News 2002年9月27日 07:48 AM 更新

北野博士、「RoboCup」への思いを語る――SGI Solution3 Fair 2002基調講演

日本SGIのプライベートカンファレンスで「RoboCup」創設者である北野博士が基調講演を行い、「2050年」に向けてのビジョンを語った

 日本SGIのプライベートカンファレンス「SGI Solution3 Fair 2002」(ソリューションキュービックフェア)で9月27日、ロボット競技大会「RoboCup」の創設者である北野宏明博士が基調講演に登場。「2050年に向かって。夢、情熱、ビジョン。」と題して講演を行ない、その中で、「人間と共存可能なヒューマノイドロボットが技術的に完成するのがだいたい50年後。ジャンボ機と同じプロセスをたどると考えると、そこから20年くらいかけて社会の中に浸透していくのではないだろうか」との見通しを語った。

 日本SGIは、公式スポンサーとしてRoboCupを支援しているほか、ビジュアライゼーション(可視化)システムを災害救助ロボットシステムに応用するなど、ロボット事業への取り組みを積極的に推進している。この日、基調講演に先立ち挨拶を行った米Silicon Graphics会長兼CEO(最高経営責任者)のRobert Bishop氏は、「SGIはいつも最先端技術をサポートしている。それが、われわれのビジョンであり、北野氏をゲストとして迎えた理由だ」と北野氏を紹介した。

 講演の題名にある「2050年」とは、ご存じの通り、北野氏が提唱する「2050年までにサッカーワールドカップの優勝チームにロボットが勝利する」というランドマークプロジェクトのものだ。そしてRoboCupは、50年後の“夢”を実現するための第1歩である。「ランドマークプロジェクトの意義は、それを達成するまでの過程において発生するであろう“副産物”にある。ロボットにサッカーをさせることにおそらく経済的価値はないかもしれないが、アポロ計画でアメリカの航空宇宙産業が発達したように、RoboCupから生れるリアルタイムインタラクションや分散協調型システムといったテクノロジーは、ロボット産業の育成に大いに役立つはずだ」(北野氏)。

 今年6月に行われた「RoboCup-2002」は大盛況のうちに幕を閉じた。回を重ねるごとに規模が大きくなり、知名度が向上しているRoboCupだが、北野氏は参加チームの技術レベルについて「かなり速いペースで成長している」と評価する。

 「1997年よりスタートしたRoboCupだが、最初はいろいろと困難もあった。“ロボットがサッカーをする”と宣伝したものだから、第1回大会には世界各国のメディアが集まった。ところが、ロボットはほとんど動かない。2回目も似たような状況だった。だが、先日の福岡・釜山大会に出場したロボットたちは、非常にレベルが上がっていた。例えばAIBOリーグでは、人間が操作するAIBOは、もはや自律的に動くAIBOに勝つことはできなくなっている。動きが速くて操作が追い付かないのだ。小型リーグについては、もっとコートを広くしてマシンの数を増やす方向で検討されている。たった5年で、ここまで到達することができた。テクノロジーはどんどん進歩している」(北野氏)。

 また、北野氏は今後のロボット産業においては、技術と同じくらいにアプリケーションの開発が重要になると強調する。「(テクノロジーの進歩に比べ)アプリケーションの進歩は非常にスローだ。災害救助ロボットのように、ニーズが顕在化している用途もあるが、今はまだアプリケーションが“発掘”されている段階。今後、ロボットのバックエンドにハイエンドコンピューティングが入ってくれば、5年以内には、今までのロボットのコンセプトにはない新しいアプリケーションが誕生するだろう」(同氏)。


北野氏が手がけた「morph」シリーズ。講演の中では、「morph3」のムービーも公開された。「PINOは大学の研究室などで好きに触れるように作ったローエンドのロボット。市販の部品しか使っていないので、お金をかけて作ったロボットと動きが違うのは当たり前。ただ、“(PINOを見て)アイツらはあれしかできないのか”と思われるのがしゃくだからmorphにはテクノロジーをギッシリ詰め込んだ」(同氏)と意外にお茶目な北野氏

災害救助ロボットの現状と課題

 また北野氏の講演には、昨年の米国同時多発テロで被災現場となった世界貿易センタービル(WTC)において、レスキューロボットを利用して救助活動を行った南フロリダ大学のRobin Murphy教授、ならびにCenter for Robot-Assisted Search and RescueのJohn Blitch氏が登場。レスキューロボットの現状と今後の課題について語った。

 WTCの倒壊現場において、南フロリダ大学のレスキューチームは10名の遺体を発見した。「ロボットは、人間や救助犬が入れないような狭い隙間や危険な場所へ入って行くことができる。これからの災害救助活動に、ロボットは不可欠になるだろう」(Murphy教授)。


倒壊したビルの中に潜入したロボットからの映像

 また、実際の現場に出向いたことで、災害救助ロボットの課題も浮き彫りになった。「無線通信の調子が悪くなり、捜索開始からほんの数分で通信不能になってしまった。その上、ロボットから内部の画像が送られてきても、何が写っているのか分からなかったりと、すべてが順調だったわけではない」(Murphy教授)。さらに同教授によれば、「後から検証してみたところ、(救助チームの)オペレーターが純粋に救助活動を行っていたのは、全活動時間のわずか12%。残りの時間は、ロボットから送られてくる不鮮明な画像を解読していたり、他に助けを呼びに行くのに費やされていた」という。

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[中村琢磨, ITmedia]

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