News:ウェストコースト通信 2001年12月5日 01:24 PM 更新

ウェストコースト通信:ハラハラしながら見守る「今年のクリスマス」

米国ではいよいよホリデーシーズン。クリスマス商戦の出足は好調のようで,このままの調子を維持してゴールまでたどり着けるか,みんなハラハラしながら見守っている。そんな商戦の最新の動きを見ていくと――。

 サンフランシスコの街なかは,赤と緑のクリスマスカラーの装飾で美しく彩られ始めた。サンクスギビング(感謝祭)も終わり,いよいよ本格的なホリデーシーズンの到来である。これは,小売店にとって,一年中で最も活気付く季節でもある。

 11月の第4木曜日にあたるサンクスギビングの翌金曜日は,「ブラック・フライデー」と呼ばれる。「ブラック」というと,大恐慌の始まりを告げた1929年の「ブラック・サーズデー」(暗黒の木曜日)や1987年10月19日株式市場暴落の「ブラック・マンデー」(暗黒の月曜日)などを思い浮かべてしまうが,「ブラック・フライデー」の「ブラック」は,ちょっと違う。

 「暗黒」ではなくて,客が押し寄せて店が「黒字」になるホリデーシーズンの始まりということだ。

 このブラック・フライデーを始まりとしたサンクスギビング後の週末には,多くのアメリカ人は買い物に忙しい。クリスマスの飾り付けやら,プレゼントやらを買い求める人で,ショッピングモールや小売店は,どこもごったがえす。サンフランシスコもご多分に漏れず,街中の店は,人,人,人。

 そんな中でも,今年,特に賑わいを見せているのは,ディスカウントを売り物にしている店だ。景気の落ち込みと先行きの不透明感が多いに影響しているのだろう。


サンフランシスの中心街にあるデパート Macy'sもすっかりクリスマスの装い。外には人が溢れている

今年は“ちょっと違う”ネットのクリスマス商戦

 街なかだけではなく,ネット上でのクリスマス商戦の火蓋も切って落とされている。ただその中身は,ちょっと今までとは違うようだ。

 昨年のクリスマス商戦で注目を集めていたおもちゃのオンライン小売店eToysは,今年の始めに潰れてしまった。ところが,eToysのサイトにアクセスしてみると,ちゃんとおもちゃを販売している。

 これはどういうことかというと,ネット専業だったeToysは,営業停止後,全米に展開している小売店KB Toysに買収され,そのオンライン部門となっているのだ。eToysが築いたWeb上のブランドを受け継いでいる。以前のeToysのWeb上の機能も復活させて,既存の顧客もそっくりそのまま受け継ごうとしている様子だ。

 オフライン店舗を持つ小売店も,Web上での販売に知恵を絞っている。

 皮のバッグで有名なCoachは,クリスマスぎりぎりにくる買い物客向けに,Web上にE-Giftという機能を追加した。これは,商品が発送される前に,即座に電子メールで相手にプレゼントの内容が,写真や製品説明とともに届くというもの。うっかりプレゼントを買い忘れたり,ぎりぎりまで仕事が立て込んで手が離せなくなったりしても,これならクリスマス直前にでもWebから注文すれば大丈夫,という便利な機能だ。

 想像に難くないが,アパレル関係はオンラインでの販売が難しい。着慣れたブランドでもない限り,実際に試着してみないと自分にあうサイズやスタイルが分からないからだ。そんな問題を解消するため,カタログ販売を中心とするアパレル小売のLands' Endは,Web上でMy Virtual Modelという機能を実現している。

 これは,身長,体重,体型,肩幅,顔形,髪型などを設定することによって,自分用の仮想のモデルをつくり,表示することができる。これによって,自分に合うサイズやスタイルの服をWeb上で選ぶことができるようになっているのだ。

アウトソースもトレンドに

 ネットの世界で,小売Webサイトとして圧倒的なブランド力を持っているのは,やはりAmazon.comだ。Jupiter Media Metrixの調査によると,今年のホリデーシーズンの始まりであるサンクスギビングの週には,Amazon.comに1日平均227万のユニークビジターのトラフィックがあった。これは,全米に展開する主なオフライン小売チェーンの小売Webサイト(Walmart.comなど)の実に5倍以上の数字だ。

 このトラフィックの差が物語るように,既存のオフライン店舗は,オンラインでの販売はネット専業の業者にアウトソースする傾向も顕著になっている。おもちゃ小売チェーンのToysrusに始まり,電化製品チェーンのCircuit Cityや総合小売チェーンのTargetなど,続々とAmazon.comと提携している。

 各社がそれぞれオンラインショップを運営するよりも,はるかにトラフィックが大きく,Web上のマーケティングに経験豊富なAmazon.comに任せたほうが,効率がよいからだ。

 全米第2の書籍チェーンであるBordersも書籍販売の競合であったAmazonと提携し,今年の8月から共同ブランドのWebサイトで販売をおこなっている。Bordersは,自社サイトとして単独で運営していた時には膨大な赤字を垂れ流していたが,Amazon.comにアウトソースすることによって,既に黒字化しているという。

 このように,インターフェースの多機能化,オンラインとオフラインの提携などで迎えた今年のクリスマス商戦であるが,その出足は好調のようである。さて,このままの調子を維持してゴールに駆け込むことができるのか。気になる景気の行方を左右するだけに,ハラハラしながら皆,注目しているところだ。

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[小田康之, ITmedia]

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