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Windows Phone、Symbian、BlackBerry――日本から消えたスマホOSから何が見える?佐野正弘のスマホビジネス文化論(1/2 ページ)

国内のスマートフォン市場は現在、iPhoneとAndroidの2大勢力が市場を支配している。だが以前は、もっとさまざまな種類のスマートフォン OSが市場に流通していた。それらはなぜ日本から消えたのだろうか。

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日本から姿を消したOSは今どうなっている?

 2008年に日本で「iPhone 3G」が発売されて以降、国内のスマートフォン市場はiPhone(iOS)と、それに対抗するべく投入されたAndroidの2大プラットフォームが急速にシェアを伸ばし、2大勢力がほぼ支配しているといっても過言ではない。

 だがこうなったのは、実はここ3〜4年くらいのこと。それ以前はフィーチャーフォンが販売の多くを占めていたし、そもそもiPhone以前には、もっとさまざまなOSを搭載した“スマートフォン”が市場に流通していた。だが気が付くと、フィーチャーフォンの新機種数が激減しただけでなく、iOSとAndroid以外を搭載したスマートフォンも、市場から見かけなくなってしまった。

 かつて日本市場で存在感を発揮していたスマートフォンとそのOSは、その後どうなってしまったのか。日本から姿を消した理由と、その後の動向について探ってみよう。

再上陸の可能性が高い「Windows Phone」

 iPhoneが登場する以前、日本のスマートフォン市場で大きなシェアを獲得していたのが、Microsoftの「Windows Mobile」である。Windows Mobileは元々、スマートフォンの源流の1つともされるPDA(携帯情報端末)向けのOSとして、組み込み機器用のWindows CEをベースに開発されたものだ。

 日本のコンシューマー向けスマートフォンでは、ウィルコムが2005年に発売したシャープ製の「W-ZERO3」(WS003SH)がWindows Mobileを採用。スマートフォンの先駆けとなった。その後、イー・モバイルやソフトバンクモバイルなどがWindows Mobile搭載機種を積極的に投入した。

 Windows Mobile端末はアプリによるカスタマイズが難しいフィーチャーフォンに不満を抱いていた先進層に受け入れられ、一定の存在感を示すに至った。だが一方で、ユーザーインタフェースがWindows由来であり、指での操作は複雑なこともあって、そこから先に利用者が広まらないという問題も抱えていた。

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ウィルコムの「W-ZERO3」シリーズは、iPhone登場までのスマートフォン需要を支えた貴重な存在でもあった。写真はシリーズ最後のモデルとなるHYBRID W-ZERO3(WS027SH)

 Windows Phoneが国内で大きな転換期を迎えたのは2008年。同年にiPhone 3Gが日本で発売されたことで、従来Windows Mobileのニーズを支えていた先進層がiPhoneに流れてしまったのである。しかもその傾向は日本だけでなく世界的なものであり、Windows MobileはたちまちiPhoneにシェアを奪われることとなった。

 Microsoftもこの状況に対応するべく、2009年にはタッチ操作を意識した「Windows Mobile 6.5」や、アプリをダウンロードしやすくするマーケット「Windows Marketplace for Mobile」などを提供して挽回を図った。だがiPhoneに続いて、“オープンソース”をうたって多くのメーカーに採用されたAndroidが急速に台頭してきたこともあり、従来のWindows Mobileでは対抗できないとMicrosoftは判断。スマートフォン向けOSの“作り直し”を決断し、2010年に「Windows Phone 7」を発表したのである。

 Windows Phoneを搭載したデバイスは、国内ではKDDI(au)が富士通東芝モバイルコミュニケーションズ製の「IS12T」(Windows 7.5を搭載)を2011年に発売。

 だが当時は、iPhoneそして多くのAndroid端末が一般層に広がり、シェアを急拡大させていた時期でもある。それゆえIS12Tだけでは確固たる地位を築くことはできなかったようで、それ以後日本では、コンシューマー向けのWindows Phone搭載機種は登場しておらず、事実上撤退状態にある。

photophoto Windows Phone 7.5を搭載した「IS12T」。国内向けのコンシューマー向けのWindows Phone搭載機は、現時点ではこれが最初で最後だ

 一方海外では、Windows Phoneを取り巻く環境が少し異なる。Microsoftは2011年、やはりiPhoneやAndroidに押されてシェアが低迷していたNokiaと提携。「Lumia」ブランドで幅広いバリエーションのWindows Phone端末を積極的に展開してきた。さらに2012年には現在の主力OSとなる「Windows Phone 8」を投入し、シェア挽回を図るための努力を続けている。だがこうした取り組みをしてもなお、iPhoneとAndroidの高いシェアを打ち崩すのは難しかった。

photophoto Microsoftと提携したNokiaは、「Lumia」シリーズのスマートフォンを投入。多彩なバリエーションのモデルを投入したが、大幅なシェア拡大には結びついていない

 そこでMicrosoftは2013年9月に、Nokiaの携帯電話端末事業を買収すると発表。この買収は今年の4月25日に完了しており、今後Microsoftは他社へのOSライセンスだけでなく、タブレットのSurfaceのようにOSと端末を一体で手掛けることで、シェア挽回を図ることとなる。加えてMicrosoftは2月、従来ハイエンド寄りであったWindows Phoneのハードウェア要件を大幅に緩和すると発表。急拡大する新興国向けのニーズを獲得するべく、ミドル・ローエンドクラスの端末を開発しやすくするべく大幅な方針転換を図っている。

 Windows Phoneの再進出を要望する声は根強くあるものの、MicrosoftはNokiaが強みを持っていた新興国を主体に、Windows Phoneを広める戦略に出ていることから、日本への再進出があるかどうかは依然不透明な状況だ。だが端末事業がNokiaからMicrosoftに移ったこと、そして対応ハードの拡大といった要因を見るに、日本再進出も以前よりは期待できるようになったのかもしれない。

iPhoneではない? Symbian OSが日本から消えた理由

 Microsoftに端末事業を売却したNokia。同社が以前に主力とし、かつ世界のスマートフォン市場で非常に高いシェアを獲得していたのが「Symbian OS」だ。これは英国のPSIONという企業が提供していたPDA用のOS「EPOC OS」が源流となっており、NokiaやMotorolaなどが出資してPSIONから同OSの開発部門を1998年に分社化。2008年にはNokiaが同社を完全買収し、端末メーカーやキャリアなどとSymbian OSの普及を推進する非営利団体「Symbian Foundation」を立ち上げるなど、その後はNokiaがSymbian OSの中心的役割を担っていた。

 そのNokiaは2004年頃より、ボーダフォンの日本法人(現在はソフトバンクモバイル)向けに「Nokia 6630」(702NK)を投入して以降、日本市場攻略に向け積極的にSymbian OS搭載端末を投入。キャリアとの兼ね合いから自由度の低いフィーチャーフォン扱いで販売されたものが多かったが、“裏技”を使ってネイティブアプリのインストールもできた。根強いNokiaのファンだけでなく、現在のスマートフォンにも通じるオープン性を求める先進層からの人気も獲得していた。

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日本で発売されていたNokiaのSymbian OS搭載端末。ボーダフォン、ソフトバンクモバイルを中心に採用されていたが、末期まではフィーチャーフォンとしての扱いであった。

 Symbian OSといえばNokia製という印象が強いが、実は他のメーカーでも採用実績がある。例えば2005年に投入されたNTTドコモのMotorola製の「M1000」もSymbian OSを採用したモデルだ。またドコモが推進していたFOMA向けプラットフォーム「MOAP」は、ベースとなるOSの1つにSymbian OSを採用していた。当時の富士通やシャープ製のFOMA対応フィーチャーフォンは、Symbian OSを搭載している。

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富士通やシャープ製のiモード端末はSymbian OSを採用していた。2011年発売の「SH-05C」のように、スマートフォンを意識したタッチ操作対応の機種も存在している

 携帯電話市場で高いシェアを誇っていたNokiaの勢いのままに広まると目されていたSymbian OSだが、その後急速に存在感を失うこととなる。日本での転機となったのは2008年11月。Nokiaは突如、日本市場から事実上の撤退を表明したのだ。Nokiaはこの時、国内で「Nokia N82」「Nokia E71」の提供を発表していた。それにも関わらず撤退を表明したことで、E71は発売を予定していたドコモとソフトバンクが発売を中止するなど、大きな騒動となった。

 このNokiaの唐突な撤退は、時期的に見てもiPhoneが直接的な原因となっている訳ではない。より大きな理由は当時発生したリーマン・ショックの影響で、世界的な端末需要の低下で業績が急激に悪化したこと。独自性が強くソフト開発などにコストがかかる上、携帯電話普及率が高く市場の開拓余地が小さいことなどもあってか、コスト削減のため日本撤退を決めたようだ。

 だが日本から撤退した後、NokiaはiPhone、Androidの影響を大きく受ける形でSymbian OS、ひいてはNokia自体の端末販売シェアも急速に落としていくこととなる。そうしたことからNokiaは2010年11月、Symbian OSの開発をSymbian FoundationからNokiaに移すなど事実上の縮小体制をとったのに加え、先に触れた通り2011年にMicrosoftと提携、Windows Phoneに重点を置く戦略を発表した。一方でSymbian OS関連の事業は2011年4月、Accentureに移管すると発表され、すでにNokiaの手を離れている。

 Symbian OSを搭載したNokiaのスマートフォンも、2012年に発売された「Nokia 808 PureView」が事実上最後の機種となり、それ以降NokiaからSymbian OSを搭載した機種は登場していない。今後、Symbian OSを搭載した新端末が登場する可能性は限りなく低いのだが、富士通やシャープからドコモ向けのフィーチャーフォンが登場した場合、従来の資産を生かして開発される可能性が高い。ファンが望む形ではないだろうが、日本でSymbian OS搭載機を目にする可能性が、実は全くない訳ではない。

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事実上最後のSymbian OS搭載スマートフォンとなった「Nokia 808 PureView」。カールツァイスレンズを採用した4100万画素のカメラを搭載したモデルであった
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