、共通化とオープン化の動きが加速しており、Symbianも同社のOSをオープンソース化すると発表している。同社の年次イベントでCEOのナイジェル・クリフォード氏が、その狙いと今後の取り組みについて説明した
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.