News 2003年3月7日 00:07 AM 更新

ソニーのインクジェットプリンタ、その中身は?

ようやく公開されたソニー製インクジェットプリンタの基幹技術。同社が狙ったのは品質と速度の両立だった。だが、価格など課題もまだ多い

 参入を発表からすでに1年9カ月。沈黙していたソニー製インクジェットプリンタの基幹技術がようやく公開された。


ソニー e-プリントカンパニープレジデント 江口武夫氏

2枚の横並びヒーターで可能になった「LD Shot」

 最後発インクジェットプリンタベンダーとして、ソニーが活路を求めたのは「印刷スピード」だった。

 現在のインクジェットプリンタで採用されているシリアルヘッド方式はヘッドを移動させて印刷するのに加え、不良ノズルによって発生する印刷ムラを解消するために「重ね塗り」を行うなど、高い印刷品質を実現するために、この数年は印刷速度が低下している。

 ヘッドの移動による印刷時間を削減するためには、1ライン分の印刷を一括してできる「ラインヘッド」方式が適しているが、従来のインク吐出方向が固定されたヘッドでは重ね塗りが出来ないため、「筋ムラ」「ライン抜け」といった印刷ムラが発生しやすく、写真画質は不可能とされてきた。


1997年あたりから印刷速度が低下してきている。ちょうどこのあたりからエプソン、キヤノンがライトカラーの6色印刷を始めている

 ソニーは、ラインヘッドでも重ね塗りを実現することで、印刷ムラを回避するアプローチから開発を進めた。インクジェットのヘッドに昇華型プリンタで培ったノウハウが生かせる「サーマルヘッド方式」を採用。気泡発生用のヒーターを2枚並べてそれぞれを制御することで、インク吐出角度の精密な制御に成功したのである。このヒーターを2枚使ったサーマルヘッド方式によるインク吐出が「LD Shot」技術なのだ。


LD Shotでは、2枚のヒーターの温度を個別にコントロールし、発生気泡の膨張形態を変化させて、インクの吐出方向を制御する


ソニーで行った、サーマルヘッドの制御電流を変化させた場合のインクの着弾位置の偏移状況。このように制御電流の変化量に合わせてインクの方向が変化している

このままでは高価格は避けられない

 今回明らかにされたのは、インクの吐出技術だけで、ソニー製インクジェットプリンタの製品化にはまだまだ難問が待ち構えている。

 まず、インクジェットプリンタの印刷品質を支える専用用紙とインク。「ソニーは自らの手でゼロから開発している」(e-プリントカンパニー プリンタ第2部統括部長 中村正人氏)。

 ヘッドノズルがオリジナルなので、自社開発は当然なのだが、実はこれらの開発もインクや紙の経年変化や浸透特性、耐候性など、ノウハウの蓄積がないと「いいものが作れない」世界だ。ただし、試作機の印刷品質は既存インクジェットプリンタと比べても遜色のないレベルといってもいい(試作機なので、筋ムラが完全になくなってはいないが)。

 もう一つの問題は、製品価格の問題である。ラインヘッドという性格上、実装させるノズルの数は膨大になり、それがダイレクトに価格に跳ね返ってくる。現状では「現行インクジェットプリンタの10倍は下らない」(中村氏)と見ているらしい。となると、50万円程度として、当然対象は企業ユーザーだ。

 企業ユーザーはスピードを求めている。だが、価格的に競合するカラーレーザープリンタと比べ、カラー印刷は綺麗だが「ラインヘッドではカラーもモノクロも印刷速度は同じ」(中村氏)。これでは、カラーレーザープリンタとの競争は難しいとソニーも考えている。

 さらに、先ほどの価格見込みは今回の試作機であるA4サイズ対応4色インク方式機でのもの。A3といったより大きなサイズへの対応や、搭載インクの色数が増えると、その分ヘッドサイズも大きくなるので、既存プリンタ以上にコスト上昇の幅が大きくなる。


印刷速度をアピールするデモンストレーション。「既存で最速のインクジェットプリンタ」に印刷コマンドをかけた1分後に、印刷コマンドをかけながらも、相手が1枚印刷する間に7枚も印刷する余裕見せたソニー製試作インクジェットプリンタ。ただし想定価格も既存プリンタを余裕で上回るようだ

 「現時点はラインヘッド方式に見通しがついただけで、あとはまだこれから」(江口氏)というのが、ソニー製インクジェットプリンタ開発の現状。ただし、少なくともコンシューマ市場で個人ユーザーが購入できる可能性は限りなく低いというのは見えてきたようだ。

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[長浜和也, ITmedia]

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