News 2001年4月18日 11:59 PM 更新

「PCの価値を高める努力」を語るGelsinger氏

IDFで米Intel副社長のPat Gelsinger氏が講演。同社の研究機関である「Intel Labs」の取り組みについて語った。

 「Intel Developers Forum 2001 Japan」(IDF)の基調講演に来日した米Intel副社長兼最高技術責任者(CTO)のPat Gelsinger氏は,Intel がフォーカスする4つの分野で,どのような研究開発を行っているかについてプレスカンファレンスで解説した。

 Intelの研究所は「IAL」(Intel Architecture Lab.)の名で知られていた。かつてPCIやAGP,USBといった技術がここから生まれている。先日発表されたMacromediaのWeb 3D技術もIALの成果だ。プロセッサやインターネットとの接続速度によって,スケーラブルな3Dグラフィックを実現するこの技術は,Gelsinger氏のお気に入りの技術の一つだという。

 IALは「Intel Labs」という名で再編され,現在は世界中の拠点をネットワークで結び,6000人を越える科学者と技術者で構成される巨大な研究開発組織に成長している。日本ではつくば市に拠点が置かれており,アジア圏にはほかに北京,上海(以上中国),デリー,ハンガロール,ムンバイ(以上インド)にも拠点が置かれている。

 Intel がフォーカスしている分野とは,インターネット,コミュニケーション,コンピューティング,そして半導体とその製造技術だ。Intel は米国で行われたIDFにおいて,今年だけで42億ドルの研究開発投資を行うと発表している。

 それぞれの分野において,Intel は新しい技術に向かって開発を行っているが,中でも興味深いのはコンピューティング環境に関するものだ。Gelsinger 氏は「コンピュータとの対話を中心にPCを利用するインタラクティブコンピューティングから,ユーザーが行いたいことを事前に予測して実行するプロアクティブコンピューティングへと変化する」と話す。

 個人が持つPCは,みなプロアクティブに動作し,何百ものネットワークに接続され,何百万ものエージェント(バックグラウンドで動作するプログラム)が実行される環境になる。それによりユーザー側からPCにアクションを起こさなくとも,ユーザーの先回りをして,さまざまな日常的に利用するネットワーク上のサービスと連携した動作が行えるようになる。極論を言えば,これまでのようにアプリケーションを使いこなす,という必要もなくなるかもしれない。

「立ち止まるわけにはいかない」

 しかし,そうしたコンピュータ,あるいはコンピュータが動作する環境は,まだ整っているわけではないとGelsinger氏は話す。Intel Labsでは,そうした次世代のコンピューティング環境へと向かうため,7つの分野で研究開発を行っているという。ユビキタスコンピューティング,アドホック・ネットワーク,次世代のI/O技術,自律型システム,世界規模の分散型ストレージ,将来のコンピュータ・ビジョン,ロボット工学の7分野である。

 実際,それぞれは別々の分野のように見えるが,それぞれをすべて実現させ,組み合わせたときに,非常に大きな変化を世の中にもたらしそうなものばかりだ。場所,デバイス,アプリケーションの種類を選ばず,あらゆる場所で情報技術を利用できるようにするユビキタスコンピューティングには,その場で利用できるネットワークに入っていけるアドホックなネットワーク環境・技術は必須のものだろう。また,増大する処理に見合うI/O性能やユーザーに負担をかけずに動作する自律型システムは,使い方の幅を大きく広げるはずだ。

 Gelsinger氏は言葉にこそ出さなかったが「まだまだ先は長い。立ち止まるわけにはいかない」と言い聞かせているようだった。実際,先端のソフトウェア技術者に話を聴くと,必ず「コンピューティングパワーが足りなさすぎる」と話す。必要なリソースが多すぎるが故に雲をつかむような話,と想像をめぐらしてみれば,研究開発に携わっていない者であっても,可能性はまだ多くが残されていると気付くだろう。

PCの価値を高める努力

 しかし一方で,ユーザーニーズは無限ではない。いや,ニーズがあったとしても,そこにユーザーが支払えるコストという観点から見ると,優れた技術だからといって,それが直接エンドユーザーの購買活動に結びつかない,ということも認めざるを得ない。だからこそ,あらゆる分野でPCの価値を高めるための努力をIntelは惜しんでいない。

 Intel Labsの成果は,さまざまなところでわれわれを驚かせてくれるようになるだろう。Intel はIDF Japanで,スポーツのビデオデータから選手やボールなどの動きをキャプチャし,3Dでさまざまな方向から観戦できるというアプリケーションをデモンストレーションしていた。近く正式発表され,サービスも開始されるようだ。

 このシステムを用いると,現在のコンピュータ技術では試合終了後,3時間ほどのディレイでコンテンツの公開を行えるという(サッカーの場合でだ)。ハイライトシーンで,どのように選手が動いたのか。PCの前で,さまざま な分析を行うことが可能になる。

 未来を見据えて考えると,試合終了後に作戦指示をユーザーが与えることで,結果がどのように変化するかをシミュレートするといったことも可能になるかもしれない。あるいは,リアルタイムで試合をバーチャル観戦するということも可能になるだろう。

 だが,まだまだ先は長い。PCが数年来守り続けてきた,「当たり前のアプリ」が快適に動作するかどうかで価値判断はできない時代。もっと便利になるためには,まだまだパワー不足なのだから。

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[本田雅一, ITmedia]

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