News 2002年6月25日 03:03 PM 更新

RoboCup-2002閉幕 初代ベストヒューマノイドは「NAGARA」

RoboCup-2002の最終日には、各リーグの決勝戦が行われた。ここまで勝ち残ってきたチームだけに、攻防は非常に高レベルだ

 6月23日、「RoboCup-2002」もついに最終日となり、各種目もクライマックスを迎えることになった。最終日は各リーグの決勝戦や3位決定戦などが目白押しだ。試合時間も重なってしまってたりするので、全部を見ることができない。以下の記事で長く書かれているのは「見たところ」だと思ってほしい。

ヒューマノイドリーグ

 ヒューマノイドリーグは、まずPK戦の40センチクラスの総当たりで1つ残っていた試合が行われた。日本の「Foot-Prints」チーム対シンガポールポリテクニックの「ARICC_HURO」の対戦。ところがARICC_HUROが交通渋滞に巻き込まれ試合開始時刻になっても登場しない。あわや不戦敗かと思われたときにやっと登場。競技の結果、試合時間を遅らせてのスタートとなった(このあたりの柔軟性は手作りのイベントらしい柔軟性だ)。

 しかし、どうしたことか、両チームともシュートが全く決まらない。Foot-Printsは蹴ったボールがゴールに達する前に止まってしまうし*1(事前の調整のときにはゴールまで届いていたのに)、ARICC_HUROは蹴る前に転んでしまったりする(車酔いか?)。スコアレスドローで終了。FootPrintsが1勝2分で決勝進出。午後に行われた決勝戦も制し、「ペナルティシュートH-40クラス」の初代チャンピオンとなった。

 Foot-Printsは、今回の参加者の中では唯一の個人参加のチームだ。2月に行われた「ROBO-ONE」で出会った2人がタッグを組んだというホビイストチーム。

 ロボカップ日本委員会会長の浅田稔先生は、「今後も研究者とホビイストとのあいだに境をつくるつもりはない」と話している。ただ、「結果をオープンにするというRoboCupの基本理念のために、参加者にはそのマシンについての論文を書いてもらわなくてはならない」とも。これが、ちょっとホビイストには障壁になってしまうかもしれない*2

 「ペナルティシュートH-80クラス」は、大阪大学の「Senchans」と岐阜県工業会の「NAGARA」が対決しNAGARAが勝利をおさめ、「歩行競技」との2冠を果たした。NAGARAは、岐阜県の産官学の共同プロジェクト。完成度では他を圧倒した。

 さて、この日はヒューマノイドリーグの「フリースタイル」の演技も行われた。各ロボットが制限時間5分で自由に演技をおこない、自分のパフォーマンスをアピールするというものだ。点数は「スムースさ」「ダイナミクス」などの着目点について5人の審査員が採点。ここでは身長は関係ない。みんなまとめてひとつのクラスだ。

 演技はいろいろ。ほとんど顔見せって感じのから、六甲おろしで踊りまくるの(もちろん“大阪”大学のSenchans」だ)、基本に忠実な歩行を見せるの、観客のなかから子どもさんをステージに上げて手伝ってもらうのなどなど。


身長2.2メートルというウプサラ大学(スウェーデン)の「Murphy」。“You Can Dance”のはずだったのだけど……(ライセンス契約により動画は削除しました)


早稲田大学の「The Ninja」による「ジャパニーズ・ゲイシャ・ダンス」。BGMは米米クラブの「Funk Fujiyama」だった

 あの「morph 3」(北野共生プロジェクト)もついに登場した。オリジナルテーマ音楽をバックにしながらの熱演となるはずだったのだけど、残念なことにソフトウェアが思いっきり未完成。しかも、こちらに来てから内蔵電源にトラブルが発生してしまったそうで、外部電源からケーブルでつながれての演技。本領の10%も見られなかった*3


ライセンス契約により動画は削除しました

 優勝は、南デンマーク大学の「VIKI」。12人のロボットが一斉に踊ってかわいくて観客にもウケてたから、順当なところ。2位はNAGARA(審査員の一人だった瀬名秀明さんによれば、僅差だったんだそうだ)。


ライセンス契約により動画は削除しました

 そして、全ての結果を踏まえての初代「ベストヒューマノイド」にはNAGARAが選ばれた。2つのリーグで1位、フリースタイルでも僅差の2位だったのだから、文句のつけようがない。あの「ルイ・ヴィトン ヒューマノイドカップ」は1年間、岐阜県に留まることとなった。おめでとうございます。


小型ロボットリーグ

 決勝戦はコーネル大学(アメリカ)の「Big Red」対ベルリン自由大学(ドイツ)の「FU-Fighters」。ここまでほとんどの試合を10対0のコールド勝ちという圧倒的な力を誇るBig Redと、僅差の試合を勝ち抜いてきたFU-Fightersという組み合わせである。結果はやはり、Big Redが7対3とダブルスコアで勝利。チャンピオンとなった。

 Big Redは個々のユニットの運動能力(とにかく速い!)と、シミュレーションリーグを見ているかのような高いフォーメーション能力の両方を兼ね備えているのだ。相手のディフェンスを片側に集めておいて、一瞬のスキで反対サイドにパスを回しそのままシュートというのも平気でこなす。

 コーネル大学では学内にRoboCupのリーグがあり、ここにでてくるのはその優勝チームなのだそうだ。強くなるわけだ。

 このクラスでは、もうリモコンをもった人間5人が挑戦しても全く勝てないという話なのだけど、うなずける*4。ボールを目で追うのが精一杯なのだ。

中型ロボットリーグ

 今回、わたしはこのリーグをいちばん追いかけていた。今年のワールドカップなみに番狂わせみたいな試合がつづいて優勝候補がどんどんいなくなってしまう調子で、とてもおもしろかったのだ。

 決勝戦は金沢工業大学の「WinKIT」vs 慶應義塾大学の「EIGEN」。ダークホース対大本命という戦い。

 非常にレベルの高い試合だった。とくに前半は試合途中で動かなくなってフィールドの外で治療されるマシンというのがほとんどでない。チャージング(ボールではなくマシンにぶつかっていくプレイ)の反則もほとんどない。試合が中断することがないので(もともと治療退場はプレイを止めないけど)、見ている側が感情移入しやすい。観客の興奮も高まる。

 先取点を入れたのはWinKIT。前半3分、右コーナポストからのドリブルでそのままゴールにボールを押し込んだ。しかし、30秒後、こんどはEIGENがすぐ同点に追いつく。ボールをゴール前に運んだプレイヤーに相手ディフェンスが集まるスキに、別プレイヤーがボールを押し込むという絵にかいたような得点シーンだ。こういうクレバーな得点がEIGENの持ち味である。


ライセンス契約により動画は削除しました

 前半9分、こんどはWinKITが得点。相手ゴール前での押し合いのなかで、ボールを押し込んだ。そのまま2対1で前半終了。本命のEIGENがビハインドを許すという予想外の展開だ。

 後半に入り、プレイヤーに疲れが見えたのか不調が目立ちはじめる。EIGENのキーパーがボールを見失うような動きをするようになる。でも、フィールドプレーヤーのディフェンスが見事にカバー。WinKITも自陣ゴール内に引っかかってしまうようなプレイヤーが出てきて調整を余儀なくされる。両者得点の入らないまま進んだのだけど、後半8分、EIGENがサイドラインからのボールを一気にゴールに運び込んでしまう。この試合では影を潜めていたEIGENの速攻がついにでた。

 さらに終了まぎわの後半9分、EIGENが再び速攻でゴール。ついに逆転。直後に試合終了のホイッスルとなった。またも絵にかいたような優勝のシーンである。ロボットがどうこうという以前に、純粋にゲームとして感動させてもらった。たぶん、観客のみんなも同じ気持ちだったのではないかと思う。


優勝のEIGENチーム

ソニー4足ロボットリーグ

 こちらも極めてレベルの高い決勝戦となった。カーネギー・メロン大学(アメリカ)の「CM Pack 02」対ニューサウスウェルズ大学(オーストラリア)の「rUNSWift」。なんと3対3の同点。優勝の行方はPK戦に持ちこまれた。

 このリーグのPK戦はキーパーはいない。そのかわり制限時間1分の間なら何回キックしてもいい。ボールとキッカーの初期位置をいろいろ変えながらお互いにキックを繰り返し、先に外したほうが負けというサドンデスルール。

 rUNSWiftの先攻で開始された。最初は、ゴールとボールとキッカーが一直線上に並ぶ初期位置。一度でのゴールはできず、そのあとも微妙にゴールの枠を外すキック。じりじりさせられたけど、50秒ほどで、なんとかゴール。後攻のCM Pack 02も、1度目のキックは外したものの、そのあとは落ち着いてゴールにボールを持ち込み危なげなくクリア。

 2回目。こんどは、ゴールの右45度の所にボールを置く。AIBOは、ゴールとボールとAIBOを結んだ角度が90度になるころにいる。「rUNSWift」はなんなくボールを見つけ、一度のキックでゴール前にボールを運ぶ。あとはまっすぐ前に蹴ればいいだけだ。ところが、ここで彼が逡巡してしまう。ボールとゴールを変わりばんこにながめながらなにもできなくなっちゃう。ぎりぎりになって、やっと動きだしたもののとき既に遅し。ボールがゴールラインを越えたのは1分3秒のときだった。失敗である。

 一方「CM Pack 02」も難なくボールを見つけ、ゴール前にボールを運ぶ。そして、胸でドリブルしながら慎重にゴール。優勝のゴールとなった。

 視角がせまいはずのAIBOでこんなにちゃんとしたサッカーができるっていうのに感動。


優勝者のインタビューはこのように球場の巨大スクリーンで放映された。

シミュレーションリーグ

 シミュレーションリーグの決勝は、精華大学(中国)の「TsinghuAelus」対北京工業大学自動制御学部の「Everest」という中国勢どうしの戦いとなった。結果はTsinghuAelusが相手を圧倒。7対0でチャンピオンになった。また、3位はドルトムント大学(ドイツ)「Brainstormers Dortmund-karlsruhe」。

 今日も、小学生をはじめとする一般の観客が多数いたのだけど、「フラット3が破られた」とか「ダメだよ、そんなパス通しちゃ」とか、ちゃんとサッカーとして熱くなってる声が多数聞えた。

 今回、RoboCup-2002実行委員会副会長である松原仁先生(はこだて未来大学)は、シミュレーションリーグが専門なんだけど、先生によれば「いままで、シミュレーションリーグは、地味だとかウケが悪いとか思ってたけど、今回、そんなことないっていうのが実感できた。地味だからっていうんでビジュアライゼーション(「●」や「○」がサッカーするのでなく、TVゲームのサッカーのように3Dのプレイヤーがサッカーをする)を作ったりしたのだけど、そんなことしなくたって、ちゃんと一般の観客にウケている。ワールドカップのおかげで、一般のサッカーに関するレベルが上がってきたことと、TVでの解説などで、ボードの上にコマを置くような画面(作戦図)を見慣れてきたってことがあるかもしれない」だそうだ。

 また、今回某Jリーグの選手がシミュレーションの画面を見て、「これは、あそこのチームより強いな」と言ったという逸話もでたそうだ。つまり、もはやコンピュータの話ではなく、サッカーの話をするところまで来たということだ。


これがビジュアライゼーションの画面。このカテゴリーではイランの「SBCe」が受賞した。

レスキューリーグ

 レスキューシミュレーションリーグは、イランのシャリフ工科大学の「Arian」、実機リーグもイランのジャワン・ロボティクス・クラブの「KAVOSH」が優勝。

 この前の日、イランでは大震災が発生、多くの犠牲者が出ており、現在もレスキュー活動が続けられているという状況だ。この両チームをはじめロボカップには多くのイランチームが参加している。本当に気が気ではない状況だろう。こんなときにそれどころじゃないかもしれないけど、それでも(だからこそ)優勝おめでとうと言わないではいられない。

 なお、今回の課題は、シミュレーションの街も、実機の瓦礫も、日本の環境が使用されていた。これがイランの震災にそのまま使えるのかどうかはわからない。次回からは、日本以外の環境もテーマにするほうが良いかもしれないという意見が出されているようだ。

ロボカップジュニア

 サッカー(1対1、2対2小学生、2対2中高校生)の決勝戦と、ダンス競技が開催された。これは、時間の都合で全く見ることができなかった。ごめん。フィールドからは大きな歓声が上がっているのは聞えていたんだけど……。


ジュニアサッカー1対1の特別賞「Team Denmark」


*1これは、昨日からだったのだけど、フィールドは完全に平面でなく、ゴールラインの手前のところが少しへこんでいたらしい。ボールがそのあたりで止まってしまうのだ。これはちょっと残念。もっともルールでは「フィールドは平面になるように努力はするが、それを完全に保証するわけではない(人間のサッカーと同じ)」となっているので、このていどのへこみはルールの範囲内だ。
*2論文っていうのは定型文章みたいなところがあるんだけど、それになれていないと敷居は高い。論文作成ウィザードみたいのがあればいいのに。
*3「ソフトウェアが完成したら見に来てください」って言われた。もちろん、「それは、ぜひ見に行かせてください」。
*4ただし、「人間」は研究者や学生だ。最高のゲーマーが相手だったときにどうなるかは、ちょっと見てみたいね。

関連記事
▼ 「RoboCup-2002」開幕 ASIMOがVゴール!
▼ 「AIBOリーグ」はハイレベル! RoboCup-2002
▼ 期待の「ヒューマノイドリーグ」……はまだまだこれから

[こばやしゆたか, ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.