UQ WiMAX、その可能性と課題:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
モバイル業界の“次の10年”の一翼を担い、さまざまなビジネスの広がりが期待されるワイヤレスブロードバンドサービス。その先兵と目されるモバイルWiMAXのサービスが、いよいよ2月末からスタートする。UQ WiMAXの可能性と課題を考えてみる。
「エリアの密度」がUQ WiMAXの課題
むろん、UQコミュニケーションズにとって有利な点ばかりではない。今後、モバイルWiMAXのPC内蔵や組み込み市場を狙う上で、最大の懸案になるのが「サービスエリアの拡大」である。前述の田中氏の発言でも、組み込み市場への本格展開は全国エリアの構築が大前提である。
UQ WiMAXのエリアは、当初は東京23区と横浜市、川崎市からはじまり、基地局数も500局ほど。全国主要エリアへの展開は4年後だが、「できるだけ前倒しにしたい」(田中氏)とエリア展開に意欲を見せる。基地局が小型で、auや旧ツーカーの基地局と併設していくので「ゼロからエリア展開するよりは(基地局設置の)スピードは早い」(田中氏)とソロバンを弾く。
しかし、ここで懸案なのがauと旧ツーカーの基地局構成だ。旧ツーカーの基地局跡地やauの基地局は基本的にマクロセル構成であり、「2.5GHz帯・モバイルWiMAXでの利用を想定したものではない。高速・大容量通信という特性を生かすには、マイクロセル型になるように基地局の新設もかなり必要になる」(KDDI関係者)。ここが当初からマイクロセル型の基地局網を持つウィルコムや、NTTパーソナルの跡地利用や近年の基地局大増設で“結果的に”マイクロセル型の基地局網を持つに至ったドコモとの違いである。
UQ WiMAXの基地局そのものは「社員の年収で何台か買えるくらい安い」(田中氏)とのこと。あとはどれだけスピーディーに、屋外・屋内のエリア密度を高くしていけるかが重要になる。ここで手を抜くと、“面”でのエリアが広がっても、実際の通信品質や通信容量はお粗末な張り子の虎になりかねない。UQコミュニケーションズには、エリアの拡大と基地局密度の向上を同時に進めていくという、難しい舵取りが求められるだろう。
3Gキャリアとの競争も激化
さらにUQコミュニケーションズにとって大きな壁になりそうなのが、ドコモやイー・モバイルなど3G通信キャリアとの競争だ。
彼らも今後の成長市場としてデータ通信市場、とりわけ組み込み市場を重視している。UQコミュニケーションズが登場したからと、この新興市場をすんなりと明け渡すわけがない。UQ WiMAXのサービスエリアが拡大し、組み込み市場で頭角を現す前に“市場の刈り取り”を図ろうとするだろう。
「組み込み市場は一度(顧客を)獲得すれば他キャリアに奪われるリスクが低い。特にクルマ向けや医療・ヘルスケア分野のBtoB市場は開発期間が長い分、(ノートPC向けのBtoBtoC市場に比べて)解約・流出リスクが著しく低いのが特長。将来的な新システムへの更新でも他キャリアとの競争が有利になる。ここをどれだけ早く獲得できるかが重要になる」(携帯電話キャリア幹部)
モバイルブロードバンド時代の主戦場である内蔵モジュール/組み込み市場での成長を狙うUQコミュニケーションズと、いち早い市場の刈り取りでその芽を摘もうという3Gキャリア。今年はノートPC向けの内蔵モジュールをはじめ、さまざまな機器向けの組み込み市場での競争が一気に熾烈化しそうだ。
モバイルブロードバンド時代の夜明け
このようにその前途には課題もあるものの、UQコミュニケーションズが目指すモバイルブロードバンドの世界には可能性が満ちている。高速・大容量の通信インフラは、これまでのケータイだけでなく、PCをはじめとするあらゆるデジタル機器をワイヤレスで結び、多くのビジネスが生まれるだろう。新たに生み出される市場の規模と裾野の広さは、モバイル産業のこれまでの10年をはるかに上まわる。
今年はUQコミュニケーションズのUQ WiMAX、そしてウィルコムのWILLCOM COREが始まり、モバイルブロードバンド時代に向けて、夜明けの最初の光が差し込む。そこでどのようなサービスやビジネスが芽吹くのか──。そこに注目である。
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