News 2003年1月11日 02:36 AM 更新

ちっともスマートじゃなかった「SPOT」

ついに発表されたMicrosoftの「SPOT」だが、CES会場では賞賛よりも失望のムードが漂っている。サイズ、機能、バッテリー持続時間のどれをとっても不満が残り、現状では既存の競合製品と比べ勝るものとはいえない――というのが正直な印象だ

 昨年11月のCOMDEX/FallでBill Gates氏の基調講演の中で紹介され、International CES 2003で発表されたSPOT(Small Personal Objects Technology)。しかし、COMDEX/Fall時点で期待されたほどのインパクトを、MicrosoftはCESの会場で与えられずにいる。われわれの認識が間違っているのだろうか? Microsoft担当者の話を交えながら、SPOTについての話を追ってみたい。

パーソナライズされた情報配信は珍しい?

 SPOTのハードウェアはプログラマブルで通信機能を持つ時計である。National Semiconductorの開発したARMコア(25MHz動作)と512Kバイトメモリを統合したチップを用い、Visual Studio.NETで開発するアプリケーションを実行できる。暗号化処理もこのチップがこなすことになっている。

 SPOTで実行されるバイトコードはARMのネイティブオブジェクトで、SPOTのハードウェアに依存したものになるため、SPOTはSPOT向けに開発されたハードウェアプラットフォームでしか開発できないようだ。

 各SPOT対応製品にはFM受信機が内蔵され、FMサブキャリア信号を使って情報の配信を受けることができる。Gates氏によると情報を受信する際、パーソナライズされた(つまりその人にとって必要な)情報の配信が行われ、見たいと思うときに常に最新の状態であるところがミソだそうだ。

 しかし、パーソナライズされた情報配信サービスは珍しいものなのだろうか? 時計というフォームファクタは本当に最適なのだろうか? そう考えると、SPOTがいったい何を目標にしたものなのか、だんだんとわからなくなってくる。

 たとえばパーソナライズされた情報配信ならば、J-Phoneのステーションサービスがすでに実現している。i-modeもパーソナライズしたコンテンツサービスを展開。i-modeは欧州でもサービスインしており、米国でもm-modeが開始される見込みだ。欧州からの記者の中には「SPOTの何がいいのかさっぱりわからない。i-modeなら返信だってできる」との声も。

 MicrosoftマーケティングディレクターのRoger Gulrajani氏は「SPOTは情報を受ける一番小さな単位。時計はもっとも適したフォームファクタ。シンプルにすることが優先され、機能の拡充や双方向通信は考えていない」と話す。その割り切りは見事だ。異論を挟む余地はない。


Roger Gulrajani氏

 もっとも日本では携帯電話を時計代わりにして、腕時計をしない人も増えてきた。すでにシチズンがペンダントタイプのSPOTも開発しているが、果たしてどこまで時計というスタイルが受け入れられるだろう? 携帯電話を持たない人だろうか?


シチズンのペンダント型SPOT。ジッポー程度のきょう体を持つ

 割り切ってシンプルなハードウェアにすることは、決して悪いことではないが、シンプルにすることでユニークな特徴を持たなければ意味がない。そこにMicrosoftの明確な答えはない。

ハードウェア面での進歩も必要

 もうひとつ、非常に気になってしまったのがGulrajani氏の次の言葉だ。「SPOTには強力で低消費電力なNational Semiconductorのチップが組み込まれている。ネイティブコードで実行するため高速で、暗号化処理も行える。さらにバッテリーは3日ぐらいは充電せずに利用可能なバッテリーが内蔵されている」

 しかし時計で3日しか電池が使えないと聞いて、喜ぶ人がいるだろうか? 非常に大きな問題と感じざるをえない。時計が自然に使え、いくつもそろえてTPOで使い分ける人もいる理由は、バッテリーをほとんど気にせずにいつでも使いたいときに動いてくれるからだと思うのだが。

 SPOTのパートナーとなっているシチズン情報機器事業部係長の前田浩司氏も「正直言って3日というバッテリーライフは時計としては短すぎる。理想的には1次電池で長期間利用できるのが理想」と話す。しかし、FM受信機や高速プロセッサを持つSPOTでは、今のところ3日が限界のようだ。

 また、今回、公開された時計は、いずれも大型なダイバーウォッチぐらいのサイズがあり、厚みもかなりある。とても「いつも身につけていたい」時計には見えない。SPOTが本当にコンシューマーにプレゼンスのある製品になるためには、こうしたハードウェア面での技術革新が不可欠だろう。


SUUNTO製のSPOT。見た目ではわかりにくいが、相当大きい


シチズンの開発したSPOT試作機。もっともスマートな製品だが、それでもやはり厚ぼったさは隠せない

 もっとも当面の間、日本での発売は検討されていないようだ。Gulrajani氏との話の中でも、日本市場に関連する話はほとんどされず、進出時期に関してもノーコメント。現時点で、ワールドワイドへの展開はタイムテーブルの上にも乗っていないと思われる。

 果たしてSPOTにはどのような付加価値があるのだろうか。.NETサービスの中でという限定ならば、一番小さく身近なインフォメーションビューアであることは間違いないだろう。ただ、似たようなサービス、製品がすでに存在する中でユニークな光を放てるとは、今のところ思えないというのが正直な感想である。



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[本田雅一, ITmedia]

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