News 2000年12月12日 11:58 PM 更新

歩みの鈍いBluetooth。その理由は?──マイクロウェーブ展2000

マイクロウェーブ展2000では,近距離無線規格のBluetooth関連部品が多数展示。一見順調に見えるBluetoothだが,なかなか魅力的な製品が出てこないのはなぜだろう?

 12月12日から,パシフィコ横浜で「マイクロウェーブ展2000」が開催されている。マイクロ波や移動体通信に関する,部品,装置,システムなどが多数展示され,昨今の無線技術の盛り上がりを感じさせた。

 目立ったのは,サービス開始まであと5ヵ月と迫ったIMT-2000(W-CDMA)関連のチップやアンテナ。もう1つは,Bluetoothだ。

 話題ばかりが先行する感のあるBluetoothは,どのような状況なのだろうか? 既に,東芝はBluetooth製品を発売し,NECや富士通なども,Bluetoothカードを付属したノートPCを用意している。いずれもPCカード型のBluetooth製品で,価格は2万円程度だ。しかし,期待される携帯電話やPDAへの搭載はなかなか進まない。

なかなかBluetooth製品が出ないわけ

 なぜ簡単には開発が進まないのか? 実は,Bluetooth機器の開発には,これまでのPC周辺機器とは異なる部分で難点がある。

 PCカード型のBluetoothデバイスを展示していた富士通メディアデバイスの技術者によると,Bluetoothは無線を使う通信機器であるため,国内では「JATE」「TELEC」といった認定機関の審査を受けなくては販売できないという。その上,BQB(Bluetooth Qualification Body)と呼ばれるBluetoothのロゴ取得プログラムを通過する必要もある。


OEM向けに出荷している富士通メディアデバイスのBluetoothカード。自由に可動するアンテナが特徴。実はコンパクトフラッシュ型のBluetoothカードも開発は終了しているという。「コンパクトフラッシュ型の製品化はペンディング中。市場規模の大きさからPCカード型が先」(富士通メディアデバイス)
 機器の開発が終わっても,これらの認定を受けるまでにはだいたい3ヵ月以上かかる。そのうえ,ほかのBluetooth機器との相互接続試験も必要だ。

 これはBluetoothを内蔵した機器が出てこない一因でもある。PCカード型ならば,先にそれだけ認定を取ればいいが,例えばノートPCに内蔵してしまったら,ノートPCごと認定を受けなくてはならない。スペックがどんどん上がるPCで数ヵ月もかかる認定を待っていたら,発売できるころには型遅れになってしまう。

チップを購入しても簡単でない理由

 ハードウェアとしてのBluetooth機器は,基本的にベースバンド部,RF部,ファームウェアROMの3チップから構成されている。最近になってベースバンド部とRF部を統合して1チップ化した製品が各社から登場してきたところだ。

 通常,こういったチップセットを購入してBluetooth機器を開発するのだが,やっかいなのがソフトウェア開発だ。

 Bluetoothのプロトコルはスタック構造になっており,ハードウェアに近い層のスタックは各社が仕様に合わせて作らなくてはいけない。しかしこの製作は非常に手間と資金がかかるもので,「スタック作成に特化しているベンチャー企業からライセンスを受けたほうが早い」(富士通メディアデバイス)という状況だという。

 次世代Windows「Whistler」(ウイスラー:コード名)ではBluetoothのスタックがOSに組み込まれるとされているのも,わざわざ自社開発しない理由の1つだという。

 プロトコルスタックだけで開発が終わるわけではない。Bluetoothには,RFCOMM,FAX,TCP/IP……といった用途に応じた「プロファイル」が定義されている。Bluetooth機器がさまざまな機能を持っていても,相互互換性を保てるのはプロファイルに沿っているからだ。しかし,このプロファイルも自社開発せずにライセンスを受けるなら費用がかさむ。


Intelが開発者会議で公開したプロファイルの例

携帯電話にこそBluetoothなのだが……

 もう1つ,有効性が喧伝されながらもBluetooth搭載の見通しが見えないのが携帯電話だ。EricssonやMotorolaなどは,ずいぶん以前から展示会などでBluetoothを使って通信する携帯電話をデモンストレーションしているが,国内のメーカーはどうなのだろう?

 海外メーカーが携帯電話に簡単にBluetoothアダプタを接続できるのには理由がある。海外のGSM方式の携帯電話では,お尻のアダプタに電力が供給されているが,国内で主流のPDC方式(一般にいうデジタル携帯電話)の携帯電話では電力が供給されない。そのため,Bluetoothアダプタは携帯電話のバッテリーを利用できず,別途電源を組み込む必要がある。国内携帯電話向けのBluetoothアダプタが大きく不恰好なのはそういうわけだ(10月3日の記事を参照)。


村田製作所では,Bluetooth向けのRFチップを参考展示。ペン先と比べるとその大きさが分かる
 逆に,携帯電話にBluetoothを組み込む場合は,RFチップのみを搭載すれば,「ベースバンド部は(携帯電話があらかじめ持っている)ファームウェアの書き換えで流用できる」(富士通メディアデバイス)という。Bluetoothチップの価格次第だが,案外こちらのほうが正統的な方法かもしれない。

 携帯電話へのBluetoothの内蔵は,コストが問題。Bluetoothが一般に普及するまではなかなか内蔵できないだろう。しかし周辺機器でも「本格的な普及は携帯電話に載ってから」という話が多い。

 Bluetoothの普及もやはり,"タマゴが先か,ニワトリが先か?"なのだろうか。

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[斎藤健二, ITmedia]

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