News 2002年6月26日 11:59 PM 更新

CDの“タトゥ”は高品位の証し――ヤマハの「DiscT@2」

CD-Rディスクの記録面に画像や文字情報を描画できる「DiscT@2」。その描画の仕組みや開発経緯などを聞いた

 CD-Rディスクの記録面に“Tattoo(刺青)”のように画像や文字情報を描画できる「DiscT@2(ディスク タトゥ)」。描画の仕組みや開発経緯について、開発者に話を聞いた。


CD-Rディスクの記録面に画像や文字情報を描画できる「DiscT@2(ディスク タトゥ)」

 DiscT@2は、CD-Rディスクの記録面に独自の階調パターンを記録し、任意の文字や絵を描画することが可能な同社独自の技術。CD-Rディスクに通常のデータ記録を行った後、未使用の外周部分を利用して、ディスク記録内容のメモや日付、ロゴやイラストといった描画を行える。今年3月に催されたCeBITで初めてデモンストレーションが行われ、今月発表した内蔵型外付型の44倍速対応CD-R/RWドライブ「CRW-F1シリーズ」で、この新機能を搭載した。


44倍速対応CD-R/RWドライブ「CRW-F1シリーズ」

 「ディスクの記録面に描画するという発想は、CD-Rの前身となるPDS(Programable Disc System)の時代からあった」と語るのは、DiscT@2の開発に携わった同社AV・IT事業本部ITマーケティング担当課長の近藤博氏。

 「CD-Rを利用する際に、600〜700MBという記録容量全部を使うケースは意外と少なく、外周の記録スペースが余っていた。ここを何かに使えないのかというのが、開発のきっかけ」(近藤氏)。


同社AV・IT事業本部ITマーケティング担当課長の近藤博氏

 DiscT@2は、どのようにしてCD-R記録面に描画しているのだろうか。

 CD-Rは内周からデータを記録していくのだが、記録後のディスクをよく見ると、データが書き込まれた部分の色素が変化している。これは、ピット長が連続した集合体(記録された部分)が、記録していない部分と比べて少し明るめに見えるため。しかし、CD-Rの記録で使われる符号化方式「EFM」のピット長は1/1000ミリほどで、ピット1つ1つのドットパターンは、当然ながら人間の目で見えるものではない。つまり通常のCD-R記録方式では、「記録してある/してない」という2値表現での描画ぐらいしかできないのだ。「通常のデータ記録方法で画像を描くということは、まず無理」(近藤氏)。


通常のCD-R記録は、ピット長1/1000ミリのEFM方式

 そこでDiscT@2では、ドットパターンを1/10ミリ幅に拡大し、ドット幅の中で何回かレーザーの照射を行うことでドットの濃淡を表現するという独自の描画方式を採用した。「レーザー照射の回数でパターンを変化させ、階調を作り出している。理論的には128階調が表現可能。ドットの大きさは0.1ミリなので、プリンタとしての解像度は約250dpiとなる」(近藤氏)。


DiscT@2では、1/10ミリ幅のドットへのレーザー照射で128階調を実現

 ドットパターンを生成するためのレーザーは、通常の記録に使うものを流用しており、描画のための新たな部品は追加されていない。そのため、DiscT@2機能を付加したことによるコストアップがないのも特徴だ。

 描画された部分は、他のCD-Rドライブではブランクにみえるため、DiscT@2では描画の前に必ずファイナライズを行って追記ができないようにしている。描画自体はファイナライズの有無に関係なく行えるため、ライティングに失敗した“焼き損じディスク”をキャンバス代わりにすることも可能だ。「当社のデザイナーは、DiscT@2によってCD-Rという数十円ほどの画材が新しくできたといっている(笑)」(近藤氏)。

 書き込み用のアプリケーションは、CD-Rライティングソフト「Nero」にDiscT@2機能を付加した特別版がバンドルされている。JPEGやPNGなどさまざまな画像データをビットマップの座標データに変換。プリンタのように並行にヘッドが動いて描画していくわけではないため、ビットマップをディスクの円周方向に合わせてさらにデータ変換する。これに階調データを付加したものをCD-Rドライブのバッファメモリに蓄積し、専用LSIでパルス変換してレーザーで焼いていくというのが、描画までの流れだ。


描画までの流れ

 近藤氏はインタビューにあたって、ZDNetのページ画面をDiscT@2でCD-Rに焼いてきてくれた。「今回はスクリーンコピーを貼っただけなので72dpi程度となっているが、ホームページの雰囲気は出ている。もっと解像度を上げれば、文字を読むことも可能」(近藤氏)。


DiscT@2でCD-Rに焼いたZDNetのページ画面

CD-R/RWの高品位書き込み技術が可能にした“タトゥ”機能

 このように細かな描画ができるDiscT@2が可能となった背景には、同社のCD-R/RWの高品位化技術がある。

 6月に発表したDiscT@2機能搭載のCRW-F1シリーズは、ディスク記録の書き始め(内周部分)から書き込み終了(外周部分)まで、ディスクの回転数を完全に一定に保つ記録方式「FULL CAV」を採用している。そしてDiscT@2は、データ記録に使うレーザーのパワー制御やディスクの回転、ピックアップなどFULL CAV記録方式が持つ高い書き込み制御技術を用いることで実現した。

 「他社の高速ドライブでは、外周の高速回転部分の記録でエラーレートが高くなる。このようなドライブで作成したディスクは、初めは読めても、光や温度/湿度による経年変化で、リードエラーが発生する確率が高い。FULL CAVは、記録品位に影響を与える回転変動が無いので、データの長期保存に適している。そして、高い書き込み制御技術が必要だったDiscT@機能は、ドライブの“高品位の証し”でもある」(近藤氏)。

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[西坂真人, ITmedia]

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