News | 2002年9月13日 01:30 PM 更新 |
「ホログラフィックは、それを構成するために必要な部材が整ってきた。実現可能性も高くなってきている」。
目下注目を集めている「ホログラフィック記録再生技術」について、とある光磁気製品メーカーの技術者は、こう説明する。同技術は、数100Gバイトの大容量と、100Mbpsを超える転送スピードを実現する次世代光ディスク技術。「ページデータ」と呼ばれるデータの“塊”を用いて信号の記録/再生を行うものだ。こう言うと難しく聞こえるかもしれないが、要するに「画像」を1つの記録信号として読み/書きしていると考えてもらえばよい。
最大の特徴はページデータを用いることで1記録マークあたりの記録容量を大きくし、同時に高速化も図れる点だ。CDやDVDでは、反射率の変動したポイントを「1」、それ以外は「0」とし、“線”の長さでデータを読み書きしていた。つまり、1ビットのデータは1ビットとしてしか表現できなかったのである。
それに対し、ホログラフィック記録再生では、信号をページデータという塊にすることで、1記録マークあたりの容量を飛躍的に向上させている。前述のように、研究開発中の現段階ですら、CDやDVDと同じ12cmの円盤状のディスクに100Gバイト以上のデータを記録し、100Mbps以上と高速スピードで読み出しできるのだ。
しかし、この記録再生技術は、ある種、いわくつきの技術でもある。すでに50年近くも研究開発が行われているのに、いまだに製品化にこぎ着けていないからだ。しかしそれには仕方ない面もある。ホログラフィック記録再生を実現するために必要な「材料」が整っていなかったためだ。「以前はホログラフィックで使用するような変調を行うこともできなかったし、ディテクターに使用するCCDなどの材料がそろっていなかった」(前出の技術者)。
もっとも、こういった材料も、昔に比べると整ってきている。記録密度も「体積記録素材を使用し、垂直に記録することで上げることができる」(同)。
もう1点、ホログラフィック記録再生が現実のものとなりつつある理由として、高精度か要求され、複雑だった光学系にもメドがたってきたということがある。例えば、オプトウエアが開発した「偏光コリニアホログラフィ方式」がそうである(7月16日の記事参照)。
ホログラフィック記録再生では、信号をページデータとして読み出すために、焦点がちょっとでもずれたり、光の照射角度が異なったりすると、正しいデータを読み出すことができないばかりか、誤ったデータを読み出すことになってしまう。このため、「除振台」と呼ばれる振動を吸収するための台を使い、対処する必要があった。
しかし、オプトウエアの開発した方式では、CDやDVDで使用されているサーボ技術を応用し、これを解決している。CDやDVDの技術は年々進化し、現在では、1万回転近くで回るむき出しのメディアを読み出すことさえできる。同社の試作した評価装置では、メディアの回転数はわずか「100rpm」。これなら、メディアの“面ブレ”や振動に対処し、スポットでデータを読み出すホログラフィック記録再生でも、問題なくデータを読み出せそうだ――そう思うのは、筆者だけではないだろう。
記録密度の点から言うと、ホログラフィック記録再生では、かなりの大容量化が期待できる。というのは、ホログラフィック記録再生では、一度書き込んだ場所に重ね書きを行うことができるからだ。すでに記録されている場所の一部に新しい記録マークが重なっていても、問題は無い。逆にこれを近づけることができればできるだけ、記録密度が向上することになる。オプトウェアでは、将来的に1Tバイトまでその記録容量を引き上げる計画だ。
ブレークスルーが必要な「メディア」
機械的な部分のメドが立ちつつあるホログラフィック記録再生だが、実用化にあたって課題がないわけではない。その最たる例がメディアだ。
「ホログラフィックは、メディアの記録層に使用する材料に良いものがまだ見つかっていない。見つかったという声もあるが、実際の媒体の信頼性などは分からない。そういった意味では、(実用化には)ブレークスルーがこれから必要なのではないか……」(前出の技術者)。
ホログラフィック記録再生では、体積記録素材と呼ばれている材料を記録層に使用し、記録時に強い光を当てて、材料を変化させて「干渉縞」と呼ばれるものを作り出し、記録を行っている。現在使用されている体積記録素材は、ライトワンスメディアが「フォトポリマー」、リライタブルメディアが「フォトリフラクティブ材料」である。
しかし、リライタブルメディアで使用されるフォトリフラクティブ材料は、価格が高いだけでなく、データの安定保持などの面からも、現在のところ実用化のメドは立っていない。実際に開発が急ピッチですすんでいるのは、価格も安価なライトワンスメディアの方である。しかし、こちらも(メドがたってきているとはいえ)まだまだ課題が多い。
というのも、ホログラフィック記録再生では、光を体積記録素材に当てることで記録を行うため、メディアの記録面に光を当てると感光し、データの記録再生ができなくなってしまう可能性があるからだ。実際、オプトウェアが試作機と一緒に展示していたメディアは、感光しないようにカートリッジに収められていた。
その上、記録/再生する位置が少しずれたり、同じでも角度が異なったりすると、それだけで異なるデータになってしまう。つまりメディアの平滑度などが非常に重要になるのだ。
この他にもいくつか課題はあるが、これは技術も進歩しており、おそらくクリアできるだろう。しかし、メディアの成型や記録層に使用する材料については、今のところ根本的な解決策が見つかっていない。
特に記録に使用する材料については、少なくとも銀塩カメラで使用されているフィルムのような状態から抜け出さない限り、民生レベルでの使用は難しいのではないだろうか。くだんの技術者が言うとおり、これにはおそらく何らかのブレークスルーが必要になるだろう。
[北川達也, ITmedia]
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