News | 2002年2月15日 10:39 PM 更新 |
「ユニバーサルデザイン」という言葉を,最近よく耳にするようになった。
Universal(普遍的な,すべての)Design――つまり,健常者/障害者,子供/老人,男性/女性といった区別なく,あらゆる人が使いやすいように考えて製品・建物・環境をデザイン・設計するという概念だが,このユニバーサルデザインを提唱した米国建築家のRon Mace氏は,その定義を以下の7原則で表している。
この,「誰にでも使いやすい製品」という思想は,エレクトロニクス製品にも数多く取り入れられている。
東京・新宿のリビングデザインセンターOZONE内で1月31日から3月5日の期間で開催されている「ユニバーサルデザイン展」では,エレクトロニクス製品におけるユニバーサルデザインの実例と変遷が紹介されていた。
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都内で開催されたユニバーサルデザイン展 |
ユニバーサルデザインという思想に注目が集まってきたのは,前述のMace氏がその定義を提唱した80年代以降だが,欧州ではそれ以前から,人間工学に基づいた製品作りが行われてきた。
今回の展示会で来場者の注目を一番集めていたのも,やはりデンマークのAVメーカー,Bang&Olufsenの展示だった。
洗練したデザインの高級オーディオで知られるB&Oが紹介していたのは,「Beo 4」というリモコン。B&Oの製品群を,このリモコン1つで家の中のどこからでも操作ができるという。「リモコンの制御信号には赤外線を使っているのだが,信号のパワーが強いので,見通しがきかなくても壁などに反射して操作できる」(バング&オルフセン ジャパン)。つまり,操作したいときにリモコン1つで全てができるというところが“ユニバーサルデザイン”というわけだ。
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B&O製品群を操作できるリモコン「Beo 4」 |
実際に持ってみると,ボディが亜鉛合金でできているため,ずっしりと重い。亜鉛合金の採用は「耐久性と放熱のため」(同社)という。落下したときのための耐久性は分かるが,“放熱”は……。強力な赤外線パワーに関係があるのだろうか。
ちなみにリモコンの価格は3万円。さすが,20万円のCDラジカセや8万円のMP3プレーヤーを出すメーカーだけのことはある。
ユニバーサルデザインのリモコンなら,日本メーカーも負けてない。日本ビクターは,同社AV機器のリモコンを年代別に展示して,その変遷を紹介していた。
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日本ビクターはリモコンの変遷を紹介 |
1986年のリモコンと最新のリモコンとを比べてみると,AV機器の機能は増えているにもかかわらず,ボタンの数はそれほど変わりない。実は,AV機器の機能がどんどん増えてきた1990年代にはリモコン全面がボタンだらけという時期もあった。しかし,使いやすさという観点から十字キーの導入や使用頻度を考えたボタン配置,さらには誰にでも操作しやすい大きめのボタンなど,ユニバーサルデザイン的な発想がリモコンに取り入れられた結果,シンプルでも使いやすいリモコンへと変化してきているのだ。
パソコン業界のユニバーサルデザインへの取り組みは,どうなっているのだろうか。展示会では,この分野に一番力を入れているIBMが,これまで発売してきたThinkPadを展示して,そこに導入されたユニバーサルデザインの思想を紹介した。
キーボードから手を離さずにマウスを操作したいという要望をかなえたスティック型のインタフェース「TrackPoint II」は,1992年10月に発売されたThinkPad700Cから採用。そのほか,音声入力でPC操作ができるViaVoiceを搭載したThinkPad iシリーズや,画面上のアイコンや文字の表示が大きくなるといったシニア/初心者ユーザーに使いやすいパソコン環境づくりをめざすITry機能の搭載などもユニバーサルデザインを表れだ。
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スティック型インタフェース「TrackPoint II」を採用したThinkPad700C |
さらにThinkPadでは,両手を使わなくても開閉できる液晶ディスプレイや視認性を向上させたキーボードトップ,押しボタン式の電源など,細かなところにユニバーサルデザインの思想が取り入れられている。
ただ,ユニバーサルデザインの導入がヒット商品につながるかというと,必ずしもそうではなさそうだ。展示会場では,発表当時話題となったTransNoteが,デジタルの便利さと手書きの使いやすさを融合したユニバーサルデザインのPCとして展示されていた。
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デジタルの便利さと手書きの使いやすさを融合したユニバーサルデザインのPC「TransNote」 |
既報の通り,IBMはこの革新的なノートPCを,販売不振を理由に昨年末をもって製造を中止した。日本でも,発売時には30万円以上したものが,最近では10万円以下で投売りされているケースも見かけるなど,売れ行きはかんばしくなかった。
IBMは,このような失敗を過去何度も繰りひろげている。しかし,それでもチャレンジを止めない企業姿勢は,日本メーカーにも見習ってもらいたいものだ。
会場には,IBMの次なるチャレンジとなるWatchPadも展示されていた。この腕時計型PCにおけるウェアラブルコンピューティングの概念は,まさにユニバーサルデザインそのものといえる。
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WatchPadはユニバーサルデザインそのもの |
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