News 2003年3月7日 04:18 AM 更新

求めたのは「ずっと触っていたいもの」――Microsoftエルゴノミクスデザインの秘密(2/2)


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 McLoone氏が「Trackball Explorer」の「快適性」として求めた条件は、「触っていて気持ちいいもの」。このリサーチのために彼は20人のスタッフに「君がずっと触っていたいものを持ってきてくれたまえ」とお願いした。

 翌日スタッフが持ってきたもので一番多かったのが「球体」、ついで「複雑な形態をしたもの」であったらしい。この一見相反する条件から求めた結論が、Trackball Explorerの「大きなボール」と初代トラックボールと一線を画した「複雑な形状のきょう体」だったわけだ。


McLoone氏に頼まれたスタッフが持ってきたもの。「とがって複雑なもの」とはファンタジーに出てくる道具のようなもの。このとき「持ってきてはいけないもの」として指定されていたのが「武器、ペット、体の一部」

大事なのは「メカニカルでもメンブレンでもない」

 入力デバイス、とくにキーボードとなると必ず出てくるのが「メカニカル」「メンブレン」という言葉だが、McLeen氏によれば、それよりも大事なのは「はっきりとした手応え、はっきりとしたスナッチ感、はっきりとしたタッチ感、そして耳障りな高い音のクリック音がない」ことになる。ただし、はっきりとした感触とはいえ「ハード過ぎずソフト過ぎず」というバランスが重要になるらしい。


これもキーストロークの話になるとよく出てくる、キー入力時のストローク時系列変化グラフ(McLoone氏その場即興手書き作図)。横軸は時間、縦軸はキーからの反発力。McLoone氏が考える第1ピーク時の強さは50〜80グラム

 また、ユーザーの間でこれも議論になるマウスホイールの「スムーズ回転」「刻み回転」。初期のMicrosoftのマウスホイールで見られた強い刻み回転は、「もともとの目的がズーム変化用ホイールだったので刻み回転にしていたが、徐々に利用されるのがスクロールにシフトしてきたので、それに適するように刻みの抵抗を減らし、スムーズ回転に近づけている」(McLoone氏)。つまり彼は「スクロール操作に向いているのはスムーズ回転である」と考えているようだ。

 トラックボールでよく話題になる「なぜ、Trackball Opticalではボールの位置が横になったのか」についての彼の回答は「最初、ポインティング操作は器用に動く人差し指が向いていると考えていたが、『親指のほうがうまく動かせる』と主張するユーザーも少なからずいるので、ラインアップとして用意した」だった。どちらが正しいということではなく、これは完全に個人の好みの問題であり、その両方の好みに対応しているわけだ。

未だ模索のキー入力とポインティング環境の統合

 いま、彼が取り組んでいるのはキー入力とポインティングオペレーションの統合と改善である。キーボードへのアプリケーションキーの実装は、キーボードだけで操作できる環境の構築だし、Windowsキーの存在意義も「マウスを使わずにアプリケーションにアクセスできるベストな方法」(McLoone氏)にある(ちなみにコンテキストメニューキーについては、彼もほとんど使っているケースを見ていないと述べた。ただし、同時に彼は、障害者などのマウスを使えない環境でサブクリックを実現するときに必要であると主張している)。

 Microsoft オフィス キーボードはこの問題に対するMcLoone氏が考える1つの回答だ。右手にマウス、左手でホイールと機能ボタンを操作すれば「オフィスアプリで使用頻度の高いTop10の動作は行える」(McLoone氏)

 われわれがキー入力とポインティング操作を統合するソリューションとして思い付くのは、ノートPCで使われているタッチパッドであったり、スティックデバイスであったりする。しかし、McLoone氏はこれらのデバイスを、「操作が遅く非効率である」と評価している。

 ならば、それに代わるキー入力とポインティング操作の統合環境として、彼は何を考えているのだろうか。

 先週開催された「リサーチディ」(Microsoft開発陣が技術的問題に関する討論を行うセッション)でも、ポインティングオペレーションに関する討議が行われているが、まだまだ模索中の段階らしい。キーボードとマウスという入力環境が、音声認識やペン入力という方式とどのように融合、もしくは置き換えられていくのか。McLoone氏に見えている入力環境の人間工学的将来像はこれからも変化しつづけていくようだ。

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[長浜和也, ITmedia]

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