News 2003年2月28日 06:10 PM 更新

私は、サイボーグ

コンピュータに関わるインタフェース技術全般をテーマとした「インタラクション2003」が27日から28日まで東京で開催された。その招待講演に登場したのが英国のKevin Warwick教授。自らの左腕にチップを埋め込み、センサーと神経をつないで義手を操作するという実験で知られる気鋭のサイバネティックス研究者だ

 スティーブ・オースチン。宇宙飛行士。命だけは取り留めた男。右腕、両足を切断。片目を失う。だが、NASAのメディカルスタッフによる人体改造手術。サイボーグとなる。左目はテレスコープ。右腕は銃を曲げコンクリートを砕くアトミックパワー。そして時速100キロでつっ走る。600万ドルの男、サイボーグ――。

 フルに引用してしまったが、懐かしのテレビドラマ『600万ドルの男』の放送から30年以上。社団法人情報処理学会のヒューマンインタフェース研究会、グループウェア研究会主催によるシンポジウム「インタラクション2003」に、「50万ドルの男」がやってきた。その名を、Kevin Warwick。英国レディング大学教授で、サイバネティックス研究で世界的に知られる男である。

50万ドルの男、サイボーグ

 1997年に始まった「インタラクション」は、年々好評を博し、2002年には322名、2003年の今年は400名以上の参加者を迎えた。

 その冒頭の招待講演に登場したのが、Kevin Warwick教授である。演題も「I, Cyborg : A Bi-Directional Interface Between the Human Nervous System and the Internet」と、超めちゃくちゃ!

 ちょうど、タモリ+稲垣吾郎によるテレビ番組『未来予測TV』(フジテレビ)に登場したばかりのKevin Warwick教授は、堂々たる風格で聴衆を圧倒した。


英国レディング大学のKevin Warwick教授


I,Cyborg

 タイトルを簡単に翻訳すれば、「わたしはサイボーグ。人間の神経システムとインターネットをつなぐインタフェース」というような感じだろうか。なんとこの教授、1998年に自分の左手に人体改造手術を施し、シリコンチップ(RFIDタグ)を埋め込み、センサーを神経につなぐという実験を行ったことで、全世界的に話題となっているのであった。

 1999年と2000年には、人工知能の研究で、ギネスブックにも登録されているという。


教授が1998年に左腕に埋め込んだチップ

ロボット義手をコントロール

 よどみない口調で、Warwick教授は、サイボーグ手術後の実験について語る。研究のバックグラウンドが、ロボット工学や認知科学であるため、神経につないだチップを通して、ロボット製の義手をコントロールし、車いすを自由自在に操ってみせるのであった。


チップを使って義手をコントロールする

 単独のインタビューに答えてWarwick教授は「これは、医療に役立ち、人助けのために行ったのだ」と答えてくれた。確かに、人工の義手が神経繊維に融合して動くようになれば、その義手は手と同じように役立つ可能性がある。指先だけを動かして車いすをコントロールすることも、人手を借りないという点で、車いす使用者の可能性を広めることができるだろう。


チップを使って車いすをコントロールする

 神経と接続された義手。そのイメージは、平井和正の『死霊狩り』に出てきた。宇宙生命体ゾンビーと戦うために戦闘訓練を受けた主人公の田村俊夫が、訓練の最中に左手を失うのである。

 ベッドをはなれられるまでに回復した俊夫に、義手と義眼が与えられた。ふたつとも信じがたいほど精巧なメカニズムを秘めた代物であった。筋電流を利用し、人工筋肉を備えた義手は、内蔵した超小型の電源で動く。外見は、ほんものの人間の腕と、色艶といい質感といい見分けがつかぬほどである。体毛はもちろん、手の甲には静脈まで透けて見える。特殊ラバーの皮膚の下には、人工電子神経が埋め込まれてい、接触感覚が生ずるようになっていた。

 整形外科医が、切断端の筋肉と神経を電子義手のそれに丹念に接合した。完全に適応すれば、デリケートな精密作業も可能だし、携帯用の水素電池を用いれば、数十馬力の出力が得られるということであった。義手は強大な武器としても役立つように設計されていたのだ。

 この田村俊夫の与えられた義手。それをWarwick教授は作ろうとしているのだ。しかも、手に合わせて動くロボットハンドは、まさに田村俊夫の義手そのもの。すごい世界だ。

意識を超えた世界を知る

 それだけではない。

 『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』(紀伊國屋書店)でトール・ノーレットランダーシュが書くように、「私たちは、外の世界を生のデータとしては経験しない。意識が外界を経験するはるか以前に、感覚情報は無意識のうちに処分され、物事の解釈がすんでしまっている」のである。つまり、実際の世界は人間が目で見て、脳で解釈している「世界」よりも、ずっと情報に満ちている、と考えられる。

 Warwick教授は「人間は世界を知る(sencing)には、あまりにも能力が限られている」という。外界を言葉を通して認識する、あるいは脳で起こった化学的な信号を言葉に変換して伝え、理解する、ということは、オリジナルの信号を言葉に変換するので遅くなるし、忠実度も低くなる。

 実際、目を閉じていても、手をかざせば、かざした手にはいろいろな情報が入ってくるのだという。脳が解析できていないだけで、そこには確実に情報がある。オカルトの話ではない。現実に、である。

 そこで、脳信号を信号のままの豊富な情報でやりとりすることができれば、あたかもテレパシーのような、豊穣なコミュニケーションさえ可能になるのではないか、とWarwick教授は考えた。直接脳信号をやりとりするコミュニケーション! それをめざすのだ。

 そして、これも実際に実現したのだ、という。

 なんと、Warwick夫人も同様の手術をし、お互いにチップを埋め込み、それを使ってコミュニケーションをする、という実験さえ行ったのだ。

 すごい。

 すごすぎる。

 母国イギリスでは、子供の誘拐事件に備えるため、子供にチップを埋め込むことを提言したとかで、急進的な研究者と考えられているというが、そんなことを間引いても、この一途さがすごい。

 なんにしてもやってみなければわからないものであって、その好奇心こそが研究を進めていくのである。

 ど迫力に圧倒された。

 ちなみに、この手術の総費用が50万ドルなのだという……。


実践する研究者といえば、大阪大学の塚本昌彦助教授である。最近は、よりスマートなウェアラブルディスプレイを手に入れたとかで、Kevin Warwick教授とのツーショットを撮らせていただいた


塚本助教授のウェアラブルディスプレイを試してごきげんなWarwick教授。日英の研究者同士の交流は、けっこう火花が飛んでいた



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関連リンク
▼ kevinwarwick.org

[美崎薫, ITmedia]

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