News 2002年9月11日 08:35 PM 更新

明かされたBaniasの秘密――そのシステムプラットフォーム

モバイル専用プロセッサ「Banias」の1つの特徴は、プロセッサ単体だけではなく、他のハードを含めたプラットフォームとして考え、PCのモビリティをより高めようとしていることだ

 開催中のIntel Developer Forumで、モバイル専用プロセッサ「Banias」のベールがはがされた。もちろん、まだ明らかになっていない部分も少なくはないが、これまでは全体像までもがひた隠しにされてきたため、そのディテールについての説明だけでも相当な情報量がある。

 そこでBaniasに関する情報を、そのプラットフォーム全体とプロセッサ単体に分けてお伝えすることにしたい。まずはBaniasベースのシステムプラットフォームについてである。

すべてのモバイルニーズへ対応する

 Intel Mobile Platforms Group副社長のAnand Chandrasekher氏が、Baniasについて最も強調しているのは、Baniasがモバイルユースで求められる4つのベクトルすべてに対して、プラットフォーム全体でより良い答えを導こうとしている点である。


Samsung製のBanias搭載薄型2スピンドル機を掲げるAnand Chandrasekher氏

 Intelの言うモバイルユースで求められる4つのベクトルとは、パフォーマンス、バッテリ持続時間、ワイヤレスでの接続性、そして製品の形状やサイズ、重さなどのフォームファクタのこと。PCを携帯しながら常に使いたいユーザーにとって、いずれのベクトルも捨てがたいものばかりだ。

 (これは技術的ではなく、マーケティング的な言い回しだがが)Intelはそれぞれのベクトルすべてに対して何らかの回答を用意することで、Baniasを単なる省電力プロセッサとしてではなく、モバイルに最も適したプラットフォームとして見せようとしているのだ。


Baniasプラットフォーム、4つの進化ベクトル

 例えばパフォーマンスだけならば、プロセッサの改良だけでも良いだろう。省電力性もプロセッサとチップセットの組み合わせで、より進んだフィーチャーを盛り込める。しかし、ワイヤレスの接続性やフォームファクタに関しては、プロセッサ以外に考慮されるべき要素が多い。ならば、プロセッサ単体で売り込むよりも、モバイルに適したプラットフォーム全体をブランディングしていく方が得策だ。

 というのも、Baniasはバッテリ駆動時のパフォーマンスは高いが、AC駆動時の絶対的なパフォーマンスでは若干劣り、クロック周波数を指標に比較してしまうと、圧倒的にモバイルPentium 4-Mの方が高クロックにしやすいからだ。つまり、従来の基準(それはAC駆動時のパフォーマンス軸ばかりが強調され過ぎていた)で評価すると、Baniasは既存アーキテクチャに勝つことができない。

 小型軽量であることがステータスになりえる日本市場は、省電力というプロセッサの特徴だけでも押し通すことが可能かもしれない。しかし、ワールドワイドでBaniasのマーケティングを進めるにあたっては、評価を行うメディアや、実際に製品を購入するバイヤーの意識改革をしなければ正当な評価を得ることが難しい。おそらくBaniasを企業向けにフォーカスしている理由の一部には、企業ユーザーの方が説得する先を絞り込みやすく、意識改革を起こしやすいことがあるのではないか。

 繰り返しになるがバッテリ利用時にハイパフォーマンスなBaniasも、AC駆動時にはPentium 4に適わないのである。だからこそ、徹底的にモビリティにこだわる。

Baniasプラットフォームの構成要素

 ではBaniasプラットフォーム(Intelは前述した戦略を達成するため、Baniasを中心としたモビリティを高めるためのプラットフォームとして話すとき、「Baniasプラットフォーム」と表現。プロセッサ単体を意図して指し示す場合の「Baniasプロセッサ」と区別している)は、どのような構成になっているのだろう。

 Baniasプラットフォーム向けに投入されるハードウェアは、チップセットのOdemおよびMontara-GM、デュアルバンド無線LANチップのCalaxicoである。これらに加えて、個人認証やVPN、ローミングなどにプラットフォームとして取り組むため、それぞれのトップベンダーと手を組み、Baniasプラットフォーム向けのソリューションとして提供する。Baniasプラットフォームのユニークさは、ハードウェアだけでなくソフトウェアとの組み合わせにまで手を広げているところにも見られる。ハードウェアやソフトウェア、ソリューションサービスなどで区切るのではなく、モビリティというキーワードでトータルの価値を提供するという考え方があるからだ。


Baniasプラットフォームの構成要素


モビリティをキーワードに機能の統合範囲を拡大。プラットフォーム全体でモビリティを高める

 Baniasプラットフォームの最小構成は、Baniasプロセッサと対応チップセットの組み合わせである。Odem、Montara-GMともにBaniasと密接に関係しながら省電力を実現し(たとえばBaniasではプロセッサバスの速度が動的に変化する)、チップセット自身の省電力性も高めてある。OdemとMontara-GMの違いは内蔵グラフィックで、Odemには内蔵グラフィックスが提供されない(ただし提供時期はOdemの方が早い)。

 これまでのIntelシステムでは、プロセッサとチップセットまでの互換保証しか行われていなかったが、Baniasではさらにその枠を広げて相互運用性のテストを行い、高い互換性をPCベンダーに提供する。

 無線LANソリューションが必要なPCベンダーに対しては、Calaxicoが用意され、さらに必要ならばBluetoothや個人認証のソリューション、Calaxicoとの互換性が保証された無線LANアクセスポイントなどもある。

 そのCalaxicoは5.2GHz帯の802.11aと2.4GHz帯の802.11bの両方をサポートする無線LANチップ。一番の特徴は、接続可能なアクセスポイントを両方の帯域で探し、最も適した接続を自動的に選択できるところにある。

 また無線LANアクセスポイントが見つからない場合、自動的に無線LANクライアントのハードウェアをスリープさせる機能(専用のソフトウェア――それもBaniasプラットフォームの一部だが――で行われる)もある。このため無線LANのオン/オフをユーザーは全く意識せず、バッテリ駆動時間も犠牲にしないことが可能になった。

方針の転換――すばらしい決断

 Baniasの戦略は、ノートPCをカバンに入れて持ち歩き、場所や時間にとらわれずにPCを利用したい人々にとって歓迎すべきものだ。ここ数年、Intelはユーザーの利用形態に注目し、それに対する製品の構成要素を提供するというやり方を踏襲してきた。Baniasはそれをさらに一歩推し進め、自らが提供できるさまざまな種類の技術や製品を同じテーマ(ここではモビリティ)の元に統合し、さらにそれを他社(Baniasプラットフォームではセキュリティベンダーやネットワークサービスベンダーとの協力も不可欠だった)にまで広げている。

 かつてまだ低電圧版モバイルPentium IIIも無い頃、ITmediaでIntelのエグゼクティブにインタビューを行った時、

  • クロック周波数だけに価値があるかのような戦略は間違っている
  • ノートPCにとってパフォーマンスと同じぐらいにフォームファクタが重要
  • バッテリ駆動時間や発熱を考えると省電力のプロセッサが必要。(Pentiumでは)付加価値が認めてもらえないというなら、別ブランドでマーケティングすべき

 といったことをテーマに話を聞いたことがあった。しかし、その時の答えは無惨なものだった。ワールドワイドから上がってくるニーズに、そのようなものは存在しないというのだから。当時のモバイルプロセッサに必要とされるのは、クロック周波数だけだと断言されてしまった。

 皮肉にもそのインタビューに答えてくれていたのは、現在のMobile Platforms Groupを率いているAnand Chandrasekher氏だった。しかし、あの時の全く意見が噛み合わないインタビューのことを責めようとしているのではない。あれから3年を経て、ここまで徹底してモビリティにフォーカスしたプラットフォームを提供しようとしている。Intelの決断の速さとダイナミックな方針転換を行える企業カルチャーに、敬意を払いたい。

 これから数年、モビリティ以外の用途に対してBaniasプラットフォームと同じように、ユーザーの利用モデルに特化した戦略を取った成果(たとえば家庭にあるべきデスクトップPCの姿とビジネスクライアントPCのあるべき姿は異なるものだ)が出てくれば、PC業界全体のクオリティを引き上げることにもなるだろう。

 われわれはまだBaniasの実機をテストし、実際の現場で使っているわけではない。今はまだ、Intelの用意した紙切れでその可能性を感じることしかできない。しかしBaniasプラットフォームの戦略やコンセプトに関しては、今すでに絶賛できる。願わくは、Intelが言うように、それが本当にわれわれのPCを大きく変えてしまうものであってほしい。



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[本田雅一, ITmedia]

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