「第3の試合観戦」を目指す――横浜DeNAベイスターズとKDDIが「バーチャルハマスタ」の無料トライアルを提供 収益化も視野に
横浜DeNAベイスターズとKDDIが、横浜スタジアム(ハマスタ)をバーチャル空間に再現したサービスの無料トライアルを実施する。新型コロナウイルスの影響により、経営面で苦しい状況にあるプロ野球チームの新たな収益源とすることを視野も視野に入れた動きだ。
ハマスタのグランドに降り立って、試合を応援できる――8月11日18時から始まるプロ野球の「横浜DeNAベイスターズ対阪神タイガース」の試合において、横浜DeNAベイスターズとKDDIが「バーチャルハマスタ」の無料トライアルを実施する。
このサービスはバーチャル空間に再現された横浜スタジアム(ハマスタ)で野球の試合を観戦、応援できるというもので、誰でも参加できるが、スマートフォン、PC、VRデバイス(Oclus、VIVE)のいずれかを用意した上でバーチャルSNS「cluster」のアカウントを作成し、デバイスにclusterアプリをインストールする必要がある。バーチャルハマスタには、試合開始の1時間前(17時)からイベントサイトを経由して「入場」可能だ。
バーチャルハマスタの背景
プロ野球界は、新型コロナウイルスの影響を大きく受けている。開幕戦の延期が繰り返され、「セ・パ交流戦」や「オールスターゲーム」は中止となった。約3カ月遅れで開幕戦は実施されたものの、当初は無観客試合を強いられ、現在は観客の入場が解禁されたものの、球場に入れる観客数は5000人に制限されている(8月11日現在)。
バーチャルハマスタは、そのような状況で開発されたサービスだ。
ベイスターズとKDDIは、2019年8月にスマートスタジアム実現を目指したパートナーシップを締結し、5G通信を用いた球場でのさまざまなサービスを提供すべく検討を進めてきた。ハマスタへの5G基地局の設置は既に完了しており、3月の開幕戦を前に準備を着々と進めてきたが、「コロナ禍」によって計画は見直しを余儀なくされた。
その代わりに、オンラインでハマスタを体験できるサービスとして、バーチャルハマスタを新たに開発したという。
バーチャルハマスタの特徴
バーチャルハマスタでは、ハマスタをCGで再現している。球場の内部だけではなく、その外観やコンコース部も作り込まれている。
アバターとなった観客は、スタジアムの入口から球場内に入り、コンコース(一部)を歩いてスタジアム内を移動する。リアルで一般観客も通る道筋(導線)を再現することで、よりリアルに近いハマスタ体験を得られる。「ファン目線で開発した」(KDDIパーソナル事業本部サービス統括本部 5G・xRサービス戦略部 繁田光平部長)成果だ。
試合の観戦は、バーチャル空間ならではの「非日常性」を演出するために、あえてグランド内で行う。しかも、普通なら選手が座っているベンチからグランドに降り立つという演出となっており、非日常感をさらに高めている。
試合は、バーチャル空間に浮かべられた中継映像を視聴する形を取る。実際の球場のセンタービジョンに映る映像と、中継映像をそれぞれ表示するため、見比べながら視聴できる。
バーチャルのグランド上には、観客のアバターが集まる。これにより、多くの観客でにぎわっているイメージを演出する。試合の状況に応じた演出も加えられ、ヒットやホームランで花火が上がる他、ジェット風船が飛び回ったり、得点でアバターがジャンプしたりと、リアルの球場で見られる光景も再現している。
スタジアム内には20mはあろうかという巨大なスターマン(ベイスターズのマスコット)が存在したり、アバターながらベンチ内で自撮りできたりと、バーチャルならではの演出も用意している。チャットによるファン同士のコミュニケーション機能も用意して、今後はグループ視聴できる機能も検討するという。
今後の展開について
ベイスターズとKDDIは、8月11日の無料トライアルを通してユーザーの反応を見極めたい考えだ。状況によっては、無料トライアルを継続して提供することも検討している。
将来的に両社は、ユーザーからの「入場料」、コンコースにおけるグッズなどの販売、スポンサード(球場内などに表示する広告の募集)といった方法でこのサービスを収益化する方針だ。
実際の球場にも広告看板が設置されているが、バーチャル空間上では設置できる場所の自由度が高い。「インプレッション計測」など、広告の効果測定も容易だ。リアルな球場への入場制限が解除された後を視野に、リアル球場への送客も行い、興行収益を拡大する効果も期待されている。
今回は中継映像をそのまま配信するため、「多視点」や「双方向サービス」といった5G通信ならではの取り組みは行われない。ただし、球場自体には5G基地局が設置されているため、5G通信を活用した付加価値の提供も将来的には検討するという。
ちなみに、今回の配信では映像のコンバート(変換)プロセスが入るため、実際の試合の進行から最大で数十秒程度の遅延が発生する。リアルとの連携を考えると遅延が大きすぎるようにも思えるが、今回は「配信のみに絞って開発したため、遅延の低減は追求しなかった」(繁田氏)。
多視点視聴に関しては、ユーザーのニーズ自体はあるものの、「みんなで応援していることを可視化すること」(繁田氏)を重視したため、採用が見送られた。ただし、多視点視聴自体は技術的には可能なため、今後は導入を検討するという。
バーチャルハマスタは、本サービス開始と収益化を急ぐことで、「コロナ禍」で苦心する他の球団や他の業界に対して「新しい道筋を示したい」(横浜DeNAベイスターズ ブランド統括本部 林裕幸本部長)という方針のもとで開発された。林氏は「リアルの球場観戦、テレビやOTT(ネット動画配信サービス)を通した試合観戦に次ぐ、“第3の試合観戦”を目指していきたい」と意気込んでいる。
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