News 2000年11月2日 11:59 PM 更新

「エアボードネット」はオープンな「iモード」?

 ジャストシステムとソニーが,パーソナルITテレビ「エアボード」向けネットワークサービスのコンテンツとアプリケーションを共同で開発することを表明した。エアボードは12月1日に発売されるが,同日,ネットワークサービスである「エアボードネット」を開始,プロバイダーサービスと,サイトにおけるコンテンツ供給を始める(10月31日の記事を参照)。

 以前,この連載でエアボードの発売についてふれたとき(9月29日の記事を参照),インターネットアプライアンスのアプリケーションを誰が作り,供給するのかが心配だという話を書いた。今回の発表は,それに対する1つの回答であるといえる。

 ソニーは,エアボードを制御するためのAPIを公開し,専用のアプリケーションを作る環境を提供することを表明した。このAPIを使うことで,エアボードのテレビ機能とインターネット機能を組み合わせたアプリケーションの開発が可能になる。ジャストシステムが開発した各種のアプリケーションは,まさに,このAPIを利用したものだ。テレビを見ながらチャットができたり,ウェブで提供されるテレビ番組表をクリックすればその番組が見られたりといったイメージになっている。

 技術的には,エアボード制御用のコードをWebページに埋め込むようなカタチになるのだろう。そして,それが新しいエアボードネットで順次提供されていくわけだ。また,インターネット上にある第三者サイトが,同様のアプリケーションサービスを提供することも可能だという。

 エアボードのビジネスモデルは,ドコモのiモードと似ていなくもない。ソニーとしては,ネットワークサービスを展開する中で,最終的にはコンテンツプロバイダーのために課金を代行するよう,システムまで考えているという。ただし,iモードとの大きな違いは,ネットワークがオープンである点だ。だから,ほかのISPを利用する場合も,エアボードネットの利用は可能で,専用アプリケーションが使えることになる。ただし,簡単設定という意味ではエアボードネットへの入会が手軽であることは間違いない。

 エアボードを購入したユーザーが,エアボードネットに入会するのは簡単だ。エアボードの本体に電話線をつなぎ,本人確認ワードを入れるだけのワンタッチコネクションが自慢だという。

 共同記者会見で概要を説明したソニーのホームネットワークカンパニーインターネット事業開発部統括部長,前田悟氏は,「iモードがこれだけ急速に浸透していったのは,複雑な設定をする必要がなく,買ってきたらすぐにネットワークにつなげたからだ」とし,今後の家電はそうならなければならないとアピールした。

パーソナルデバイスとしてのエアボード

 iモードが買ってきてすぐにネットワークにつながるのは,携帯電話というデバイスが,きわめてパーソナルなものだからだ。電話番号という識別符号が,そのままメールアドレスになり,そのデバイスを携帯しているユーザーが受取人として特定される。

 そういう意味では,エアボードも簡単設定によって,自分自身の地位をパーソナルデバイスと想定したかにみえる。でも,実態はそうではないし,ポリシーも違う。アプリケーションを提供するジャストシステムとしては,家電製品が元来有する“世代を問わずに使える操作性”を大事にするとともに,家族全員で使うサービスを重視すると表明しているからだ。


エアボードはモニターとベースステーションで構成されている

 ここでのエアボードは,家庭内キオスク端末ということになる。もちろん,メモリースティックなどを使うことで,家族個別のメールのプライバシーを守るような工夫は考えられているが,そうなると,追加メールアドレスの取得手続きをはじめ,また,ややこしい「設定」が発生するようなことはないのかどうかも心配だ。

 エアボードネットはIT家電向けのサービスであり,かつ,オープンモデルであるとソニーは主張する。それはすばらしいことだと思う。しかも,iモードサイトのようにクローズドなものではなく,インターネットからエアボードネットが見え,エアボードからインターネットが見える。

 一連のコンセプト発表に見え隠れしていたのは「テレビとPCは違う」ということだった。ソニーホームネットワークカンパニープレジデントの高篠静雄氏は,「今後,コンテンツは,いろいろなところに同じものが出てくるはずだ」と言う。それを,どのような経路で見るのかはユーザーの自由であり,誰でも歩きやすい経路を選べるようになるべきだとする。つまり,音楽というコンテンツがあったとして,それをCDで買う,ネット配信の圧縮ファイルを買う,携帯電話で聞く,ラジオで聴くなど,いろんな方法を自由に選べるようなことが,今後のコンテンツには,もっと強く求められるということだ。

 ジャストシステムの浮川和宣社長は,テレビの持つ可能性に言及し,「放送は放送,インターネットはインターネットで独立しているが,押しつけではない融合をユーザーが選択できることを配慮すべきだ」と言う。今回の協業には,こうした思想が色濃く反映されている。

 ブロードバンドを見据えたデバイスなのに,なぜアナログモデムだけなのかとか,ソニーは日本全国をくまなくカバーできるアクセスポイントをエアボードネット用に用意できるのかとか,オープンなネットワークなのに,1950円は高すぎるんじゃないかとか,いろいろな危惧はあるが,それでもアプライアンスがAPIを公開し,サードパーティの参入を可能にした点を高く評価し,そのサービス開始を歓迎したい。

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[山田祥平, ITmedia]

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