News 2003年5月24日 00:53 AM 更新

“地上デジタル放送”から“丸められる有機EL”まで――NHK技研が見せた最新技術

NHK放送技術研究所(技研)で、恒例の一般公開が行われている。今年12月からスタートする地上デジタル放送や、“薄くて軽くて丸められる”超薄型TVを可能にする「燐光性高分子有機EL」など、見どころが多い

 東京の世田谷区砧にある「NHK放送技術研究所」(技研)で、毎年恒例の一般公開「技研公開」が5月22‐25日まで行われている。57回目を迎える今回の技研公開は、一般公開の会期を例年より1日多くした。今年は2月にテレビ放送開始50年を迎え、さらに12月にはいよいよ地上デジタル放送がスタートするなど、放送業界にとって節目の年だからだ。


 今回のテーマは「テレビ50年、地上デジタル放送、そして未来へ」。TV放送の発展を振り返りながら、年末からスタートする次世代のTV放送「地上デジタル放送」を紹介し、さらにその先の“未来の放送”を実現するための先端技術の研究成果などが展示された。


放送関係者から近所のおじいちゃん・おばあちゃんまで、幅広いユーザーが訪れている。(実は来場者の半数以上が一般のシニアやシルバー層。もともと技研公開には近隣住民との親睦を深めるという側面があり、砧近辺では年中行事の1つになっている)

いよいよ始まる地上デジタル放送

 注目はなんといっても「地上デジタル放送」だ。今年12月に東京・大阪・名古屋の3大都市圏からスタートするこの次世代TV放送は、国の計画では2006年末までに全国主要都市をカバーし、2011年までには現在のアナログ放送がすべて置き換わるという予定になっている。


3大都市圏の放送エリア図。放送開始直後のエリアは、どの都市でもTV塔(東京タワー/生駒山/瀬戸タワー)の周囲のみという寂しい状況。「え、これだけしか見れないの?」と、エリアの狭さに落胆する来場者も多かった

 地上デジタル放送では、ハイビジョンを中心とした高画質・高音質な放送サービスに加え、デジタルならではのゴーストやノイズのないクリアな映像、地域密着型コンテンツなど多様なデータ放送などのほか、自動車や電車といった移動体の中での放送受信やPDA/携帯電話など携帯端末に向けた動画サービス「モバイル放送」にも期待が集まっている。


会場では、2005年の携帯型受信機のイメージとして、PDAでMPEG-4映像を再生させたり、高速移動中もキレイな画面でTV放送が楽しめる車載端末のデモなどが行われていた

地上デジタルラジオの展示も

 地上放送のデジタル化は、TVだけではない。「地上デジタルラジオ」が、TVよりも2カ月早い今年10月から東京と大阪でスタートする。地上デジタルラジオは、CD並みの高音質と、文字や画像など音声以外のコンテンツが充実。現在、地上アナログTV放送が使用しているVHF帯を使うため、アナログ放送が終了する2011年には全国展開も始まるという。


会場ではPocketPCをデジタルラジオに見立てたデモも行われていた。放送は当然されていないので、無線LAN経由で放送コンテンツを送信している


通常のラジオ番組を聴きながら、好きな時にニュースなどを文字と画像で見ることができる。文字データは音声合成によって読み上げることも可能

ユーザーの気持ちを理解――TVエージェント「たまちゃん」

 地上デジタル放送がスタートし、既存のBS/CSデジタル放送なども含めてTV放送サービスは今後どんどん広がっていく。だが、選択肢が増えるに従って受信機の操作も複雑になり、高齢者のみならず一般ユーザーもTV視聴が困難になるという悪循環が問題視されている。

 技研では、“あまねく広く”という放送原理のもと、誰もがTVをより簡単に使えるシステムとして視聴者を認識する「対話型テレビ受信システム」を開発。TVエージェント「たまちゃん」として紹介していた(「たまちゃん」の詳細は、別記事を参照)。


机に鎮座してえらそうに指差しているのが「たまちゃん」。あの国民的アイドルと同じ名前だが、その容姿はまったくの別物。セサミストリートのパペット感覚は、さすがNHK

 視聴者が自然な言葉でエージェントに要望を伝えると、エージェントが理解して視聴者の代わりにTV操作を行う。 エージェントは、話者が誰なのかを顔や声の特徴から判断し、それぞれの人に適したお勧め番組を提示することもできる。「今後は視線やジェスチャー、人がもつ知識などをデータ化し、ユーザーの要望を推論できるエージェントを開発していく予定」(技研)。

“燐光”で明るく、“フィルム基板”でフレキシブルに――有機ELディスプレイ

 放送が変われば、受信機も進化する。特に、地上デジタル放送の“売り”であるモバイル放送が普及すれば、いつでもどこでもTV放送を楽しむための軽量でコンパクトなディスプレイが必要となる。

 技研では“薄くて軽くて丸められる”という超薄型TVを実現する要素技術として「フレキシブル有機ELディスプレイ」の研究を進めている。有機ELはエレクトロニクスメーカー各社でも積極的に取り組んでいる期待の次世代ディスプレイだが、技研が開発しているのは、ZDNetでも以前取り上げた「燐光性高分子有機EL」だ。

 従来の有機ELで採用されている蛍光性材料に対して約4倍の発光効率アップが見込める燐光性材料を使っているのが特徴で、有機ELの課題の1つである発光効率を飛躍的に改善するという。


燐光性高分子有機ELを使ったディスプレイの試作機。昨年の技研公開では単色(緑)だったが、今年は多色カラー表示を行っていた


燐光性高分子有機ELを使えば、巻物スタイルのTV受信機も可能に

 ただし燐光を使ったプロジェクトは昨年スタートしたもので、実用化までは10年計画とその道のりは長い。それよりも早い段階で、“丸められる超薄型TV”を実現しそうな技術が、「フレキシブルカラーフィルム液晶ディスプレイ」だ。

 フィルム液晶では、液晶層やカラーフィルタを挟み込んだ柔軟なプラスチック基板の間隔を、液晶内のポリマー壁(合成樹脂)が一定に保持するため、数センチ径まで曲げても液晶層がつぶれず、TV映像表示に必要な高速階調動作が可能となる(応答スピードは1ミリ秒以下)。


フィルム液晶のサンプル。基板は非常に柔らかく、写真集ぐらいの紙質のページをめくるぐらいの感覚


技研では大画面ディスプレイ向け技術として、FED(Field Emission Display:冷陰極ディスプレイ)の研究も行っている。会場では、切手サイズほどの試作機も登場

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[西坂真人, ITmedia]

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