News:っぽいかもしれない 2002年4月5日 06:59 PM 更新

っぽいかもしれない:“走るAIBO”には歴史がある(3)

 「AIBOのオーナーが,ただいまって帰ってきて玄関のドア開けますよね。そこでAIBOに迎えに来てほしい。でも,いまのAIBOだと玄関に来るまで2分以上かかっちゃう。いくらAIBOが好きでも,寒い玄関で2分は待てないでしょう。でも,走れれば,本当にお出迎えができるわけです」

 次に,いくつかのことばの定義。“歩行”と“走行”の違いの話はここででた。そして,歩いたり走ったりするときに,各脚をどういう順番で動かすかというのことを“歩容(gait)”*6というのだけど,それにはいろいろなものがある。代表的なもので“クロール”“トロット”“ペース”など。「これらは教科書を見れば必ず書いてあります」

 ちょっと中断。必ず書いてありますって言われてもロボットの教科書は持ってないから,調べてみた*7。歩容の種類ってほんとにいっぱいあるのだ。

・クロール(crawl)  4足の静歩行。左前→右後→右前→左後の順に1脚ずつ持ち上げて接地を繰り返すやり方。crawl(這う)の原義通りで,速度は出ない*8。実は今のAIBOの歩き方はこれ(分速7メートルくらいだそうだ)。

・トロット(trot)  4足の動歩行。左前と右後(同時)→右前と左後(同時)の順に足を前に出す左右対称な歩き方。猫や犬や馬の小走りはこれ。ちなみに彼らの普通の歩き方はアンプル(ample)。

・ペース(pace)  4足の動歩行。 左前と左後(同時)→右前と右後(同時)の順に足を前に出す左右対称な歩き方.どういうわけか,ラクダが必ず例に出ることになっているけど,キリンや象の歩き方もこれ。

 山本さんの話に戻る。

 動物がそれぞれ違う歩容を採るのは,体のサイズや移動したい速度によって最適な歩容が違ってくるからだ。たとえば馬の歩容は,速度によってアンプルからトロット,ギャロップ(これは有名)というふうに変わっていく。

 では,AIBOの大きさのロボットが走る場合にはどういう歩容がベストなのだろうか。山本さんは,コンピュータのシミュレーションでいろいろ実験した。(実機ではなく)シミュレータを使うのは,パラメータの変更が容易だし,失敗しても壊れないから。

 速く動かしたいならモータを強くすればいいっていう考え方をする人がいるのだけど,それは必ずしも正しくない。モーターを強くするとそれを動かすために大きなバッテリーが必要になる。そうすると全体の重量がアップする。それを動かすためにはさらに大きなモータが必要になる...っていうことになりかねないのだ。そうならずに最適なモータの強さを探し出すためにもシミュレータというのは便利。

 そうやってAIBOに最適な走り方として選ばれたのが“バウンス”と“ブロンク”だ。というわけでまた調べた。

・バウンス(bounce)またはバウンド(bound)  4足の動歩行。左右の前(同時)→左右の後(同時)の順に足を前に出す対称な歩き方(走り方)。4足獣の高速走行に見られる.

・ブロンク(bronk)  4足の動歩行。4足を同時に動かす歩き方(走り方)。

 4足同時っていわれてもなんだかよくわからないんだけど,こんな感じ。そのシミュレータの画像だ。


bronk.mpg (244Kバイト)

 「バウンズとブロンクのどちらを採るかというのは,趣味の問題なのですが,ブロンクってあんまり動物らしくない。なんだか虫みたいに見える。そこで,バウンズでいってみることにしました」*9

 さて,これが,Running AIBOの試作機。


 アイデンティティのために首がAIBOだけど,本体は全く別物。かなりごついアクチュエータが使われている。これはまだバッテリーを内蔵できていない。だから紐付き。

 そして,走る姿がこれだ。もしかしたら実物が出てくるのじゃないかと期待したのだけど,それはなかった。


runningaibo1.mpg (228Kバイト)


runningaibo2.mpg (600Kバイト) スローモーション。

 いまのAIBOの10倍の速度で走れるんだそうだ。とすると分速70メートル。時速に直すと4.2キロ/時。人が歩く速度についてくる感じだ。オーナーの後を一生懸命走りながらついてくるAIBO。いいかも。

(人間の)夢を語る

 最後に,お二人がそれぞれの“夢”を語ってくれた。まず山本さん。

 「わたしはMarcのおかげでロボットにあこがれて,そしていま一緒に仕事をしている。そういう風に,ROBODEXに来てくれたこどもたち――この(トークショーの)会場は大人が多いですけど――が,やっぱりロボットにあこがれてくれて,そしていつか一緒に仕事ができるようになったらいいですね」

 そしてそのMarc先生。

 「数年後,“ダイナミックロボット”が皆さんの家にいるっていう風になってほしい。それからロボットでスポーツができるようになっていてほしい。そしてわたしの夢は,富士山に登れるロボットを作ることだ。そして転ばないで降りてこられるやつ」


*6gaitを英和辞典でひくと“足並み”って書いてある。この方がわかりやすい。
*7ロボット用語事典がとても役に立ちました。ありがとうございます。ところで,このあたりのことばをWWWで検索すると馬術関係のサイトがたくさん引っかかる。もともとはそっちのことばなんだね。
*8日本語でクロールっていうと,泳ぎ方を連想するので,なんだか速いような気がしちゃうんだけど,そんなことはない。
*9ブロンクで実機を走らせることもしたのだけど,バウンズの方が速かったそうだ。

関連記事
▼ ソニー,走る「Running AIBO」を開発中
▼ ROBODEX2002特集ページ

前のページ | 3/3 | 最初のページ

[こばやしゆたか,ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.