News 2001年10月9日 09:32 PM 更新

日本IT不況の「現実」と「展望」――ゴールドマンサックス・山科拓アナリストに聞く(1)

深刻なIT不況と言われるが,その実態はどのようなものなのだろうか。巷では悲観論が優勢で,米国の同時多発テロ以降,その勢いが増している。だが,ゴールドマン・サックス証券でインターネット業界をカバーするアナリスト,山科拓氏は,こうした見方はあまりに短絡的だと言う。

IT投資は減速していない

ZDNet ついこの間まで高いバリュエーション(企業価値評価)だったIT関連銘柄ですが,今では業績も悪化し,株価が下落しています。

山科 いわゆる“IT不況”というのは,メディアが短絡的に報道しているだけでしょう。確かにコンシューマ系の企業は業績が悪化しています。しかし,エンタープライズ系の企業は業績好調なところが多い。それは,一般企業のIT投資が減速していないからです。

 情報サービスと言われている分野で,業績に不安感があるところは,ほとんどありませんし,仮にあったとしても,業績を大幅に下方修正するまでは至っていません。特に,従来型のソフト開発企業では,通常は1つのプロジェクトを3年単位で手掛けていますので,マクロ経済が急に悪くなったとしても,業績が落ち込むとは考えにくいと思われます。

 一般的には,ソフト開発やシステム構築,それに伴うハードウエア,パッケージソフト,設備を置くための不動産関連といったものが,IT投資になります。市場規模としては,約10兆円です。それに個人向けのPCが約4兆円,OA機器などが2兆〜3兆円ありますので,合わせると全体で17兆円ですが,このうちの企業のIT投資の部分の金額は減っていません。

 痛切に感じているのは,銀行などを見ると,IT投資が(今では“投資”ではなく)必要経費という位置付けになってきていることです。もはや,コンピュータなしでの業務は考えられませんから。

ZDNet IT投資で目立つのが,金融と流通の2業種です。両業界では企業再編が盛んですが,再編による企業数の減少で,市場規模が縮小することは考えられませんか。

山科 それは考えづらいでしょう。実際に,米国の金融機関は,再編が進んだなかでもIT投資は減りませんでした。また,金融機関以外でも,今までと違うのは,バックエンドとフロントエンド,それにWebとそれぞれのシステムを直結させようという動きが加速していることです。また,バックエンドの基幹系システムについても,システムを二重化,三重化する傾向にありますので,需要が減る兆しは感じられません。企業のコスト構造のなかで,削るとすれば,IT投資ではなく,むしろ他の部分になると思います。

 興味深いのは今,製造業がアグレッシブにIT投資を行っていることです。業界トップの企業が中心ですが,かなり戦略的なIT投資を実施しているようです。

ZDNet バックエンド,フロントエンドとWebの「統合的なソリューション」を提供できる会社は限られてくるんではないでしょうか。

山科 そうでもないでしょう。ソリューションの内容にもよりますが,現在のWebソリューションですと,Linuxを持ってきて,Apacheを乗せ,HTMLを書けば終わりという側面もあります。

 それに,95〜96年にかけて急速に普及したPCを買い替える時期に来ています。そこで,単にハードウェアを買い替えるのではなく,同時にイントラネットやグループウェア,ERP(統合パッケージ)などを導入する動きが起きています。従来はファイルやプリンタの共有,メールといった利用でしたので,フロントエンド部分では需要が高度化しているわけです。

 さらに,SCM(サプライチェーン・マネジメント)やERPを使いこなしている一部の大企業では,基幹システムを更新する時に,ミドルウェアを使ってミッションクリティカルなバックエンドシステムとフロントエンドシステムを統合する動きもあります。

ZDNet 例えばどんな企業でしょうか。

山科 ”B2Bコマース”に前向きな会社になります。東証1部上場の大企業のほとんどになると思いますが,目立つのは電機や自動車です。この他にも,東レや味の素,キリンビール,帝人といった業界のトップ企業を中心に,SCMを導入しています。

ZDNet その動きがトップ企業から2番手,3番手,中小企業と広がっていくのでしょうか。

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