なぜ、日本でiPhoneは売れるのか。:神尾寿の時事日想(3/5 ページ)
この秋に新モデル登場と噂されるiPhone。2007年に初代が発売されて以来、iPhoneはスマートフォン市場のけん引役であり続けた。よりハイスペックなAndroid端末も登場する中、iPhoneが売れ続けているのはなぜか? 改めて考えてみよう。
iPhoneが「既存ユーザーの評判がいい」「顧客満足度が高い」といった点も重要だ。iPhoneは以前から顧客満足度でトップを独占しており、日経BP社が今年8月22日に発表した「スマートフォン・タブレット満足度ランキング」でも、iPhone 5がトップになっている。
Appleは当初から万人にとって分かりやすく使いやすいスマートフォンとして、iPhone (iOS)のUIデザインを設計しており、ユーザーにより満足してもらうための「ユーザー体験 (User eXperience)」へのこだわりも強い。また単一性のメリットを持つiPhoneは購入後のサポート体制でもAndroidスマートフォンよりも有利な立場にあるため、総合的な顧客満足度を高めやすいのだ。これによって「周囲にiPhoneユーザーが多く、しかも既存ユーザーの評判もいい」という好循環が生まれている。
誤解を恐れずにいえば、日本におけるiPhoneの強さは、プロダクトそのものの魅力・訴求力の部分だけでなく、iPhoneをとりまく周辺環境の部分に移ってきている。これが「ぼんやりとした同調圧力」のようなものになり、「iPhoneを買っておけば間違いはない」「初めてスマートフォンを買うならば、iPhoneが安心」といった雰囲気を形作っているのだ。
OS更新がしやすく、セキュリティ面でもiPhoneに優位性
一方、実利的な面としては、「OSバージョンアップのしやすさ」もiPhoneの優位性になっている。AppleではiPhone / iPadとiOSをセットで開発・供給しており、単一性が維持されているため、OSのバージョンアップがAndroidよりもはるかにしやすい。
最新のiOSが購入済みのiPhoneで(少なくとも2年程度は)サポートされることは、これまでも「最新の機能・サービスを、既存ユーザーが利用できる」という点でメリットがあった。しかしスマートフォンが広がるにつれ、OSバージョンアップがしやすいことは別の意味を持ち始めている。セキュリティの確保、という観点である。
時事通信によると、2013年8月28日、米国土安全保障省と連邦捜査局(FBI)が、スマートフォンを狙ったマルウェア(ウイルスなどを含む悪意のあるソフトウェア)の約8割がAndroidをターゲットとしているとの調査報告を公開したという(参照リンク)。FBIはその主な要因を、「Androidユーザーの多くが常にAndroidの最新バージョンに更新しておらず、それが既知のセキュリティ上の脆弱性を突く形でマルウェアの拡大を招いている」と分析している。
スマートフォンのセキュリティ問題では以前から、アプリの開発・公開の審査が厳しいiOSの方が、原則自由でアプリの開発・配布が行えるAndroidよりも安全性が高いとされていた。それに加えて、今回の米国土安全保障省とFBIのレポートで示されたように「最新のOSバージョンが使いやすいかどうか」も今後のマルウェア対策では重要になってくる。
翻って日本市場を見れば、過去のOSバージョンアップにおいて、iOSは「Appleが最新のiOSを公開すれば、日本のiPhone / iPadでもほぼ同時に最新版にバージョンアップできる」という体制を維持してきた。一方、Androidスマートフォンでは、メーカー / 機種ごとにバラバラな仕様・開発体制であることが裏目となり、「Googleが最新のAndroidを公開しても、購入済みのAndroidスマートフォンのOSを最新版にできるようになるまで時間がかかる」ことが往々にしてあった。ひどい場合には「購入後2年を待たずに、OSのバージョンアップが打ち切られる」ということすらあったのだ。
今回のFBIでの報告でも分かるとおり、「OSのバージョンを最新の状態に保つことがセキュリティ上は重要」であることを考えると、iOSとAndroidのOSのバージョンアップのしやすさの違いは、最新版OSで新機能が使えるかどうかよりも、もっと重要な意味を持ってくる。AppleがOSの面倒をしっかり見てセキュリティ面での優位性を持っていることも、スマートフォン市場が一般化する中で、iPhoneの強みになってくるだろう。
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