News 2001年10月9日 09:32 PM 更新

日本IT不況の「現実」と「展望」――ゴールドマンサックス・山科拓アナリストに聞く(2)

山科 ベンダーやインテグレータにヒアリングしたところ,トップ企業と中小企業のIT格差は開いているというのですが,本当にそうなのかと疑問を抱いています。

 中小企業を営業基盤とする大塚商会によると,中小企業も決してIT化に後ろ向きではなく,むしろ焦りを感じているというのです。ですから,大塚商会のERP製品は良く売れています。

 結局,IT化に乗り遅れてしまうという危機意識を持っている企業は,規模が小さくてもIT投資を実施しているのです。ただ,投資対象がPCサーバとPC,パッケージソフトになってしまいますので,金額としても小さく,目立ってはいません。

 これまでのEDI(企業間電子商取引)からB2Bコマースに移行し,SCMの延長線上のプライベート・マーケットプレイス(PMP)にたどり着きつつあるという印象があります。

 典型的な例がソニーです。現在グループ全体でB2Bを推進していますので,当然のことながら,取引先も受け入れざるをえなくなっていますね。

B2B普及はアーキテクチャ統一が課題

ZDNet B2Bの普及時期は,いつ頃になりそうですか。

山科 当初は去年と考えていましたが,景気次第になりそうです。それでも,間違いなく広がっています。国際競争に晒されている,自動車や電子部品といった業種は先行することになるでしょう。

 ただし,各社によりアーキテクチャがバラバラで,普及の障害になっているのも事実です。アーキテクチャを統一するために,XML変換エンジンを導入しようとすると,それだけで数百万円は必要です。

 SCMの延長線上にあるPMPでは,買う側が強い立場になりますが,その際に同じアーキテクチャの売る側としか取引しないのか,それとも同じアーキテクチャにするために買う側が売る側を補助するのか,2つの考え方があります。ですから,買う側の考え方次第で,B2Bの普及が決まってくるでしょう。

ZDNet ただし,部品メーカーのように,納入先が多い場合は,それに合わせてよほど巧い作り方をしないと,かえってコスト高になってしまう危険性もあります。

山科 そこで求められるのは,インテグレータの資質と思います。ですから,インテグレータがどれだけ啓蒙できるかにかかってくると思います。

 それに,インテグレータは製造や会計などのノウハウがなければ,システムをインプリメンテ−ション(以下,インプリ)していけませんので,その溝をどう埋めていくのかが課題です。これまでは,集中処理のホストコンピュータであっても,分散処理のクライアント/サーバーであっても,1つの会社という閉じた枠組みのなかでは,アーキテクチャは何でも良かったわけですから。

 それをネットワークでつなぐことを前提にして,どういう形でインプリしていくのがベストになるのかと考えていくと,インテグレータも限られてきます。

ZDNet インテグレータのなかで,インプリメントの能力が高いのはどこになるのでしょう。

山科 総合電機には,製造部門と情報システム部門の両方を抱え,ノウハウ持っているはずですが,縦割りの組織がネックになっているように思われますし,自社のアーキテクチャを使いたいという欲求が妨げになっている部分もあるでしょう。

 むしろ,新日鉄ソリューションズ(本社・東京)などのような製造業系のインテグレータの方が,製造業でのインプリ能力が高く,他のインテグレータよりも新しい技術を貪欲に吸収しているようです。

 一方では,ユーザーもインテグレータも,リテラシーを上げていく必要があります。リテラシーを上げても,インテグレータが自社製品にこだわっていると,ボトルネックになりますが。

 そういうこともあって,本当に期待しているのは,Webサービスです。いまSOAP(Simple Object Access Protocol)やWSDL(Web Services Description Language)でアーキテクチャーを統一していこうという機運が盛り上がっています。

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