News 2003年2月13日 07:29 AM 更新

中島平太郎氏インタビュー(2)
「著作権」と「音質」――CDの生みの親が呈する苦言(1/2)

CD規格の生みの親である中島平太郎氏は、CDが今抱える大きな課題として「著作権」と「音質」の2つを挙げる。現在のアプローチは必ずしも正しい方向に向かっていないとする同氏は、何が問題で、それをどう解決すべきと考えているのだろうか

 「圧縮オーディオ自体(の音質)は、そんなに悪くない。CDに比べれば確かに悪いですが、データ速度が10分の1だということを考えれば、まあ、“そこそこ”。これが、いったんパソコンやインターネットに入ると、なんであんなに悪くなるか分からない」。

 CDが登場し、デジタルになって20年。そのCDの生みの親である中島平太郎氏(元ソニー常務・現CDs21ソリューションズ会長、略歴)が指摘するデジタル化の副作用の1つが、圧縮オーディオの“音”の問題である(インタビュー1回目)。

 デジタルになって、利便性は大幅に向上した。小型化、低価格化も進んだ。通勤や通学の途中で音楽を楽しむことはライフスタイルの1つとして定着しており、最近ではCDだけでなく、MDやMP3などの携帯用圧縮オーディオプレーヤーの人気が高い。

 しかし、音は軽視される傾向にあると、中島氏は手厳しい。「機能重視で『音は聞こえればいい、それよりメールが送れるといったほかのメリットが優先』ということになっているんではないでしょうか。圧縮技術自体は、非常にいろんな技術を使っていて、ここまで圧縮しても、(音は)これだけしか悪くならない、というふうになっている。これが守られていれば、そこそこの音になるはず。(機能優先のために)いろいろな面で、音が犠牲にされてしまったのではないでしょうか」。

音質は確実に落ちている

 せっかく良い技術を作ったのだから、「それをうまく生かしてくれればよいのに……」とも話す中島氏。

 中島氏のこの思いは、昨年の12月11日、CDs21ソリューションズの定例ミーティングで行われた講演にも現れている。同氏はこのとき、「オーディオの現状―明るい未来に向けて―」と題した話をされている。そのときのエピソードを笑いながらこう紹介してくれた。

 「(タイトルに)『オーディオの現状―明るい未来に向けて―』とありますが、最初は『夢は遠のく』だった。そうしたら、建設的ではないよということになって、書き直したんです。“圧縮オーディオの盛況”とある部分も、そこそこの音質だけど、機能優先で“音軽視”、と書いたのですが、やっぱりそれも建設的でない、『かつ重視』と書いてくれと言われました(笑)」。

 「デジタルというのは、“音が聞えるよ”(というレベルのもの)ということになると困るんです。やっぱり、“そこそこいい音”でないと。それが、どうもネットの便利さ、パソコンの便利さというもののために、音が今ひとつ軽視されている。設計者がもっと頑張って、それを軽視しないものにしてくれると、もっといい音で、しかも、いい機能で聞けると思うんです」(中島氏)。

 こと音質という面でいうと、音楽CD自体の音質も、一時期に比べて落ちているのではないかという声が多い。中島氏は、それも心配されている様子。

 「CDは一時期よりも音が落ちています。それは落ちてますよ。最初のころの感動がその後、お座なりになっているのではないか」(中島氏)。

 「僕らが82年10月に『CDP-101』で出した音は、今でも聞いてみるとかなりいい音がしているような気がしています。今のやつは、“デジタルだから”“CDだから”といって段々段々、ここを削り、あそこを削って、となっている。CD自体、もうちょっと頑張っていい音にしてくれると、楽しみが増えると思うんです」。

著作権問題――悪いのは「CD-R」ではない

 中島氏がデジタルの副作用としてもう1つ挙げるのが“著作権”に関する問題。レコード業界からは現在、ネットオーディオとCD-Rが、違法コピーを生む“諸悪の根源”と言われており、PC上での複製を不可能にするコピーコントロールCDまで登場した。

 しかし、中島氏は「それは違う。CD-Rの功績は大きい」と異を唱える。

 「ほんとはね。CD-Rだっていいメディアなんです。日本レコード協会は、さかんにネットオーディオとCD-Rは悪の根源だというようなことを言われますけど、そうではない」(中島氏)。

 同氏は、CD-RとCD-ROMは、2つの歯車のように発展してきたという。「悪い方にばっかりとっていかれるのですが、あれ(CD-R)がなかったら、CD-ROMは発展していません。CD-Rは今、年間70億枚、トータル300億枚ぐらいになったのですが、こんなに増えたのは、CD-ROMがあったからですし、CD-ROM自体も70億枚ぐらいある。それもCD-Rがあったからだと思います」。

 「そういったCD-Rの“功績”を、誰も言ってくれない。だから、私は盛んに言っているんです(笑)」。

 加えて、中島氏は、CDの売り上げが低下していることを、CD-Rやネットオーディオが悪いと決め付けるのはおかしい、メーカーの努力が足りないのでは、と切って捨てる。

[北川達也, ITmedia]

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