News 2001年5月9日 08:47 PM 更新

IPv6の現在,そして未来(下)(2)

課題の解決

 ここまでは,IPv6のメリットばかりを書いてきた。しかし,まだ決まっていないことを含めて全く問題がないわけではない。

 実際に使えるようになったとはいえ,現在のIPv6はまだ未完成だ。経路制御や境界についてのさらなる検討や,動的prefix割り当てのためのプロトコルや実装を早く実現することなど,技術者の頑張りに期待しなければいけない部分もまだまだ多い。ルータのIPv6への対応など,インターネットを支える基幹部分でも同様だ。

 また,普及のためには,ISP(インターネットサービスプロバイダ)などがIPv6による接続サービスを提供することが必要だが,まだまだ本格的といえる状況にはない。

 ただし,普及に向けた努力は間断なく進められているため,それらの諸問題は近い将来に解決されていくと考えられる。実際,既に各所でIPv6ネットワークは運用を始めており,現在のIPv4プロトコルを置き換えるに十分なレベルには到達している。あとは,IPv4で実現しなかった機能などの提供がいつから始まるか,だ。

 本格的な運用にはプロセスやアプリケーションレベルでの対応などの課題もあるが,たとえば,BSD系OS(*1)などはすでにIPv6に対応しており,メールやWebを見るくらいなら,今までと何ら変わらない使用感を持つ環境が最初から用意されている。

 実際,IPv6に関してリーダーシップを取っているKAMEプロジェクト(*2)では,開発環境にBSD系のOSを使っている。将来のネットワークに関心があれば,これらのOSをぜひ使ってみていただきたい。当面は,

  1. IPv6実験を行うための実験設備を構築する
  2. 別のネットワークとの接続経験を得るためにIPv6ネットワークに接続する
  3. 自組織のネットワークをIPv6に移行する

 ということを考えつつ,IPv6に関する実際の経験を積むのがベストではないだろうか。

IPv6の未来

 これだけIPv6が騒がれる理由はさまざまである。今回の連載の最初で述べた,「IPv6の本質は,アドレス空間の問題に対処するにとどまらず,スケーラブルなネットワークアーキテクチャを持ち,セキュリティを向上させ,サービス品質を上げ,モバイルコンピューティングの可能性を広げるという役割を持っている」という技術的な理由ばかりでなく,この機会に新しいビジネスチャンスを生み出そうとする人々や,現状のネットワーク環境に不満を持つ人々の熱い期待も少なからずあるだろう。

 実際に,IPv6がその仕様を十分に満たして使われるようになれば,従来とは違ったネットワーク環境が実現できる。

 世界のどこに行っても変わらないインターネット環境の実現,インターネットに接続するための面倒な設定が不要になる,格段に増したセキュリティ,その気になれば,あらゆる機器と通信が可能になる。そうなったときに初めて実現する世界があるはずだ。もしかすると,そのときにはPCはなくなり,携帯電話のように身近な情報端末が1台あれば済む世界が現れるかもしれない。

 IPv6は,そう遠くない時期に普及すると考えられる。そのときに備え,今のうちから準備しておいても早すぎることはない。技術者は実際の経験を積み,利用者の方は“想像の翼”を広げるべきだ。使うということの本質は,何かができるから,その上でできることを考えようというものではない。「こういうことをしたいから,こうあってほしい」という要望をすべきなのだ。インターネットにおいて本当に大切なことは,何かを待つことではなく,参加することなのである。

*1 商用OSとしてはBSD/OS,フリーのOSとしてはFreeBSDやNetBSD,OpenBSDなどが代表的である。

*2 KAMEプロジェクト:「かめプロジェクト」と読む。IPv6やIPsec,あるいは高度なネットワーク技術に関する参照コードをBSD系のOS上で実現することを目的に結成された。WIDE(Widely Integrated Distributed Environments) プロジェクトに参加しており,成果物などはフリーで公開される。

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[渡瀬 俊, ITmedia]