News 2003年2月13日 07:36 AM 更新

中島平太郎氏インタビュー(2)
「著作権」と「音質」――CDの生みの親が呈する苦言(2/2)


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 「CDの売り上げが5%ずつ毎年下がっていくなんていうのは、ソフトウェアもハードウェアもなにをやっとるんだと思うんですよね。両方とも努力が足りません」(同氏)。

 90年代後半、CDが爆発的に売れた時期があった。たくさんの大ヒット曲が生まれ、販売枚数が100万枚の超える音楽CDも続出した。しかし、中島氏は、その時に、先を見据えて努力する必要があったはずと指摘する。

 「今頃になってあわててもだめですよ。CDだけでそんなに長持ちする訳がない。(CDだって)12センチあり、8センチあり、いろんなメディアあり。そのバラエティを今後も持っていかなきゃ」。

 最近では12センチのマキシシングルが増えているが、「それも、12センチで作ったほうが楽でいいから。それじゃ、発展しません。ワンパターンではだめですよ。必ずどこかで破綻します。やっぱり、マルチパターンで行かなければ。そのためには、努力をして、頭をちゃんとひねらなければいけませんよ」(中島氏)。

 中島氏は、そういった現状の打破のためにも、CD-Rをもっとうまく使えばいいのではないか主張とする。「CD-Rは、悪い面ばかりが強調されているんですけどね。諸悪の根源なんて言わないで、もっとうまく使ったらいい。ソフト側とハード側が一緒になって、別の角度から使う方法を考えたらいいじゃないかと僕は思うんです」(中島氏)。

 「何に使うかというと、それはいろいろ。コピーを減らすということなら『セキュアCD』を導入するとか。ただし、今のCDにスクランブルをかけて、聞えなくするだけでは、僕はだめだと思う。同じものにスクランブルかけたら、やっぱり、値段は下げなきゃ。そうでなくてはユーザーメリットはありません」(中島氏)。

 スクランブルをかけたりするのだったら、同時にユーザーメリットとして「新しい試みがあってもいいじゃないか」とも中島氏は指摘する。

 一例として同氏が挙げたのは、「プリペイドディスク」である。「例えば、3曲まではディスクに書き込める。その3曲は、もちろん、ユーザーが好きなものを選べる。ただし、3曲分の金額はいただきますよ、といった仕組み。ちょうどプリペイドカードと同じようなものですが、そういったものがあってもいいんじゃないか。実は、CDs21の会長としては、このプリペイドディスクをやりたくてしょうがないんですよ」。

 もう1点。中島氏は、12月6日の『音の日』の有効活用をあげた。「バレンタインデーというのがありますが、あれはチョコレートを配ったりしています。12月6日は、エジソンが最初に記録再生をやった日で、その日を『音の日』にしています。その音の日には、小さなCDを恋人同士で配るようなシステムでも作れれば、それでも売れるのではないか」。

早く新しいセキュアCDを出すべきだ

 「1回目の書き込みはいいけど2回目はだめとか、パソコンでかからないようなCDを出すとか、ネットではかかるけどプレーヤーではかからないとか、最近ではいろんなことがあります。しかし、CDプレーヤーは累計12億台。CD-ROMドライブは14億台、現在存在しています。それで再生できないようなものを出したら、僕はだめだと思うんです」。

 現在の音楽流通を取り巻く状況についてこう分析する中島氏。これには、同氏がCD-R規格の策定時にこだわった「CDコンパチブル」の思想がうかがえる。そして、例外があるような、そんなメディアは長続きしないという思いが強く感じられる。

 「CD-Rでも(反射率が)70%ないと再生できない人が出る。今のコピーコントロールCDは、1枚ぐらい、かからないのがあってもいいじゃないかという思想がだめだと僕は思う。(CD-Rは)65%の反射率でも、(多くのドライブで)かかるんですが、それはだめだと。それは、今でも同じ。コピーコントロールCDで怖いのは“かからないこと”。やっぱり、(すべてのドライブで)かかるようなメディアじゃなければ、長続きしないですよ」。

 現在、少しずつだが業界で問題視されつつあることがある。それは、「コピーコントロールCDだから」という理由で、CDを買わない人たちが出てくることだ。再生できない可能性があるから、ユーザーは不安になる。だから買わない。

 中島氏が指摘する点は、まさにそれに通じるもの。デジタルになって20年。せっかく手軽に音楽を楽しむことができるような時代になったのに、下手をするとそれが根底から覆されるかもしれない。そんな怖さが、コピーコントロールCDにはある。

 それゆえ、中島氏は、CDs21ソリューションズの会長としてこう苦言を呈す。「だから、早くきちんとしたものを作ってほしいんだ。どこというのではなしに。それは時間との勝負。早く作るべきだと僕は思う。(その際には)やっぱり、例外を作ってはいかんですよ。これならかかるけど、これはかからないよ、というようなものは、本命じゃない」。

 中島氏は、CD規格を作ったソニーとフィリップスがやってくれるのが、できれば一番とも話す。「CDで苦労したのはソニーとフィリップス。だから、その両者が、何らかの格好で、今までのやつとコンパチあるセキュアCDを出すことだと思うんです。そうするのが、ユーザーも一番喜ぶと思う。そのかわり、ユーザー、ハードメーカー、ソフトメーカーそれぞれのメリットをどうするということを、そのセキュアCDでよく考える必要がある」。

 「せっかく、CDで20年。ここまで培ってきたインフラをそのまま使いたい。その上で、なおかつ、新しいソフトウェアも喜べば、ハードウェアも喜ぶ、ユーザーも喜ぶようなシステムを早く作らねばならない」(中島氏)。

高品質なものを伸ばす。それが次の20年の鍵になる

 「きちんとしたスピードできちんとしたものを書けるようなものを作るとか。オーディオ用は何倍速までで、どういう品質を保証したCD-Rを使うとか。CD-Rの量を追うだけではなく、今度は質をある程度考えてもいいじゃないかと思う。そういうことによって、CD-Rをうまく使えば、CDはきちんとした格好であと20年はいけますよ」。

 CD-Rの今後についてこう話す中島氏。CD-Rは現在、ドライブもメディアも低価格化と高速化の弊害で品質が悪くなりがち。中島氏は、この点も気にかかっている様子だ。

 そこで、同氏の提案するのが、2極分化である。「メカとメディア両方とも、普及品と高級品の両方をやっていかないといけませんね。そうしないと(年間出荷枚数)100億枚になりませんよ。市場も成熟化したので、メディアもライターも2極分化させ、それでやっぱり100億枚を突破するというのが1つの大きな目標だと思います」。

 だから中島氏は、「より音がいいメディアがほしい。そこはぜったいそこはやらなければだめです。40倍速なんて、そんなのどうでもいいです。やっぱり、音がいいメディアは、絶対作らねばならない。ドライブについても同じです。全く同じです。900Eの後継を作るべき」と力が入る。

 ただ、「(単純に)900Eの後継と言い切ってしまうと若干の語弊があるかもしれませんね」と中島氏。同氏がいうCD-W900Eは、当時130万円。それを考えるとさすがに購入できる人は限られてしまうからだ。それでもCD-W900Eぐらい品質のよいドライブを作ってほしいという思いだけは確か。「せっかくCDs21の中には、ドライブメーカーさんも入っているわけで、そこでやっぱり、倍速を下げてもいいメカを作ってもらわないといけないですね」(中島氏)。

 メディアも同様。現在では1枚8000円というリコーの業務用メディアがもっとも高品質とされるが、やはり一般ユーザーが購入するには高すぎる。

 「リコーさんに1枚8000円のメディアがありますが、それは一桁違いますよ。せいぜい500円ぐらいなもので、やっぱり、本当なら200、300円ですよね。それなら、50円で10枚買うよりも、200円で2、3枚かって大事に育てるということだってありえると僕は思うんですよね」(中島氏)。

 「いいオーディオ、いいデータの記録媒体として、信頼性の高いものと普及品とをぜひ2極分化して両方やっていきたい。将来に渡って栄えていくには、2極分化の“上の方”をどれだけ広げられるかにかかっている」(中島氏)。

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[北川達也, ITmedia]

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