News 2002年4月12日 11:59 PM 更新

液晶に代わる画期的な新素材「電子粉流体」とは?

ブリヂストンが発表した「電子粉流体」。高速応答,高反射率,高視野角,低消費電力が可能となる画期的な電子ディスプレイ用表示材料というこの新素材について,同社に話を聞いてきた。

 ブリヂストンが3月20日に開発発表した「電子粉流体」。従来,電子ディスプレイ用として使われている液晶と比べ,高速応答,高反射率,高視野角,低消費電力が可能となる画期的な電子ディスプレイ用表示材料だという。同社を訪ね,この新素材について話を聞いてきた。


電子粉流体を用いた電子ディスプレイの例

 電子紛流体は,同社のナノテクノロジー研究によって生み出された新素材。高分子ポリマーの細かい粒子に特殊加工を施し,粒子なのに液体のように振るまう特性を備える。同社ナノ機能材開発プロジェクト部長の田沼逸夫氏は「固体と液体の両方の性能を兼ね備えている。“さらさらとした固体”といえば想像つくだろうか」と,この新素材の独特な特徴を表現する。

 今回の取材では,プラスチック製ボトルに入った電子粉流体の実物を見ることができたが,特許申請中ということもあり,残念ながら写真撮影は禁止されてしまった。

 “これまでにない”という素材を文章で表現するのはなかなか難しいが,ボトルには,かなり細かな粒子の白い粉のような素材が入っており,上下に振ってみると粉が舞い上がったような状態になってカサが増す。この状態になると,新素材は液体のようになり,左右に揺らすと,やはり液体のように表面が波をうつ。

 「浮遊状態に匹敵する高い流動性を持ち,カサ密度を1〜10倍程度にまで可変できる。浮遊状態になることでメモリ性を持つため,電源を切ってもしばらくは表示を維持でき,消費電力も抑えられる」(田沼氏)。

 この新素材は電気に敏感に反応し,帯電時には粒子同士が反発する性質を備える。この性質を利用して,ディスプレイの表示材料として液晶のかわりに使うことができるのだ。応答速度は数百マイクロ秒と液晶を約100倍上回るほか,高反射率,広視野角で消費電力も低く,薄型化できる点が特徴という。「液晶は低温環境に弱いが,この新素材は低温時でも動作が安定している」(田沼氏)。

 これまでの反射型液晶ディスプレイでは,ガラス板や透明電極のほかに偏向板や配向膜,反射板などを利用して視野角やコントラストを高めていた。さらに動画に対応するには応答性を高めなければいけないため,TFTなど薄膜状のトランジスタを利用した複雑な駆動回路も必要だった。このような複雑なパネル構造には高い生産技術が必要であり,それはコスト増にもつながる。軽量化,薄型化にも限界があった。


液晶を使った電子ディスプレイの構造図

 電子粉流体を応用した電子ディスプレイは,ガラス板に透明電極を貼り合わせただけという単純構造のパネルの間に,この電子粉流体を封入するだけ。「さらに単純マトリックス駆動が可能なため,複雑でコストアップにもつながるTFT駆動が必要なくなり,薄型化や液晶サイズの大型化にも効果的」(同社)。


電子粉流体を応用した電子ディスプレイの構造図

 液晶にかわる新ディスプレイには,キヤノンや凸版印刷などが電子ペーパー向けとして開発している「電気泳動方式」がある。紙に匹敵する高い反射率や,電源オフ時も表示が保持されるメモリー効果,低消費電力などが電気泳動方式の“売り”だが,応答速度が150ミリ秒と遅いため,電子ペーパー以外の用途には不向きといわれている。

 電子粉流体,液晶,電気泳動,それぞれの方式の特徴は以下の通りだ。


各ディスプレイ表示方式の特徴

 このように電子粉流体は,反射率,応答性,視野角,消費電力など,あらゆる分野で従来のディスプレイ表示方式を上回っている。「発表以来,キヤノンやソニー,シャープといった液晶ディスプレイの大手メーカーからも,多数問い合わせが来ている」(同社)。

「電子粉流体」の正体は?

 粒子なのに液体のように振るまって“浮遊状態に近い高流動性”を持つという特性や,電気に敏感に反応する性質が,電子ディスプレイに使ったときに効果を発揮する。この新素材の正体は,一体何だろうか?

 粒子のカタチや大きさ,素材などは,企業秘密ということで教えてもらえなかった。「素材自体は特別画期的なものというわけでなく,これまであるようなもの。ただし,電子粉流体そのものが今回のキーポイントなので,“有機物”であるということぐらいしかいえない」(田沼氏)。

 キーとなる素材に関しては,なかなかガードが固く,あらゆる質問にもノーコメントだったが,最後に「ブリヂストンならではの素材だったのか?」との質問には「まあ,そうでしょうね」と苦笑しながら答えてくれた。

 同社といえばタイヤメーカーとして有名だが,タイヤに使うゴム素材開発のノウハウを生かして,防振ゴムやホース,内装材,ベルト,補強・防水・防音用などの建築素材など,さまざまな応用製品も作り出している。今回の電子粉流体も,エレクトロニクス技術だけでなく,化学や流体学,微細加工技術,ナノテクノロジーに長けている同社ならこそ開発できた材料であることには間違いないようだ。

 「材料自体の研究をしていないと,なかなか出てこない発想の材料。今回の電子粉流体も,当初はディスプレイ用材料としてではなく,別の素材研究から生まれた」(田沼氏)。

 電子粉流体を使ったディスプレイは,2003年末の商品化を目指しているという。第一弾はPDAや携帯電話といったモバイル向けのモノクロディスプレイモジュールとして製品化を行う予定だ。  「電子ペーパーのような新市場を切り開いていくよりも,モバイル分野のように市場が確立されているところへフォーカスしたほうが,商売上もやりやすいため。良さが認められれば,ノートPC向けや電子ペーパーなどにも応用されていくだろう」(田沼氏)。

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[西坂真人,ITmedia]

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